目押しが苦手な、マジシャン
本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」の第3章ep.37 アイサイドE、F までを、すでにお読みいただいている前提で書かれております。
未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。
さてと、そろそろアタシも釣る場所を変えないと……。
アタシは一旦釣りのミニゲーム画面を閉じて、次の釣り場へ移動した。
釣る場所とルアーの組み合わせで釣果が変わるから、1か所じゃ終わらないのよね、これ。
「ええと、今度はHP狙いだから……よしっ!」
そろそろ昔の感覚を思い出してきたから、一発で赤いライン上で針を止める。大物を釣り上げてガッツポーズしたところで、
「まじめんど……」
隣で長靴を釣り上げてしまった猫……もとい、ラガマフィンさんが、苛立たしげに針から外した長靴を、地面に叩きつけた。
当たり前だけど長靴の釣果は、最低ランクになってる。
その後も彼女は、魚を逃がしてしまったり、長靴と同ランクの海藻や空き瓶を釣り上げたりしてた。そのたびに、どんどん不機嫌な顔になり……
「もう飽きたぁ! 全然楽しくないぃ!!」
ついに釣り竿を放り投げ、泣き出してしまったので、アタシは慌てて駆け寄る。
「ドンマイドンマイ!」
でもこれに驚いたみたいで、パッと距離を取って、木の陰からこちらを覗き見るラガマフィンさん。
何だか、人慣れしていない猫みたいね。
アタシは警戒させないように、その距離のまま声をかけた。
「えっと、そんなに釣りゲーム苦手なの……?」
「だって全然、赤いラインで止まらないんだもん……。どうやったら、みんなみたいに釣れるの?」
少し落ち着いたみたいで、アタシにゆっくり近づきつつ、そう答える彼女。
「改めてそう聞かれると……何でかなぁ……?」
感覚でやってるもんだから、いざコツを聞かれると、アタシもどう答えていいやらさっぱり分かんなかった。
「とりあえず、アタシがやってみるから、自分と比べて何が違うか見たら?」
「なるほど……」
早速、数回アタシが釣るところを見てもらう。でもラガマフィンさんは難しい顔をしてた。
「全然分かんないぞ……」
「ええっと、じゃあ今度はアタシが、ラガマフィンさんの釣るところを見てるわ」
というわけで、役割を交代してみたものの、やっぱりよく分かんない。
かなり苦手なようで、ラガマフィンさんが釣りゲームをすると、ほとんどの場合は青色エリアで針が止まってた。
「うーん、他の上手な人が釣るところも見てみたいわね……」
「他の人に聞くのか……?」
不安顔のラガマフィンさん。どうも人見知りっぽいわね。
「だいじょーぶ、アタシも一緒だからっ!」
それならアタシが仲介すればいっかと思い、辺りを見回す。
「あ、ねえ! 釣るところ見ててもいい?」
少し離れたところで魚を釣ってるファイターさんを見かけたから、アタシは即、声をかけた。
「俺か? おう、いいぜっ!」
快く承諾してくれたから、早速2人で観察させてもらう。
何回か見てるうちにようやく、これかもってヒントが見えた。
「そっか! ラガマフィンさんはボタンを叩く前に一旦こう、手を振り上げる癖があるんだわ!
多分『押すぞ!』って気合がそうさせちゃうんだと思うけど……。手を振り上げる分ボタンを叩くまでに時間がかかって、針がずれやすいんじゃない?」
「……おお! 意識してみるぞ~」
彼女は深呼吸してから、再度釣りにチャレンジする。
アタシの助言に従い、手を振り上げないように意識したことで、今でよりズレにくくなったけど、それでもまだ黄色エリアに針がずれてしまっていた。
「うう……中々赤色で止まらないぞ……」
「何だ、釣りが苦手なのか。俺のやり方でいいなら、詳しく教えるぜっ!」
「いいの? それ助かるわ!」
渡りに船って、まさにこのことね!
早速そのファイターさんは、釣りのミニゲーム画面をアタシたちの方に向けて、説明し始めた。
「まず俺の場合は、左手で針を止めるんだが……こう、画面にあと少しで触れそうなところに手を置いてる。これならわざわざボタンを見ていなくても、指を少し下げるだけで画面に届くからな」
「そっか、そもそもボタンにちょっと触れれば止まるんだから、叩く必要ないんだっけ」
アタシもつい、早押しゲーム感覚でボタンを叩いてたけど、よく考えたら無駄なことしてたのね……。
「それで、このルアーだと赤色エリアが3時の方向だが、俺の反応速度だと、2時の方向に針がある時にボタン押すと、丁度いい感じなんだ。
だから2時の方向に針が来た時に、ボタン押すようにすると……」
そう言って彼は見事、赤色エリアで針を止め、
「ほらなっ!」
右手1本で、大きな蟹を釣り上げた。
「おおおおおっ!!」
「すごっ! やるじゃんアンタ」
「反応速度は人それぞれだから、後は自分がどれくらいズレるかを把握すれば、釣れると思うぜっ!」
この助言に従って、アタシも釣ってみたら、今までよりは遥かに、大物が釣れやすくなった。
「いいわね、これ!」
「私、どのくらいズラせばいいか、まだ分かんないんだけど……黄色で止まることは増えた。
……あっ!」
ここで初めて、赤色エリアにぎりぎり入らないくらいの黄色エリアで、針が止まる。ラガマフィンさんは、ヒラメっぽい形をした赤い魚を釣り上げた。
「惜しい! でもイイ感じ!」
「今までの見る限りだと……この辺りに針が来た時にボタン押すと、いいんじゃないか?」
そう言って彼は、ラガマフィンさんの釣り画面に指を添える。
「このままにしとくから、釣ってみろよっ!」
「分かったぞ~」
再度深呼吸してから、ラガマフィンさんは指示に従いボタンを押すと……ようやく赤色エリアで針が止まる。
「わ、わっ!」
今までにない強い引きに驚きつつ、釣り上げると……超巨大なサメが針にかかってた。
「お、ラッキー!」
「や、やった……激レアだぞ~!」
赤色エリアで針が止まっても、激レアが釣れるとは限らないから、アタシもこれにはびっくりする。
よほど嬉しかったのか、ラガマフィンさんはそのサメに頬ずりして、キスまでしてた。
「良かったなっ!」
「レフィアンのお陰だぞ~!
ねえねえ、フレンド登録していい? 今後もちょっとだけ、釣りゲーム手伝って」
どうやら今ので警戒心が消えたらしく、自らフレンド登録を申し出るラガマフィンさん。
「おう、いいぜっ!」
「あ、じゃあアタシもっ!」
というわけで、3人でフレンド登録しあった。
「ありがと。今度レフィアンが困った時があれば、私が助けるぞ~」
「アタシは今教わったこと、他の人にも共有していい? 多分釣りが苦手な人、他にもいっぱいいると思うのよ!」
「勿論いいぜっ! 選抜チームメンバーや候補は特に、釣れないと死活問題だしなっ!」
こうしてこの釣りゲームのコツは、ワールドチャットで伝達されることになって、みんなから大いに感謝された。
その後、ラガマフィンさんとレフィアンさんが、2人で釣りをする姿が複数回目撃されることになる。




