中二病な、レンジャー
本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」の第3章ep.43 銀等級昇格 までを、すでにお読みいただいている前提で書かれております。
未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。
三段渦紋亀を倒した次の日の適性者ギルドは、朝早くから騒がしかった。
「うーん、こうしたほうがいいかしら? それともこっちの方が……?」
「何をそんなに、真剣に悩んでるの?」
適性者ギルドの壁に設置されている大きな鏡の前で、ぶつぶつ言いながら色々なポーズを取るレンジャー……よー子さんを見つけ、アタシは声をかける。
よくぞ聞いてくれたとばかりに、よー子さんはアタシの方にクルリと向き直ると、
「我は堕天使、世界の真理を暴く者なり!」
そう言って、「暴く者なり!」のところでポーズをビシッと決めた。え、これどう反応すればいいの?
「どう? 今の登場方法、キマッてたかしら?」
その一言で、彼女の悩みを瞬時に理解したアタシは、少しだけ悩んでから答えた。
「ええっと……そういうのアタシはあんまり分かんないんだけど、登場方法をどうするかで悩んでたの……?」
「勿論よ! もうじき仲間の選抜メンバーに、挨拶することになるかもしれないのよ? そうなったら私の雄姿を、みんなが観戦するかもしれないわ! そのために今から、しっかり準備しておかないと!」
ってことは、水属性の選抜メンバー候補ってことよね? 観戦されることで緊張する人は大勢いるけど、テレビ映りを気にして準備する人は、初めてだわ……。
「第一印象がすごく大事だから、失敗できないじゃない!?」
「まあ……そう、ね?」
方向性は他の人と随分違うけど、気持ちは分からないでもないか。
とはいえアタシ、ホントにそういうの、よく分かんないのよね。
「あ、もしかしたら……あの子ならいい意見言ってくれるかも? ちょっと待ってね……」
興味ありそうな人に心当たりがあったから、そう言いおいて、アタシは個人チャットのページを開く。まだ早い時間だけど起きてたみたいで、すぐに返事が来た。
「今から来てくれるって」
「ペンタスお姉ちゃん、おまたせ!」
よー子さんに結果を伝えるや否や、適性者ギルドにワープしてきたDylica君は、手をぶんぶん振りながら近づいてくる。それに気づいたよー子さんは、
「我は堕天使、世界の真理を暴く者なり!」
さっきと全く同じ台詞とポーズを、ビシッと決めた。
「わああ、凄い、カッコいい!」
予想通り目をキラキラさせて、拍手するDylica君。うん、助っ人として呼んで正解だったわ。
よー子さんも、まともな意見をくれる存在が来たことに、満足げだった。
「今のポーズの他にも、こういうのとか、こういうポーズとかを考えてたのよ。どれが一番いいかしら?」
「ええっ、そんなに色々あるの!? それは迷うね」
しばらく色々なポーズを見せる彼女に、1つ1つ反応するDylica君。やっぱ男の子って、こういうの好きなのかしら?
ポーズを一通り見せ終わったみたいで、若干お疲れ気味のよー子さんに、Dylica君は真剣な眼差しで意見を言った。
「どのポーズも捨てがたいんだけど、僕はね~、今のポーズをいくつか組み合わせた方が、カッコいいと思うな!」
「ポーズを組み合わせる? 具体的に聞いてもいいかしら?」
「えっとね~、今のは『暴く者なり!』のところしかポーズなかったでしょ? その前の部分でもポーズがほしいよ!!」
「なるほど、確かにそうだわっ!」
というわけで、今度は2人であーだこーだと悩み始める。これ私、もういらないかしら?
「何だなんだ? 2人してさっきから、カッコいいことしてるな!」
その場を離れようか迷ってたところで、今度は日課の早朝トレーニングを終えた照輝さんが加わる。
照輝さんもこういうの、好きなんだ……。
「いいところに来たわね! 私の渾身のポーズを見てくれるかしらっ!」
「よー子お姉ちゃん、頑張って!」
早速2人して考えた新しいポーズを決めるよー子さんに、照輝さんはうんうんと頷いた。
「なかなかいいな! だがこのポーズは、何を強調したいんだ?」
「強調……? もっと分かりやすく言ってくれるかしら?」
「例えばボディービルのポーズにある『サイドチェスト』は、腕の太さや背中、脚、肩など各部位の厚みを強調するポーズだ。『バック ダブルバイセップス』だと、広背筋と脚を強調するポーズだな」
言いながら、実際にそのポーズを見せる照輝さん。
「今のポーズは、台詞とセットなんだろう? だったらもっとこう、強調するものがあるんじゃないか?」
「そっか、台詞とポーズがリンクした方がいいのね!」
「あと全体的にもっと、指先・足先まで意識してビシッと決めた方がいいなっ!」
と、今度は3人であれこれ悩み始めた。
「ペンタスさんはどう思う!?」
「あ、うん、そうね? いいんじゃない?」
完全に逃げるタイミングを失ったアタシは、観念してその場に残る。
「じゃあ最初の『我は堕天使』のところは、堕天使をイメージしたこの、額の紋様を強調するポーズにして……」
「そこでわざと、手で目を隠しぎみにした方が、紋様の方に目が行くんじゃないか?」
「うんうん、それカッコいいよ!」
凄く楽しそうに意見を出し合う3人は、ついに納得のいくものができたようで、喜び合った。
「じゃあペンタスさん、改めて披露するから見てねっ!」
「わ、分かったわ……」
大きく1つ、深呼吸するよー子さん。それを見つめるDylica君と、照輝さん。
「我は堕天使、世界の真理を暴く者なり!」
最初と同じ台詞だけど、見せ方を意識した一連のそのポーズは、アタシの目から見ても確かに、カッコいいって分かるものだった。
「凄っ、ヒーローショーに出る役者さんみたい!」
アタシの素直な感想に、よー子さんはかなり満足したようだった。
「だがこれ、もっと短い台詞のバージョンもいるんじゃないか?」
「え゛っ!?」
「そうだね! 台詞どうするの?」
「そうね……『堕天使、降臨!』でどうかしら!?」
こうしてアタシは、もう1ポーズが決まるまで、生暖かく見守ることになった。




