ツンデレな、レンジャー
本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」の第3章ep.37 アイサイドE、F までを、すでにお読みいただいている前提で書かれております。
未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。
「凄いすごい、みんなやってくれたわ! ……って、あれっ?」
三段渦紋亀との戦いが終わって、先輩たちと喜びを分かち合ってたところで、観戦エリアを追い出されたアタシは、突然のことにどうしていいか戸惑ってた。
「まずは地属性選抜チームのみんな、お疲れ様!
ゆっくり祝ってあげたいところだけど、今日からはもう一仕事待ってるよ。みんな分かるよね?」
そんな中、Rockさんにそう説明され、アタシはようやく思い出す。
「そう言えば、釣りのミニゲームができるようになったんだっけ……」
このミニゲームは、釣果で得られる報酬でステータスを上げられるから、全員やらないって選択肢がないのよね。
というわけでアタシは、適性者ギルドでクエストクリアを報告して、水晶等級に昇格して即、湖沼地帯(昼)に戻った。
「えーっと、アタシの場合はプリだから、HPか魔法防御狙いからかしら……?」
雑魚戦闘にしか参加しないとはいえ、サボるわけにはいかないから、アタシは魔法防御報酬が貰える魚狙いで場所を決める。すでに何人かが釣り糸を垂らしてたから、隙間を見つけて入り込んだ。
あれっ、この隣にいる人って……。
「さっきはお疲れ!」
「ありがとうございます」
アタシがそう声をかけると、「地属性選抜チームのレンジャーさん」こと、たろ吉さんは、「担任の先生」ボイスらしく、丁寧なお辞儀をしつつそう答えた。
「ねえ、アタシの勘違いだったらゴメン。確か、このゲームに閉じ込められたばっかりの時に、アタシを介抱してくれたわよね?」
「…………ああ、そう言えば! あの時、過呼吸になってた方でしたっけ」
「そうそう! やっぱり合ってたのね」
アタシは自分の記憶が正しかったことに安堵する。
実は声をかけようと思ったのは、まさにあの時のお礼がしたかったからなのよね。
「あの時はあんがとねー!」
「いえ、できることをしたまでです」
そう言いながら、たろ吉さんは器用に赤いライン上で針を止め、大物を釣り上げた。
そして何故か、大きなため息をつく。
「もしかして何か、悩みでもあるの?」
「悩みというほどのことではありませんが、先生もペンタスさんを見習って、ちゃんとお礼を言わないといけないなと思いまして」
「えっ? ……あっ、あー!」
思い当たることが1つだけあったので、アタシは思い切って聞いてみた。
「もしかして、三段渦紋亀と戦ってる時に気絶したのと関係ある?」
「……よく見てますね」
「気になってたもんだから、ちょっとね」
たろ吉さんはあの時、三段渦紋亀から受けた攻撃で気絶してたけど、あわやというところで目覚めてくれたから、ギリギリ倒せた。
でもその目覚め方が、気になってたのよね。
「タイミングが良すぎたってのもあるけど、起きた時に顔が赤かったから、もしかして誰かに個人チャットで起こされたんじゃないかなって思ってたのよ」
アタシも小魚を釣り上げながら、感じたことを言う。どうやら図星だったようで、たろ吉さんは目を伏せた。
「正直あれは助かりました。ただ、起こし方がアレなだけに、素直にお礼しにくいと言いますか……」
「ふうん? ちなみに何て言われて起きたの?」
「…………『起きて7時半だよ!! 弁当ーーー!』です」
「……んん?」
どのあたりが「アレ」なのかはさておき、それで起きるとしたら、日常的にそう言われてるってことだと思うんだけど、内容がどう考えても……。
「もしかして、相手は一緒に暮らしてる人……?」
そうでないと、さすがに言いそうにないセリフよね?
「ええ、まあ」
そう言いながら、たろ吉さんはまた大物を釣り上げた。
「そんなに親しい人なら逆に、お礼言いやすそうなのに」
「言い慣れてないんですよ、先生が。それに立場上、特別扱いされるわけにもいかないと言いますか……」
「お礼言うだけなら、ここで大物を釣り上げるより、簡単そうよ?」
ここでようやく大物を釣り上げたアタシは、それをたろ吉さんに見せながら、そう答えた。
「……そうですね。少し頑張ってみますか」
「あーっ! やっとママ見つけたよ」
そろそろルアーを変えて釣ろうかと思ったところで、Rockさんがそう言いながら駆け寄ってくる。そう言えばこの2人、いつもお互いのことをパパ、ママって言いあって……ああっ!
「もしかしてあの時、たろ吉さんを起こしたのって……!」
「ん? そうパパ! ママが寝坊した時、いつも『愛妻弁当』って言えば起き……ぶほっ!」
「何でそこで、勝手にバラすんですかっ!」
言い終わる前に、たろ吉さんがRockさんの鳩尾に拳を叩き込んで、強制的に黙らせた。
なるほど。本当は言われたの「弁当」じゃなくて、「愛妻弁当」だったわけね。
確かにそんなことを、ワールドチャットか個人チャットか分からない状況で言われたら、焦って起きるかも……。
「さすがママ……いつも通りだね」
Rockさんは殴られた箇所をさすりながら、そう言って立ち上がった。
それがいつも通りなんだ……。
「つまり、Rockさんとたろ吉さんはその……リアル世界では夫婦ってこと……?」
「ええ、まあ……。
この世界ではお互い性別1アバターなのもあって、色々誤解されないように公表してないんですけど、どうしてもパパって言ってしまうんですよね。本名口走るよりはいいかと、諦めましたけど」
特別扱いされるわけにはいかないって、そういうことかぁ。
「まあでも……しょ、正直その……助かり、ました……」
たろ吉さんは、極力Rockさんと目を合わせないようにしつつ、何とかそう言うと、
「ママ、お礼はキスかハグでいいよ!」
「嫌ですよ! ここなら子供たちの目がないからって!」
Rockさんがニヤニヤしながらそう言ったので、再度殴りかかったけど、これはあっさり避けられる。
「性別1同士が気になるなら、パパが性別2アバターに変えようか?」
「そ、それでもこんなところではしませんっ!」
「そっかそっか、個人部屋にいる時がいいよねぇ、そうしようか」
たろ吉さんは、Rockさんに頭を撫でられつつそう言われたのがお気に召さなかったようで、
「私はあっちで釣りますから、付いて来ないでくださいっ!」
頭の手を振り払い、真っ赤になりつつそう言い放ってから、別の釣り場に行ってしまった。
「つれないなぁ」
Rockさんが海藻を釣り上げながらそう言ったのが、釣果のことなのか、たろ吉さんのことなのか判別つかなかったけど、何だかんだでこの2人、仲がいいんだろうなと思った。




