笑顔を絶やさない、ファイター
本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」の第3章ep.37 アイサイドE、F までを、すでにお読みいただいている前提で書かれております。
未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。
実はアタシには、前々から気になってる人がいる。
いや別に、恋愛感情とかそんなんじゃないんだけど!
「ペンタスさん、チーっス! 今日も頑張るっス!」
常に笑って、朝みんなに挨拶するこのファイターさん……プレイヤー名が(≧▽≦)ってなってるんだけど、どう呼べばいいか全く分かんないのよね。
「おはよう! 今日も元気そうね」
なので仕方なく、いつも名前を省いて返事してるんだけど、向こうはいつも名前を呼んでくれるから、「さすがにずっと名前を呼ばないのは失礼かな?」と思うのよね……。
だからアタシはこの日、意を決して聞くことにした。
「ところでさ……今更かもしんないけど、その名前、何て呼べばいいの……?」
すると(≧▽≦)さんはすぐに、笑顔で答えてくれた。
「ああ! 別に決まった呼び方はないっス。だから好きに呼んでいいっスよ!」
「それはそれで困るんだけど……」
「みんな1度はそう言うっスねぇ。一応、昔から『顔文字さん』とか、『笑顔さん』って呼ばれることが多かったっス!」
やっぱ困ったのは、アタシだけじゃないんだ。
となると、ぶっちゃけ笑ってるところしか見ない人だから……。
「じゃあアタシは、笑顔さんって呼ぶことにするわ」
それが一番しっくりくるな、って思った。
「ねえ、そもそもどうして、笑顔さんは名前を顔文字にしたの?」
「適当っス!」
即答だし。
多分今までに、アタシと同じ質問をした人は大勢いたんだろうな。
「適当っスけど、何て言うか……俺、どんな時でも、みんなに笑ってて欲しいんっスよね。だから色んな顔文字の中でも、(≧▽≦)にしたんじゃなかったっけなぁ……」
どうやら自分でも、あんまり覚えてなさそうね。
「名前で困ることとか、ないの?」
「どっちかってーと、助かってるっス! 初対面の人と話すきっかけになるし、大抵の人は笑ってくれるっスよ!」
……なるほど、確かにアタシもそれだわ。
「それに、笑ってるだけで何かこう、元気にならないっスか?」
「確かに。元気があれば何でもできる、てね!」
「そうそう。だから俺、どんな時でも笑うことにしてるっス」
そう言って彼は文字通り、ニカッと笑った。
おっと、そろそろクエスト討伐の時間が近づいて来たから、適性者ギルドに人が集まってきたわね。
丁度その時、アタシは久しぶりに見る顔を見つけたので、声をかけようとしたんだけど、
「あ、クリフさんもチーっス!」
先に笑顔さんが、声をかけた。
「ひっ!? あ、おは、おはよう……。あれ、ペンタスさんも……?」
「クリフくん久しぶり! 元気にしてた?」
「えと、はい。な、何とか頑張ってます……」
恥ずかしそうにそう答える彼は、以前見かけた時よりもずっと、いい顔をしていた。
「あれっ、ペンタスさんとクリフさんは、知り合いなんスか?」
「うん、ちょっとね」
深い話はちょっとできないから、アタシはそれだけ答える。笑顔さんは特にそれ以上、突っ込むこともなかった。
「笑顔さんこそ、前からクリフくんと知り合いだったの?」
「今、同じ装備集めパーティっス!」
なるほど。少なくともクリフくんから話しかけることはないと思ったけど、そういうことか。
「でも実は何かこう、初めて会う気がしないんっスよねぇ……。昨日からずっと考えてるんっスけど」
「えっ? じ、実は僕も……」
「へえ、そうなの? 前作で共闘してたとか?」
「そういうのじゃないと思うんっスけど……」
昨日から考えても理由が分からないみたいで、2人して首をひねってた。
「じゃあ……実はリアルの知り合いとか?」
「…………っ」
アタシの言葉で、クリフさんが何かに気づいたようで、小さく息を飲む。
「いや、でも……そんなことあるわけないよね……?」
「えっ、ホントにリアルの知り合いなの?」
「い、いや……それは分からないですけど……。でも、クラスメイトに似た雰囲気の人がいるなって、思ったんです……」
「クラスメイトってことは、クリフくんも学生?」
「は、はい。高校生になったばかりです……」
それを聞いて、ちょっと驚く。
「マジっスか!? 俺も春に高校生になったばっかりなんスよ! ちなみに俺、首都圏に住んでるんッスけど?」
「ぼ、僕も首都圏です……」
さすがにそれ以上の個人情報を大っぴらに話すのはまずいと思ったようで、(≧▽≦)さんはクリフくんにだけ聞こえるよう、耳打ちする。
「ええっ!? ぼ、ぼ、僕もその高校なんですけど……!」
これはいよいよ、あり得るかしら?
「うわぁ、こんな偶然あるんっスねぇ! 俺、ずっと1人でスカオーしてたから、語り合えるリア友いないんっスよ! リアルに戻ったらすぐにでも、会いたいっス!」
「いやでも……僕はその、学校でも暗いから……」
「だったら俺が、笑顔にするっス!」
そう即答した(≧▽≦)さんを直視できず、クリフさんは目を伏せた。
「アタシはいいと思うな、クリフさんにリアルの味方ができるなら。ねっ?」
以前彼はいじめられっ子だと言ってたから、1人でも多く彼の味方が増えるなら、心強いはず。
それがちゃんと伝わったようで、クリフさんは小さく頷いた。
「そうと決まれば、フレンド登録っスね!」
「も……もちろんだよ……!」
「待って待って、アタシも!」
若干押され気味だけど、クリフくんにとってこれが、自分が変わるための大きな1歩になればいいな。
「そうなるとクラスメイトの1人の可能性があるんっスよねぇ? 誰っスかね……。うーん……いやでも、あれは女の子っスし……」
「そそ、それよりもう、討伐に行かないと……!」
「そうね。今日もお互い、頑張ろっ!」
その日の午後、三段渦紋亀と対峙した際にニヤリと笑った(≧▽≦)さんを見て、彼なら本当に、クリフさんをいじめてる人も笑顔で撃退してくれるかもなって思った。




