優雅に過ごす、プリースト
本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」の第2章ep.29 アイサイドC、D までを、すでにお読みいただいている前提で書かれております。
未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。
「おはよう!」
女子会から一夜明け、アタシはその日のデイリーガチャを終えると、花図鑑部屋に揃っていた先輩たちに挨拶した。
「ペンタスちゃんも、おはようやで」
この時間に集まってるのには、勿論理由があるわけで……。
「うぅ……ねみゅいよぉ……」
「藤ちゃんは朝が苦手だもんにゃヾ(⌒(_*Φ ﻌ Φ*)_」
「そういえば今日は、藤先輩が当番でしたっけ?」
実は一部の人が朝早くから何かをしていることが分かったから、今朝から念のため、当番制で見回りすることになったのよね。これからその、報告会ってわけ。
「じゃあ気合い注入やっぞ!」
「ふえぇ……」
あまりに眠そうだったので、向日葵先輩が背中を叩いて目を覚まさせると、藤先輩はこれ以上叩かれてはかなわないと思ったのか、報告を始めた。
「今朝もねぇ~……ペンタスちゃんに聞いてた通り、照輝さんがトレーニングしてたよぉ~……。
あとぉ~……、1人で森林地帯(昼)に向かう子を見つけたから、追いかけてみたのぉ~……」
◆◇◆◇◆
念のため普段とは全く違う、男の子のアバターに変えたあたしは、その子に気づかれないように、少し距離を置いて追いかけた。
頑張りすぎる人を抑制する目的で、「指定時間外にクエストクリアを目指すのは禁止」ってことになってるから、念のため見てたけど、この子はクエスト持ってなかったなぁ~……。
すると意外なことに、その子は普段みんなが進む方とは真逆の道に進んでいったので、ますます目的がわかんなくなった。
「ここは……」
知る人ぞ知る、とても小さな花畑。小さすぎて敵も設置されていないこの場所の端に、忘れられたように置かれた切り株に座ると、その子……Ruyさんは目を閉じ、日光浴を楽しんでるようだった。
すぐ近くを流れる小川のせせらぎを聞きながら、のんびり過ごす時間。
考えてみたら、こんな時間の過ごし方は、とても贅沢になっているのかもしれないなぁ~……。
と、5分程度経ったところで何かを思いついたようで、Ruyさんはおもむろに管楽器の形をした風属性の武器を取り出した。
1音1音、確かめるように吹く。意外にも、ちゃんと音が出てる。
調整が終わったのか、大きく息を吸い込んでから、Ruyさんは演奏を始めた。
「この音楽……スカイオーシャンのテーマソングだぁ~……」
早朝にふさわしく、ゆっくりとしたテンポでの演奏に、つい耳を傾ける。
上手ぅ~……、しゅっごいよねぇ……。
音楽が2周したところで演奏が終わったので、思わず拍手してた。そこで初めてあたしの存在に気づいたRuyさんは、
「あ、ありがとなんだぞっ」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら、そう言った。
「いつもここで演奏を?」
「ここにはいつも来てるけど、演奏は今日が初めてだぞっ。戦うばっかりだと、気が滅入るだろっ? ここなら敵が来ないから、1人でものんびりできるしっ!」
なるほど、気分転換のために来てたんだ。よかったぁ~……。
「1人で討伐エリアに向かうの見つけて、つい追いかけてしまったけど、ちょっと得した気分です」
「ほ、褒めても何も出ないんだぞっ! 別に私の腕じゃないしっ」
「えっ? でも……上手でしたよ?」
謙遜してるのかと思ったけど、Ruyさん的にはそうじゃなかったらしい。
「えっとなー、武器ってどれも使うと勝手に、事前に決められた動作をしてくれるだろ?」
「そうですね?」
「これも武器だからだと思うけど、『こんな音を出したいっ』て思って吹いたら、その通りに音が出たぞっ!」
知らなかったぁ~……。まあ、試そうとも思わなかったから、当たり前だけどぉ~……。
「ということは、僕もできるかな?」
試しに、楽器を模した武器を探してみる。丁度ハンドベルの形をした魔導具があったので振ってみたら、確かに普通ならあり得ないことに、1つのベルで音階が出せた。
「これ、面白いですね」
「なーっ!」
ただ、さすがに通常と違う使い方だからか、あたしには綺麗な音楽を奏でられなかった。
使うタイミングくらいは気を付けないと、うまくいかないっぽいなぁ~……。
しばらく男の子の姿のまま、Ruyさんと色んな楽器型武器の使い方を試してみる。
「これ、もしかして琴を模した武器を、バイオリンの弓みたいなものでこすったら、バイオリンっぽい音出るかな?」
「持ってる人に試してもらいたいですね、それ」
「うんうん」
こうして優雅な時間は過ぎ、クエスト取得が可能な指定時間間近になったので、あたしたちは適性者ギルドに戻った……。
◆◇◆◇◆
「って感じだよぉ~……」
「じゃあ、心配してたことはなさそうだポン!」
「あ、それはねぇ~……、まだ分からないかもぉ~……」
「他にも何かあるのかい?」
藤先輩は何かを思い出すように視線を左上あたりに向け、続けた。
「丁度適性者ギルドに戻ったところでぇ~……、一瞬だけ、事前に聞いてた子を見たのぉ~……」
「場所はどこやったん?」
「んとねぇ~……、救護室の近くぅ~……?」
「ワーオ!」
ということは、やっぱりアタシの懸念は当たってるかもしれないんだわ。
「藤ぃ~! バリバリすれ違ってるじゃんよ!」
「うぅ……ごめんねぇ」
とはいえ、こればかりは仕方ない。次回以降も警戒を続けることで、その日の早朝報告会は終了となった。




