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65.光に見えたのは……

 「無理ね」


 玲夢と電話で話した翌日、戸田嶋は出社早々、小巻主査を捕まえて相談した。社長に再交渉できないか、と。

 だって一応は一次審査を通ったのだ。

 何も廃業しなくったって……。


 「その話はこないだの朝礼の前に、もうさんざしたのよ。コンペの結果が出るまで待って欲しいって。だって利益がでるんなら廃業する必要がないじゃない。そう思うでしょう」


 「はい……」


 「普通じゃないから、あの人は。一旦そうと決めたら滅多なことじゃ考えを変えないの。プライドが高いの。自分が心変わりすることを恥だと思ってる。だからあのとき言ってたでしょ、コンペは辞退の方向でよろしくって」


 交渉の余地もない、ということらしい。

 闇の向こうに見えた光は、どうやら幻だったらしい。




 「ところであの」

 戸田嶋はお腹のところで手をぽっこりと動かして小巻主査の目を見た。


 「ああ、梨田から聞いた。あんたも大変ね」


 「ほかのメンバーには?」

 今日は青木が出社している。

 その青木を見て、小巻主査は首を横に振った。


 「何とかしてやりたいんだけどさ、今回の件ではがんばってくれたし」

 小巻主査は軽くため息を吐いた。



 

 「あのぉ」

 青木が締まりのない声で会話に入ってきた。


 「こないだWebサイトのデザインやってあげたコスモクリエイトさんから、オンラインゲームの作成に関わって欲しいって言ってきてるんですけど」


 「君、ゲームなんて作れんの」


 「むかし遊びでちょっとやってたくらいですけど、プログラムなんて原理は同じですから、まぁ」

 小巻主査が身を乗り出した。


 「いいじゃない、やんなさいよ。あんた技術があるんだからそっちで生きる道探せばいいのよ」


 「それが、会社として請けてくれないかって話で」


 「なんで」


 「ゲームのキャラをホームページでも動かしたいらしくって……、て、別に僕じゃなくてもできそうなんですけど、一応、サイトのデザインに関わったウチに義理立てしてるって感じですね」


 「いいよ、じゃあ会社として請ける。君、独立するんなら仕事は持ってっていいからさ」


 「あとセキュリティーソフトの運用についても、一件、相談がきてるんですが」


 「いいよ何でもやって、青木の将来に繋がるんだったら」


 「了解っす」

 青木はパソコンに戻っていった。


 今の社会、ITに強い人材は引く手数多(あまた)だ。優れた頭脳は、上場企業に(こだわ)らなければ買い手はいくらでもいる。


 自分も何とかしないと。


 戸田嶋は、卒業した専門学校に転職先を紹介してもらえないかと考えていた。この際、下請けでもなんでもいい。内職みたいに自宅でできるデザインワークの下働きでもあれば……。


 でも一方には、そんな都合のいい仕事なんてそうそうないし、あったところでそれで子供を育てようなんて

 『甘い』

 そう思っている覚めた自分もいる。


     ☆


 戸田嶋は柏崎家を訪れて、すべてを話すことにした。

 この状態をひとりで抱える続けるなんて無理だ。


 気が重い仕事をあとに回して悶々としているより、少しでも早く現状を共有して、今できる最善の方法を考える。そうして前に進むしかない。

 なにしろお腹の子は、こうしている間も日々刻々と育っているのだ。春には生まれてくるのだ。



 再びあのお母さんと対峙すると思うと恐怖すら感じるが、もうあれだけ言われたんだ。

 今度はもう少し優しく……、なるわけないか、はぁ~。

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