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 談話室で窓の外を見ている蓮は、あまり元気がないようだった。

「……千弦、早く帰ってこないかなぁ」

「帰って来るの、楽しみですねぇ」

 春介と愛梨がやってきて、蓮の心の内を代弁するかのように呟いた。

「無理だろ。あいつ、神なんだろ?」

 蓮は、どこか諦めた表情で言った。

 千弦は今まで、神としての力をコトリバコ解呪に使っていた。普通の使い方は知らない。

 神の力は、容易に自然災害を起こせるぐらいには強大。

 千弦の雷だと、どんなに威力を落としても『隕石でも落ちたのかな?』というぐらいの巨大なクレーターが確実にできるぐらいだ。

 人間界で暮らすには、危なすぎる。

「でも、千弦先輩はすぐに戻って来るって言ってましたよ」

「いやいや。考えてもみろよ。あいつ、たぶん神の力を使えるようになる為に高天原に行ったんだろ? いくらあいつが、妖力の扱いが上手いからって、そんなすぐに帰ってこねぇって」

 可能な限りいつもの調子で答える蓮だが、やはりどこか声音に覇気がない。

 実際、神使等は短くても数百年、修行した末に神になる。さすがに、元から神の力を持っているので神使よりは修行期間は短いだろうが、さすがに数十年程度では帰ってこれないだろう。

 下手すると、千弦が帰って来る前に自分達が転生してしまうかもしれない。


 だが、そんな予想に反して。

「あ、いたいた。ただいまー」

 千弦が、何事もなく帰ってきた。


「あー、おれもやっぱり寂しいのかなぁ。千弦の幻聴が聞こえるや」

「私もです。……早く、帰ってこないかなぁ」

「そうだな……」

 しかし、三人は気がついていなかった。

「いやいやいや! 幻聴じゃないよ! 僕、本物! 千弦!」

「幻聴じゃないってさー」

「あっはっは。千弦なら、絶対ぇこうツッコミするだろうなぁ」

「ずいぶん精巧な幻聴ですねぇ」

 しかし、気がついた様子はない。


「……」

 千弦のこめかみが、ピシッと引き攣った。

 イラついたので、蓮に秘密にするよう頼まれていた事を暴露する事にした。

「春介が前に買ってきたリターノママの期間限定新商品の生チョコカスタードパイシューを食べたの、蓮と灼だよ」

「あやべ」

 思わず口を衝いて出る蓮。


「お前やっぱり食ってたんじゃないかッ‼‼」


「食われたくなきゃ紙袋に名前書いとけやッ‼‼」


 瞬時に殴りかかる春介と、開き直る蓮。

 愛梨を巻き込まないよう即座に少し離れるあたり、さすがと言える。

「ちょ、春介さん‼⁉ 蓮先輩も、開き直らないで……‼ っていうか、何で私の幻聴もそんな事を……。って、ええええええええええーっ⁉」

 やっと愛梨が、実物の千弦に気がついたようだ。


「春介さ……! って蓮先輩! 1度羽交い締め解いて下さい! そのまま押し倒したら顔面からいっちゃ――春介さん合気落としかましたっ⁉ 蓮先輩その体勢で蹴り入れられるんですか⁉ 百裂拳やめて下さい‼ レンシロ……蓮先輩‼‼」

 うっかり蓮と北斗◯拳主人公の名前が混ざるぐらい混乱しているが、言葉で何とか制止しようとする愛梨。

 さすがに、死ぬと思うので間に分け入る勇気はない。

「ガァア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ‼‼」

「グル"ァア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ‼‼」

 あんな、野獣の縄張り争いみたいな取っ組み合いを丸腰で止めようとする者がいるなら、余程の猛者か自殺志願者かドMかただのバカぐらいである。

 そうこうしている内に、春介の関節技が決まった。

「ちょ、春介さん‼ 足搦ダメ‼ それ禁止技‼‼ 蓮先輩も、靭帯痛めるからビッタンビッタン暴れない‼‼」

 春介の食べ物の怨みは、(蓮に対してのみ)ものすごく恐ろしい。


「本物! 幻覚じゃなくて本物の千弦先輩いる!」

「「えっ、マジで⁉」」

 それでやっと、二人も千弦に気がついたようだ。

「……ただいま」

 一切の躊躇なしで相棒に禁止技かます春介と蓮の暴れっぷり、そして敬語をかなぐり捨てる愛梨に引きつつ、改めて言った。


 春介が足搦を解くと、三人が千弦を囲む。

「何でここにいるんですか⁉」

「お前、高天原行ってたんじゃねぇのか⁉」

「もう神様の力、使いこなせるようになったの? 早すぎないかい⁉」

 と、質問攻め。

「うん。高天原には行ってきたよ。ただ、神の力を返上しにだけど……」

 どうやら千弦は、神の力を使いこなせるように修行しに行っていたのではなく、消しに行っていただけのようだ。

「え、じゃあもう神様の力ってないのかい?」

「うん。だから、僕はもう神様じゃないよ」 

「何でだよ? 神様って、すげぇ身分高いんだろ? そりゃ、神の力って強すぎてすげぇ面倒そうだけど……」

「いやいや。僕にはそんな身分、荷が重すぎる」


 それにと、千弦は続けて言う。

「神の力は、コトリバコを解呪するのに必要だから持ってただけ。コトリバコが解呪されたなら、神の力は僕にとって無用の長物……むしろ、余計な長物だよ」

 確かに、神の力は強大だ。神としての身分も合わせて、人によっては欲しがるかもしれない。

 しかし、千弦は目的の為に必要だったから持ってただけ。コトリバコ解呪という目的が、他者の手によってとはいえ達成された時点で、神の力も身分も重荷以外の何物でもなかった。


「言えよ! 春介と愛梨、すげぇ寂しがってたぜ?」

「それは蓮だろー!」

「それは蓮先輩でしょっ!」

 蓮が春介と愛梨に転嫁すると、二人はツッコミ入れた。

「ごめんごめん。色々考えたら、テンパっちゃって」

 千弦は、改めて謝罪した。


「千弦……?」

「んぇ⁉ もう帰ってきてた!」

 名前を呼ばれて振り返ると、花耶と灼がいた。ちょうど、墓参りから帰ってきたところのようだ。

「花耶、ただいま!」

 千弦が微笑みながら言うと、花耶は飛びついた。

「おかえり……! 千弦……っ」


 ようやく、彼らの日常が戻ってきた。

蓮以外への反応

春介「ところで灼ー。前におれのシュークリームを蓮と食べたの、本当かい?」

灼 「ごめん。つい、腹が減って……」

春介「今回はいいよー。ただ、もうやらないでねー」

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