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「灼。手伝って、くれて、ありがとう」

「おう」


 花耶、咲耶、灼は、かつて花耶と咲耶の住んでいた屋敷の跡地に来ていた。

 ここの土地神に許可をもらい、簡易的な墓を作っていたのだ。

 咲耶や花耶では、大きい石は運べない。なので、灼に手伝ってもらっている。

 知っている限りの故人の名前を油性ペンで書いた大きな石を建てただけ。死体もない、墓と呼べるのかすら怪しい物となってしまったが。

 もう、彼らの魂がないのは分かっている。

 いくら祈っても、届き先がない。


 この弔いは、自分達の為だ。

 たとえ、もうほぼ面影がなくなったとは言え、この野原は自分達の故郷だ。この墓石は、その証である。

 今は無き両親や、兄の思い出に浸れる場所。


「……ぐすっ」

「ひ、ぐ……」

 作り終わって手を合わせると、涙が出てきた。

 灼も連れてくる以上、気を使わせないように泣かないと決めていたのに。

 いつかまた、泣かずに墓参りに来れるよう、早く立ち直れるように願った。


◆◇◆


 墓参りの帰り道。

「花耶。これ」

 咲耶は、花耶に三本の組紐を手渡した。

 これは、両親の婚礼記念日のプレゼントに、時雨が材料を買ってきて花耶と咲耶で作った物だ。二本は両親に。一本は時雨に作ったのである。

「組紐は、花耶が持ってて」

「え、何で?」

「一本か二本ぐらい、咲耶が持っててもいいんじゃねーか?」

 小首を傾げる花耶の後ろから、灼も覗き込んで言う。

「兄ちゃんが大事にしてたとはいえ、もう所々ほつれてる。花耶の方が手先器用だから、修繕したり、手入れしたりできるだろ? 俺が持ってるよりも長持ちすると思う」

「……これ、形見。咲耶は、持って、なくて、いいの?」

 淋しくないのだろうかと、花耶は心配になる。

「俺は念写能力持ってる人に頼んで両親の写真を撮ってもらうから、平気っ!」

 咲耶は、淋しさがにじみつつも気丈に笑ってみせた。

(……咲耶は、強いなぁ)

 自分と同じぐらい悲しいだろうに、前向きだ。組紐も、手入れの事ももちろんあるだろうが、花耶の心の慰めになるようにと渡してくれたのだろう。


「あの、ね。黒い、靄に、包まれた時、お兄ちゃんの、声で、『幸せに、なれ』って、聞こえた」

 花耶は、黒い靄に包まれた時の事を二人に告げた。

 さらに、常夜の病院で診てもらって知った事だが、花耶に刻まれていたコトリバコの呪いは消えていた。

「たぶん、お兄ちゃんが、コトリバコ、解呪、してくれたと、思う」

「んぇ、マジ⁉ コトリバコって、神でも中々解けねーしつこい呪いなんだよな?」

「確信は、ない。でも、いつ、解けたか、考えたら、その時が、1番、しっくり、くる」

 驚く灼に、花耶は頷きつつ言った。


「できるかどうかはともかく、兄ちゃんなら絶対にやると思う。兄ちゃん、みんなにも優しいけど花耶の事は女天狗ってのもあって、溺愛してたから」

 思い出話をしたいのか、溺愛の例も話す。

「酒飲んで酔っ払った時、父上と一緒に花耶に縋り付いて『嫁にやりたくない‼‼』って号泣してた」

「そんな漫画みたいな状況あんの⁉」

 ちなみに、妖怪は十五歳で元服する。人外界の方の日本では、法律的に酒を飲んでも問題はない。

「あったよ。花耶、本気の婿抹殺計画を両隣から聞きながら、虚無な目してた」

「それって、こんな感じの目か?」

 ぷにゅう。

 灼は花耶の頬っぺたを軽く潰して見せた。

「そうそう! こんな感じ!」

 咲耶は笑いながら言った。

(……何故、実演……)

 意味が分からず、花耶は頬をこねられながらただただ戸惑いのジト目をするだけだった。

「で、最終的に見かねた母上が花耶を引っ張り出して俺に渡して、父上と兄ちゃんに『駄目な婿は挽肉にしてもいいけど、立派な婿まで抹殺するな!』って嗜めてた」

「……いや、花耶達の母ちゃんも、過激だな。『駄目な婿は挽肉』って……」

 灼は軽く引いた。

「でも、ちょっと意外。大天狗って、すげー威厳あるイメージだったんだけど」

「それについては、父上が特殊だったのかも。子供の頃はすごい泣き虫だったって、母上から聞いた」

「マジ?」

 当然ながら本人に会った事はない。

 大天狗は妖怪図鑑や町で見かけた程度。

 灼には、想像つかなかった。


(……呪い、解けた)

 花耶は、呪いを解けた事自体は嬉しかった。

 今後、花耶には呪いが効く。実質、弱体化したようなもの。しかし、コトリバコの呪いは人殺しの道具だ。いくら呪いが効かなくなるとはいえ、そんな物はいらない。

 ただ、一つだけ寂しい事はあった。

(千弦、帰って、くるかな……?)

 千弦は、神だった。コトリバコの呪いは、千弦の神の力のほとんどを消費して解呪している途中だった。

 だが、コトリバコは時雨のおかげで解呪された。

 その瞬間、神の力の自動消費はなくなった。千弦は、神の力を使えるようになったという事。

 千弦は、怨霊信仰によって神になった。修行や、意識的に信仰を集めたわけではないので、神としての自覚は薄い。おまけに、神の力の扱いには慣れてない。

 例えるなら、妖力の使い方を学ぶ前の灼みたいなもの。強大さを考えれば、数百倍は危険だろう。

 そんな人物……神物なんて、人間界には置いておけない。

 よって、高天原に行ったのだ。

 千弦は『すぐに帰ってくる』と言ってはいたが、もしかしたら、黄泉軍を辞めてしまうかもしれない。


「花耶。もしかして、千弦の事を考えてる?」

「……ん。千弦、帰るって、言ってた、けど。……寂しい」

「……」

 咲耶も俯いた。

 千弦とは付き合いは薄いが、それだけでも花耶と一番仲がいいのは分かった。

 花耶の寂しさは察しがつく。弟として励ましたいが、かける言葉が見つからない。


「千弦なら大丈夫だって!」

 だが、灼が言った。

「あいつ、すげー過保護じゃん? きっと花耶が心配で、すぐに帰って来る! それまで、楽しみに待ってようぜ」

「……ん」

 少し、花耶の表情が明るくなった。

 元気付けられたようだ。


(『幸せになれ』、かぁ……)

 灼を見て、咲耶は茶化し気味にこんな事を頼んだ。

「灼さん。俺からの頼みなんですけど」

「ん? 何だ?」


「花耶の事、幸せにしてもらえません?」


「…………」

 一瞬、言葉を理解できなかった灼。

「‼⁉」

 理解したのか、瞬時に真っ赤になる灼。

「い、ぁ、どっ⁉ ばっ⁉ そそそ、それ、どういう……‼」

「咲耶。私は、幸せ、だよ。灼、いるから」

「ッ‼⁉」

 首が折れるのではないかという勢いで花耶に目を向ける灼。その顔は、すんごいニヤけていた。


「千弦も、愛梨も、春介も、蓮も、いる。他にも、好きな人、たくさん。それに、咲耶も、いる。だから、幸せ、だよ」


(そっちかー……)

 続けて口にされた花耶の言葉により、灼は膝から崩れ落ちた。ちょっと、涙目になっていた。

「……気持ちは嬉しいけど、俺、『花耶を嫁に貰って欲しいな』って意味で言ったんだよ」

「「‼⁉」」

 二人とも、瞬時に真っ赤になった。

「いやいやいやいやいや‼ 咲耶さん⁉ 何を言って……‼ って、花耶! どこ行くんだよー⁉」

 狼狽える灼を置いて、花耶は猛スピードで逃げていった。


 その後、咲耶が飛んで直線距離で先回りしたり等したが、花耶を捕まえるのに十分ほどかかった。

花耶「けふぉっ」(走りすぎてむせた)

咲耶「ぜぇ、ぜぇ……。かひゃ、はやすぎ……」

灼 「じゅっぷん、あ"じんの、ギッヅ……」

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