その15
「また、こんな風に本とか、私のものが安城くんの所に移動しちゃうのかな?」
別れ際、葉月さんは言った。
「そうならないよう努力する」
「そんなことができるの?」
「分からない。でも、やってはみる」
「……それじゃあ、お願い」
そう言った葉月さんは、僕の願望かもしれないけれど、少し残念そうにも見えた。
家に帰ると彼女が勧めてくれた本をメモし、その後の冬休みは、図書館で借りてきたそれらの本を読んで過ごした。読んだ本は、とても面白いものもあれば、何が面白いのか本当の所よく分からないものもあった。それでも、葉月さんが勧めてくれた本だと思うと、どれも最後まで読み通すことができた。
冬休みの間、葉月さんのものが瞬間移動してくることはもうなかった。努力するとは言ってみたものの、特に何をしたわけでもなかった。ただ、葉月さんに勧められた本を読むことで、何となくその防止になる気がした。
冬休みが明け、3学期が始まった。冬休みの間中こたつの中で猫のように丸くなり本ばかり読んでいた僕は、少し太った。ちょっと体重が増えたくらいで誰かに何かを言われることなんて今までなかったけど、今回は違った。
「安城くん、ちょっと太ったね」
「え?」
「正月太りだね。お餅の食べ過ぎだ」
そう言って笑った葉月さんの顔を見て、冬休みが終わってくれて良かったと思った。そんなことを思ったのも初めてだった。




