その14
「つくし山公園とかは?」
僕の家と葉月さんの家の中間的な位置にある公園の名前をあげた。両親がいないとはいえ、女の子を家に呼ぶなんて、恥ずかしくてできなかった。
「いいけど」
30分後、つくし山公園で待ち合わせた。その日はこの冬一番の寒さとニュースで言っていただけあって、とても寒かった。やっぱり家で渡せば良かったかと少し後悔した。葉月さんはベージュっぽい色のダッフルコートを着て、赤いマフラーをしていた。頬が少し赤らんでいた。
僕が水色のブックカバーの本を渡すと、葉月さんはありがとう、と小さな声で言い、ぺらぺらと捲った。
「……私の本だ」
「うん、ごめん……」
「何で謝るの?」
「分からない。でも、多分、僕のせいだ」
「何故?」
葉月さんの黒目がちな瞳が、いつも以上に深く、黒く輝いていた。
上手く答えられなかった。君のことを考えていたせいだ、なんてことが言えるはずもなかった。でも、そういうことだ、僕はずっと彼女のことを考えていた。冬休みに入って、葉月さんに会えないことを寂しく感じていた。こたつの中でうつらうつらと、葉月さんのことを考えていたのだ。
僕は何も言葉を発さなかったが、彼女の頬はさっきよりも大分赤みを増していた。もしかすると僕の考えていることが彼女の心に届いてしまったのかもしれない。本が何キロも離れた家を行き来したのだから、思っていることが彼女の心に瞬間移動しても何も不思議はない。
「その本、面白い?」
沈黙が気まずかったので、尋ねた。
「私は好き。でも結構ベタベタの恋愛小説だから、男の子にはどうかな……。安城くんも本とか読む?」
それから僕らは、公園のベンチに座って30分ほど本について話した。学校以外の場所で、葉月さんと、葉月さんじゃなくても学校の誰かとそんなに長い時間ちゃんと喋ったのは初めてのことだった。
それは、とても楽しめる時間だった。少なくとも僕は、その日がこの冬一番の寒さであることを忘れた。




