その13
その時、突然家の電話が鳴った。両親は共働きで今日は2人とも仕事で、僕には兄弟もいないから、家の中には僕1人だけだった。昼間のこんな時間にかかってくる電話はセールスの電話であることが多く、普段は居留守を決め込むことが多いのだけど、この時は出てみようという気になった。
「……もしもし、もしかして、安城くん?」
受話器を取り名前を告げると、聞こえた声は葉月さんの声だった。電話線にのって響く彼女の声は、いつもの声より少しくぐもって聞こえた。
「うん、僕だけど……」
突然の彼女からの電話に、緊張してうまく言葉を発することができなかった。それまでこたつの中に入り浸りすぎて、喉が渇ききっていた。
「あの、突然、電話かけてごめんなさい」
「いや、別に、全然いいけど……」
「……変なこと聞いていい?」
葉月さんが何を言おうとしているのか、聞かれる前から分かっていた。
「私の本、そっちに行っていない? 水色のブックカバーの本なんだけど」
どう答えようか迷ったが、結局は本当のことを答えるしかなかった。
「……うん、来てる。さっき気付いた」
そう言えばさっき机の上に見慣れない本があったけど、え、あれ君のなの、みたいな言葉が頭の中に浮かんだけど、実際に口から出たのはそんな短い言葉だけだった。僕は基本的に長い言葉を話すのが苦手だ。
沈黙が空いた。
「……まさかとは思ったけど、凄いね」
「……うん、凄い」
「あの本、ちょうど今読んでいた所で、ちょっと目を離したらなくなってて、もしかしてと思ったんだ。続きが気になるから、今から取りに行っていいかな?」
「家まで?」
「家じゃまずい?」




