1-8 山賊
先日の秋の商隊護衛任務における失態は、決してディックの部隊だけの不手際ではなかった。
国境警備隊司令部がその年、東方国境に派遣した十の護衛部隊のうち、三つもの部隊がほぼ同時に山賊の猛襲を受けていたのである。
司令部の作戦室で報告書を整理していたドギーが、渋い顔でディックに声をかけた。
「ハァ、他所の隊の状況が上がってきましたが、ひどい惨状ですな」
「他の部隊も襲われたのか」
「ええ。襲われた一つの部隊は護衛隊は防戦のかいもなく全滅、商人も数人がやられました。もう一つの部隊も護衛隊の半数が死亡し、多数の負傷者を出しました。ですが幸いなことにこちらは商人の犠牲はありませんでした。ですがどちらも積荷はすべて奪われました」
その中にあって、商人と護衛隊の双方に死亡者ゼロという奇跡的な防衛を成し遂げたのは、唯一、ディックが率いる部隊だけであった。
国境警備隊司令部がこれら三箇所の被害状況を精査したところ、背筋の凍るような事実が浮き彫りとなった。
同時に三つの商隊を正確に捕捉し、正規軍の護衛を悉く撃退した規模から逆算すると、敵は少なくとも百五十人を超える組織的な戦闘集団を保有している。荷馬車の強奪や物資搬送を担う非戦闘員まで含めれば、その総数は二百人を超える巨大な武装勢力であると推測された。
事態は極めて深刻であった。同時に、この大失態が王都の中央政府に知れ渡れば、国境警備隊司令部の首脳陣は全員、厳罰を免れない。
処分を極度に恐れた司令官ら上層部は、即座に隠蔽と対処へと動いた。
「失態を遥かに上回る大戦果を上げ、すべての失敗を塗り替えるほかありませんぞ!」
「し、失態と言うでない!中央へ報告が届く前に、何としてでも山賊の拠点を刈り取るのだ!」
上層部は保身のために、迅速な山賊討伐作戦の立案へと乗り出したのだった。なお、国境警備隊は防衛戦と国内の治安維持に関する行動については国境警備隊司令官の一存で行動することが許可されていた。
司令部は、山賊との戦闘を生き延びた兵たちを核として、急造の「山賊討伐軍」を編成した。
総兵力は三百五十名、全員歩兵である。山岳地帯の斜面戦闘で馬は使えない。これ以上割けば国境警備に支障が出る、という際どい人数だった。そのうち五十名を輜重隊とし、主力の戦闘部隊三百名で構成された。全体を大尉が指揮し、戦闘部隊は三名の中尉が左右中央の部隊を統率する。輜重隊は少尉が率いて戦闘部隊の約一日の後方を追走する計画である。
ディックと彼の配下である二十四人の歩兵は、左翼部隊百名の配下に組み込まれることとなった。そして出陣式のため左翼部隊で整列をすると、あの黒人兵も同じ左翼にいることがわかった。
前庭での出陣式と祝福を終え、一行は再びあの血を洗う山岳地帯へと足を踏み入れたのだった。
山岳地帯へ入ってから四日目の夕方。
生真面目で融通が利かず、上層部から徹底的に嫌われていたディック・シャドウ准尉とその部隊に下されたのは、本隊の快適な野営地から遠く離れた険しい外周の「夜間周辺見回り」であった。
あからさまな嫌がらせに近い不遇の任務に、冷え込む夜風の中でドギーがため息を漏らす。
「ハァ、嫌われ者もここまでくると大したものですな。本隊の皆さんが温かい焚き火を囲んでいるというのに、我らはこの極寒の外周で見張りでございますよ」
「口を動かす暇があるなら目を動かせ、ドギー。外周の見回りはそれだけ敵の奇襲に最初に気づけるということだ」
ディックは冷たい刃のような視線を闇の深奥へ向けながら、冷静に言い放った。
「油断すれば命を落とすのは我々だ。全員、警戒を怠るな」
「ハッ、了解いたしました」
暗闇が迫る険しい山道で、ディックと二十四人の部下たちは気を引き締め直し、静かに巡回を続けるのだった。
しかし、その日の深夜。突如として恐ろしい事件が発生した。
なんと、夜間の遅い時間に司令部の指揮官たちが口にした野営食に、猛毒が仕込まれていたのである。
静まり返っていた野営地は、一瞬にして地獄絵図へと変貌した。中央の天幕を中心に、口から泡を吹いて次々と悶絶し、倒れ伏す軍人が続出したのだ。
見回りの交代のために本隊へ戻ったディックとドギーが見たのは、当日の炊飯を担当した兵たちが恐怖に震えている姿だった。
「准尉殿! 大変なことになりました・・・・・・毒です、食事に毒が・・・・・・!」
炊事兵にディックが厳しい声で問い詰める。
「一体何があった!? なぜ食料に毒が混ざっている!」
「実は・・・・・・輜重隊の到着が遅れて糧食が底を突きかけておりました。そして准尉殿の隊が昨夜の見回りのため出払った直後、共和国側から国境を越えてきた小さな商隊と遭遇したのです。指揮官殿が交渉し、今夜の食料とともに、山岳の地理と調達に詳しい地元の少年、を借り受けました。その少年の案内で明日から獣を狩り、木の実を集めることとしました。そして今夜の食料はその商隊から分けてもらったものを調理いたしました」
「毒見はしたのか!?」
「は、はい! 集めた食材はすべてその少年に試食させ、問題がないことを確認してから今夜の鍋に投入しました! まさかこんなことになるなんて・・・・・・!」
ドギーが苦々しい顔で天幕の周囲を見渡した。
「ハァ、あまりにも迂闊・・・・・・完璧な罠ですな。少年が口にしたものと、軍の上層部へ提供された鍋には、最初から異なる細工がされていたのでしょうな」
「だがな、時間が合わない。夕食は結構前に食べ終わっているはずだ」
「そ、それが・・・」
「まだあるのか!」
「はい。中尉殿たち指揮官の皆さんは飲酒のときの食べ物で毒にやられました」
「・・・・・なんだと!夕食時ではないのか」
「はい。中尉殿たち司令部の皆さんたちは毎日夜遅い時間に飲酒と少量の肉や鍋を召し上がっておりました」
「何とも無様な・・・」
「山賊は最初から司令部を潰すつもりでずっと見張っていたんですなぁ」
ディックはそれ以上の言葉が出なかった。
結果、この毒殺工作によって左翼部隊の最高指揮官である中尉、および副官が即死。情報参謀ら司令部の中枢は指揮官の異変に気がついて半分飲みこんだものを吐き出したが、間に合わず、瀕死の重体に陥った。
さらに、残された二人の少尉にも悲劇が襲いかかる。
一人の少尉は咄嗟の機転で食事を吐き出し、胃を洗浄しようと近くの川へ駆け込んだ。しかし、水面に身体を屈めた瞬間、闇の向こうから放たれた無数の矢に全身を射抜かれ、川底へと沈んでいったのだ。
もう一人の少尉は尋常ならざる巨漢の武人であった。毒の苦痛に顔面を土気色に変え、激しく吐血しながらも、不屈の精神で剣を抜いて指揮を執ろうと試みた。だが、まともに言葉を発することすらできず、その巨体ゆえに担架で運ぶことすらままならない。
「く・・・・・・指示が・・・・・・伝わらん・・・・・・!」
これがつい先程に起きたことだった。
そして今、闇の中から山賊たちの鬨の声が響き渡る。食事に毒を盛り、軍が混乱に陥る瞬間を、奴らは外周からじっと狙っていたのだ。
こうして、左翼部隊の司令部機能は、完全に、そして瞬時に崩壊したのだった。
そんな未曾有の惨状を聞き、周辺探索から戻ったディックは、眼前に広がる凄惨な光景に息を呑んだ。だが、彼の冴え渡る直感は一瞬で現状を把握した。
司令部の壊滅、敵の狙いはこれだ。確実に、今この瞬間に本隊への奇襲が来る!
「全隊、守備陣形をとれ! 敵の襲撃に備えよ!」
ディックの叫びとほぼ同時に、標高の高い崖の上から勝ち誇った山賊たちの咆哮が響き渡り、弓矢の雨が野営地へ降り注ぎ始めたが、ある程度密集している樹木にもかなり救われ、被害はさほど多くはならなかった。
混乱の極みにあった野営地で、ディックは即座に残存兵力の確認と再編に奔走した。
上官から嫌われ、本隊の食事から隔離されて外周を見回っていたディック隊の二十四名は、皮肉にも全員が完全無傷であった。
だが、ディック隊を除く左翼部隊の兵士七十五名のうち、毒と初撃の奇襲によって上級将校を含む八名が死亡、十一名が重体のため戦闘不能。武器を持てる戦闘可能な兵員は、全百名から十九名減り、わずか八十一名にまで落ち込んでいた。
何より深刻なのは、部隊の指揮系統が完全に消失している点であった。中尉は死亡、二人の少尉も一人が死亡、もう一人は重体。
残された指揮官は四人の准尉のみ。しかもそのうち一人は毒で倒れており、残る三人のうち二人はこれまでに山賊との実戦経験が一度もない未熟な将校であった。
駆け寄ってきたドギーが、緊迫した面持ちでディックに報告する。
「ハァ、状況は絶望的ですな、坊っちゃん!将校方は全滅、残る准尉二方も山賊との戦は初めてで腰が引けております!」
「つまり、この山岳戦において敵の戦術を知り、指揮を執れるのは私しかいないということだな」
この非常時に坊っちゃんの指摘すらできないほど追い詰められているディック。
「左様でございます! 我ら八十一名の命は、すべて坊っちゃんの肩にかかっておりますぞ!」
崖上からの矢の雨が降り注ぐ中、ディックは兜の帯を固く締め直し、決意に満ちた鋭い眼光で暗闇を見据えた。
「シャドウ准尉。頼む、我々を率いてくれ!」
残された二人の准尉は、ディックの瞳に宿る冷徹な覚悟を見て取り、わずかな問答の末、全権を彼に委ねてその配下に就くことを決断したのだった。
方針が決まれば、ディックの動きは電光石火であった。
彼は取り乱す兵士たちを鋭い声で統率し、残存する八十一名の兵力を二十五名ずつ、三つの実戦小隊へと瞬時に再編した。
残る六名のうち三名には重傷者の応急手当てと、後方を追走する輜重隊への決死の移送任務を命じた。そして最後の三名を、各准尉の副官兼、伝令役として配置したのである。
もちろん、ディック自身の傍らには、影たるドギーが副官として既にその役割を果たしているため、ディックは自身に割り当てる副官兼伝令役ひとりを全体の伝令役としてつかうことにした。
「ハァ、準備は整いましたな、指揮官殿。全員、腹を括っておりますぞ」
ドギーもこういうときは茶化さず坊っちゃんとは呼ばない。
戦闘配置に就く前、ディックは死を覚悟した兵士たちの前に立ち、低く、しかし野営地全体に響き渡る声で語りかけた。
「聴け! 山賊を一人残らず叩き潰すまで、我々に帰る場所などないと思え! 今日、毒に倒れた中尉殿たちの無念の姿は、明日、我らがのさばらせた山賊によって蹂躙されるお前たちの妻や子の姿そのものだ。このまま奴らを王国の土地でのさばらせておくわけにはいかない。命を賭して、すべてを討ち取れ!」
その熱い言葉は、絶望に震えていた兵たちの魂に火をつけた。
「おー! 奴らを絶対に生かして返すな!」
士気が最高潮に達した兵たちの歓声が夜の山々にこだまする。
ディックは別の街道を進む右翼と中央の各部隊の安否を懸念したが、距離が離れすぎており連絡は不通であった。今、この夜のうちに眼前の敵を仕留めなければ、夜明けとともに全滅するのは自分たちなのだ。
ディックは部隊を柔軟に間隔を空けた散兵陣形へと展開させ、暗闇が支配する山狩りへと進撃を開始したのだった。
ディックの的確な夜間指揮により、王国の残存部隊は山賊の伏兵を各個撃破しながら山の斜面を駆け上がっていった。
やがて山の中腹、岩壁に切り開かれた巨大な洞窟を発見する。その洞窟の周囲には、山賊たちが築き上げた小規模な集落が存在していた。
本隊の壊滅を確信していた山賊たちは、見張りからの急報を受け、慌てて戦闘準備を整えて洞窟前に整列していたのだった。
それを見たディックは自ら部隊の先頭に立ち、抜き放った白銀の長剣を高く掲げて言い放った。
「降伏しろ! 大人しく武器を捨てれば、命だけは保証する。貴様らだけでなく、奥にいる女子供の命もだ。だが、もしこれ以上この剣に歯向かうというのであれば男は一人残らず皆殺しにする。女子供の命までは取らぬが、二度とこの王国の土を踏めると思うな!」
「御託は終わりだ、若造!」
首領が地を蹴り、凄まじい踏み込みで肉薄する。大振りの剣が狂風を巻き起こし、ディックの頭上で冷たく閃いた。
早い! まったく防戦が間に合わない!そう直感した刹那、ディックの視界に漆黒の影が割り込んだ。
激しい勢いでぶつかり合う剣と剣。擦れて飛び散る火花と、鼻をつく焦げた匂い。鼓膜を震わせる甲高い金属音が夜の山に響き渡る。
桁違いの力と勢いがぶつかり合う中、ディックの前に立ちはだかったのは一人の黒人兵であった。彼は首領の必殺の一撃を正面から受け止めると、火花を散らしながら力強く押し返したのだ。
「貴様、何奴だ!」
吠える首領に対し、黒人兵は言葉を返さない。ただ鋭い眼光を放ち、流れるような剣さばきで首領の猛攻を次々と受け流し、互角以上の渡り合いを見せる。
ドギーが息を呑みながらディックの脇へ滑り込んだ。
「ハァ、驚きましたな! あの凄まじい身のこなし。ただの兵士ではございませんぞ!」
その圧倒的な武勇に、ディックは息を呑んで目を奪われるばかりであった。
「もうやめろ! 俺は貴様らの戦い振りを評価しているのだ! 貴様らは前回の戦闘時、危険を冒してまで仲間の遺体を回収していった。そのような義理堅い山賊や盗賊を、俺は他に見たことがない! 貴様らが山賊に身を落とさざるを得なかった相応の理由があるのだろう! こんな不毛な地で命を落とすな! どうせ命を懸けるなら、その刃を、背後にいる妻子のため、国のために懸けたらどうだ!」
ディックの悲痛な叫びが響いた瞬間、黒人兵と互角の戦いを行っていた使い手がピタリと手を止め、黒人兵と距離を取った。
ディックは改めてその使い手を直視した。衣服は泥に汚れているが、その身こなしには奇妙な気品がある。彼こそが、この山賊団を率いる首領であった。
「ふん、お前は貴族か? もし貴族なら、その汚い口を閉じろ。俺の家族が、王国の腐りきった貴族どもからどんな目に遭わされたかを知れば、お前とて二度とそんな綺麗事で俺を説得しようとは思わんはずだ。何が国のためだ! そんな豚どもの力になるくらいなら、俺は今ここで誇り高く死を選ぶ!」
ディックは長剣を構えたまま、その若き首領の怒りに満ちた瞳を真っ直ぐに見据えた。
「私の出自など、どうでもいい。お前の家族を、そしてお前たちを地獄へ突き落としたのが王国の貴族だというのなら・・・・・・王国軍の将として、私がここに謝罪する」
ディックの思いもよらぬ言葉に、若き首領の目が見開かれた。横に立つドギーも、深く息を吐いて頷く。
「お前たちも、元は王国の民だ。同じ国の民同士が、憎しみ合って殺し合う姿など、私は見たくない。私の力はまだ小さいが、お前たちが犯した過去の罪を償うというのなら、再び妻子とともに、この国で堂々と生きられるよう力を尽くそう」
「黙れ! ならば、その寝言を実力で証明してみせろ!コーナーは右から回り込め、ショーンは左から岩を落とせ。相手は防具をつけてるぞ、地形はこちらが上だ。矢を打ち込め、犬をけしかけろ」
首領の絶叫とともに、山賊たちが指示に従って一斉に行動を開始した。さすがに地の利を完璧に理解している山賊である、王国軍側にも多くの犠牲が出始め、更には猛犬をけしかけられ、混乱が増大した。
しかし、やはり防具の有無は大きかった。
確固たる防具も盾も持たず、ただ狂気と剣だけで突撃してくる山賊に対し、ディックが再編した完全武装の正規兵による集団戦術は、あまりにも一方的で冷徹であった。
山賊の戦士たちは次々と刈り取られ、地面は血の海と化した。最後に残ったわずかな数人の中に、血塗れになった若き首領の姿があった。
だが、王国軍側の被害も決して軽微ではなかった。ディックの周囲でも十数名の優秀な兵士たちが命を落としていたのである。
のちに判明したことだが、戦死した王国兵のすべては、あの若き首領ただ一人の手によって屠られていたのだった。首領は、軍の精鋭すら凌駕する、極めて洗練された美しい「正規の宮廷剣技」の使い手だったのである。
そして、危険な使い手と鋭い剣さばきを見せる黒人兵の一騎打ちが束の間続いた瞬間。
「まだ懲りぬか、この大馬鹿者が!」
ディックの怒号が洞窟に響き渡った。
「このまま戦いを続ければ、貴様らは全滅する! 奥にいる女子供まで無理心中へ道連れにして、お前は本当に満足なのか!?」
若き首領は血を吐き、自嘲気味に笑った。
「へっ・・・・・・大将よ。そっちこそ、平民の部下をそんなに死なせておいて、よくぞ平気な顔で言えたものだな。まあ、どうせお貴族様にとっちゃ、平民の兵隊なんて使い捨ての駒。犠牲なんて気にも留めてないんだろうがな!」
「ふざけるなッ!!」
ディックの割れるような一喝が、首領の言葉を叩き潰した。
「彼らの犠牲は決して無駄ではない! この国の尊い礎だ! 散った彼らの家族には、私の命に代えても、国から十分すぎる恩賞と遺族年金が出るように必ず取り計らう! 何よりも彼らを死なせてしまったのは、私の指揮が未熟だったからだ。私は、己の力不足を骨の髄まで恥じている!」
その言葉に嘘偽りがないことは、ディックの歪んだ表情と、握りしめられた拳の震えが証明していた。
王国の貴族への憎悪だけで戦い続けていた山賊たちだったが、すでに体力も気力も限界に達していた。ディックという青年の真摯な訴えを前に、もはや戦意を奮い立たせることはできなかった。
若き首領はがくりと両膝を折り、その場に剣を落とした。それを見た残存する山賊たちも次々と武器を手放し、地面に崩れ落ち、降伏した。
ドギーが静かに刀身を納め、ディックの横で深く頷いた。
「・・・・・・これ以上の戦闘は無意味だ。お前たちの命の保証は、私が命に代えて守る」
ディックは即座に戦闘の終結を宣言したのだった。
その後夜明けを待ち、戦死した王国兵の遺体を丁寧に搬送する手配を調え、同時に、犠牲となった山賊たちの遺体についても、集落に残されていた老女にこの山岳地帯の埋葬の風習を確認した上で、近くの清らかな地に手厚く埋葬した。
そして、老女へ神父の祈りが必要かどうかを聞いたところ、にべもなく言い放たれた。
「お前たちのところにいるような欲まみれの生臭坊主はいらないよ」
勝利に沸く部隊員に対し、ディックは青い目を冷たく光らせて、厳格極まる軍令を布告した。
「これより、山賊の集落に対する一切の略奪行為、女子供への暴行、捕虜への虐待、を厳に禁ずる。この命令に違反した者は、身分を問わず即刻拘束し、我が手で死罪に処す」
「ぼ、坊っちゃん、王国軍の准尉にそんな権限はありませんぞ!」
「いいえドギー殿。これくらいの清潔な気迫は逆に気持ちがいいものです。我ら、ディック様の意思に従います」
その苛烈なまでの規律と、徹底された騎士道精神を耳にした山賊の若き首領は、拘束されながらも、ディックという奇妙な指揮官に対して深い興味を抱き始めるのだった。




