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ヒュービック大陸興亡記  作者: 田中好雄
第4章 帝国征伐戦
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4-8 参謀

王国に冬が訪れた。王国の冬は北部地方の山間部には降雪があり、中部は降雪こそ無いものの寒い日が続く。そして南部は比較的暖かく過ごしやすい気温であった。北部から中部では冬の寒さを乗り切るために各家庭では暖炉に火が入り、家族はその火を囲んで暖かく過ごすことが定番であった。

そんな冬の最中、首席少尉となり、配下に副官のドギー以下四人の准尉、そして九十五名の平民兵が整列をした。そして新任准尉が挨拶をした。


「ディック・ブライトン首席少尉殿。今後ご指導よろしくお願いいたします」

「うむ」


ディックは准尉四人らの特徴を確認した。実戦専門が三名、そして一名は実戦よりも参謀色が強いと判断した。

実戦専門の三人には、それぞれ二十四名の部下を自在に動かせるよう徹底した訓練を命じた。そして残った一人の准尉に告げた。


「スパイク准尉は参謀がより専門とみたが、いかがか」

「は!恥ずかしながらそのとおりであります」

「ではなぜ後方勤務を志願しなかった?」

「後方勤務はもう優先空き枠がありませんでした」

「そうか、わかった。では私の参謀になってみるか」

「ご命令とあれば」

「よし」

「ですが私の配下は指揮官准尉が不在となります」

「大丈夫だ、ロランに任せる」

「は!ご命令であれば」


ディックはロランを呼び、簡単に内容を伝えるとロランはスパイク准尉とディックに敬礼を行い、退出した。


「首席少尉殿、あの黒人二等兵に任せて大丈夫でしょうか?」

「少尉と言ってくれ。大丈夫だ、あいつは強い。恐らく我が隊全員でロランに襲いかかってもロランが勝つだろうな」

「それほどまでに・・・」


ディックは話を変えた。


「だがまだスパイク准尉のことを私はよく知らん。そこで君のことを知るためにも、おいドギー!」

「お持ちしました」

「これは実戦記録だ。これを見て意見を述べるように。明日夕刻までにな」

「は!」


その後スパイク准尉は資料を元に退出し、翌日夕方再びディックの元を訪れた。


「ブライトン首席少尉殿。資料を拝見いたしました」

「そうか、准尉の意見を聞こうか。ところで私を呼ぶときは少尉、と言ってくれ」

「わかりました。資料の件ですが、率直に申してもよろしいでしょうか。それとも・・・」

「率直に言ってくれ」

「わかりました。いずれも穴だらけです」

「・・・・・」


ディックは別に不快さはなかった。逆に上官に向かってこれだけ堂々と言えるスパイクが羨ましいと思ったのだ。


「准尉の意見を詳しく聞こうか」

「わかりました。ここで斬られるかと思っておりましたが、私の首は繋がったようですね」

「まあいい、続けてくれ」

「は!まず・・・」


スパイクの考えを要約するとこうだった。

まず害獣討伐においてはわざわざ山に行く必要はなく、村の周辺に幾つかの大きな罠と防護柵を設置した上で警戒すれば済ませられただろうこと。

そして商隊護衛については最初に空の荷馬車を使って商隊を偽装し、山賊をおびき出せば利益が多少減ったとしても採用する価値はあっただろうこと。


そしてここまででのディックにおける最大の戦であった帝国兵五千を撤退に追い込んだ戦いについても、一か八かの司令部水攻めではなく川の水に毒を流せば恐らく短期間で敵兵に大損害を与えられただろうことが説明された。


「坊っちゃん・・・」


ドギーが心配そうな顔でディックを見たが、ディックの表情はなぜか明るく、ゆっくり首を横に振った。


「川に毒を流すのは駄目だな」

「お言葉ですが、なぜでしょうか?兵の犠牲を少なく出来ますが」

「下流には村があるし穀物畑もある。川には豊かな自然もある。勝ったとして今後何年も死の川にさせるわけにはいかんし村人に犠牲を出すわけにはいかん」

「しかしそこで王国軍が敗れれば村人の犠牲は恐らく毒の犠牲の百倍以上になりましょう」

「しかしだな、王国軍が王国民を殺し、王国の自然を破壊したら何のための戦いなのか。我が軍が王国民を殺すのは何があっても駄目だ」

「いいえ、やり方はあるはずです。事前に村に通知して川の水を使わせない、とか、軍が補償する、とか」

「確かにそれはあるだろう。しかしな、毒は卑怯な手段に見えるのだ」

「卑怯な手段であっても構わないのでは?村人であっても兵隊であっても同じ人間です。国を守るための犠牲は少なくすべきです」


ディックは少し考えて答えた。


「そうだな、それも一つの考えだ。准尉が指揮官になったときにはそうするがいい。だがな、私が指揮官である以上、私の元ではその選択はさせん」

「肝に銘じます。ですがやはりこれは戦ですから、犠牲者を最小限にする作戦を私は捨てられません」

「それでいい。それでやってくれ」


これは戦争の根幹に関わる問題であった。何のために、誰のために戦うのか?もし戦いに勝っても守るべき民が全滅したら、それは勝ったと言えるのだろうか?ディックの正義感は常に王国民を軸にしていたのだった。

そしてスパイクはこのやり取りでわかった。この人は正義の人なんだ、と。


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