4-4 侍女
今日は久々にディック様がブライトン伯爵家に戻る日だ。
私はいつものメラニア様のお世話の間にディック様のお部屋の掃除も命令された。やはり男性の部屋は男の人の変な匂いがする。私はこの匂いが嫌いではない。
実はディック様は姉のメラニア様のことが大好きだ。それも子供が言う「大好き」ではなく、いわゆる成人の大人が言う「好き」だ。私の女の勘は当たる。今日は何をしに帰るのだろう?
ディック様がドギーを連れて久しぶりに伯爵家の門をくぐってきた。窓からその姿を見たが、相変わらずディック様は軍人みたいな固い歩き方をするしドギーはその後ろを三歩引いた距離でくっついている。子供の頃からこの距離感だ。そしてドギーはいつも私をからかってくる。多分私を好きなのだろうが私はドギーのことはあまり好きではない。
メラニア様の部屋の扉が叩かれた。
「姉上、ディックです。姉上!」
相変わらずの声の大きさだ。扉は壊れないだろうが少しうるさい。
「メラニア様はすぐに戻られます。お待ちになって下さい」
このまま部屋に入られて大きな声で話をされたらたまに与えられた一人の時間が台無しになる。私はディック様をメラニア様の部屋に招き入れず、扉を締めてしまった。別に不敬にはあたらないはず。
そうしたらすぐにメラニア様が来たようだ。
「ディック、来たのね」
「はい、姉上。突然何用でしょうか」
「実はね、父上からお見合いを勧められているのよ」
「な、何だと!!!!!!」
ディック様の怒鳴り声はやっぱり大きい。怒りの感情がダダ漏れだ。
「姉上、お見合いをなさるのですか」
「そうよ、父上の命令だもの仕方ないでしょ?」
「お相手は?」
「そう、それよ。あんたに聞きたかったの。カミン侯爵って知ってる?王国軍の中佐だって」
「ああ、カミン侯爵か。知ってるけど、あの人は評判があまりよくないけどな」
「そうみたいね。だけどどんな評判の内容なのか、までは分からないのよ、知ってたら教えて」
「うん、それは・・・」
ディック様はご存知のようだし何だか言いにくいようだった。後で聞いてみよう。
その後メラニア様は伯爵様に呼ばれていき、またもや珍しく私は一人になったのでディック様のお部屋の扉を叩いた。
「ディック様、もしよろしければカミン様の人となりを聞かせて頂けませんか?」
「ああ、いいとも」
聞いたところカミン侯爵は今年三十歳だが既に妾腹の子が何人もいるそうだ。なんと、妾腹の上の子は十六になるそうだ。そんな若い頃からお妾さんがいる人にも驚いてしまった。そんな人にメラニア様が嫁ぐのは私もここまで頑張ってお世話してきた手前、あまりいい気分ではない。ディック様は少し考えたあと、私に言ってきた。
「ミルキー、姉上の見合い話、潰せないか?」
「まあお気持ちは分かりますわ。ディック様ですものねー・・・」
「どういう意味だ?まあいい。何とかならないか?」
「ひとつだけ方法がありますが、上手くいくかどうかはわかりません」
「よし!それでいこう!」
「まだ何も言ってません!」
私たちは結託した。そして私はとある重要人物に会いに行った。
「ランディ様、メラニア様の侍女のミルキー・ランダーです」
「おや、ミルキーちゃんじゃないか。どうしたんだい?もしかして僕のことが好きになった、とか?」
「いいえ、そんな事になれば私はメラニア様に殺されてしまいます」
「そうなのかー、違ったのかー、まあいいか。で、何用かな?」
「メラニア様のことですが、ランディ様と久しくお会いしていないせいでしょうか、私への風当たりが最近強いのです」
「おや、かわいそうに。どうだい?僕の部屋で休むかい?なんなら凝った身体をほぐそうか?」
「いいえ、結構でございます。それよりもランディ様は最近メラニア様を放っておき過ぎです」
「といってもねぇ。最近メラニアが忙しそうでなかなか会えないんだよ」
「わかりました。では明後日、ランディ様もご存知のあの喫茶店にお昼のお時間にお越しください。ぜひお見かけしたら抱きしめて頬に口づけなどされると物凄くお喜びになると思います」
「そうだね、久々にメラニアと会うのは俺も嬉しいしその後俺も時間あるし。わかったよ!」
「くれぐれも私に言われたから、というのは無しにしてください。喫茶店でも偶然を装って・・・」
「大丈夫、大船に乗った気持ちで俺に任せればいいから」
何が大船よ、心配だわ・・・
そしてとうとうその日がきた。メラニア様のお見合いの当日だ。私も当然、メラニア様の侍女として後ろに控えている。見合いの場となった食事処に揃ったのは両家の両親と本人ふたりそしてお互いの侍女と小姓の合計八人。
両家顔合わせのあとメラニア様とカミン様は二人きりで場所を移動し、喫茶処でお茶を飲まれた。
そしてそこに現れたのはランディだった。よし!予定通り。
「やあ、メラニアじゃないか。こんなところで珍しい。久しぶりだねー!」
前に伝えた通りランディ様は公衆の面前でありながら椅子に座っているメラニア様に横から抱きついてほっぺにキスをした。このランディ、結構やるわね。
「ラ、ランディ!場所を考えてよ!」
「あ、いや、失敬。男性と一緒だったんだね。で、こちらの方は?」
「こちらは・・・」
「いえ・・・・・」
カミン様をみると、明らかに気分を害した表情を浮かべていた。まあそれはそうでしょうね。あと、やたらと眼光だけを光らせていたのが怖かった。さすがは侯爵家の次期当主様。
「もしかして俺、邪魔しちゃったかな?」
「当たり前じゃないの、この馬鹿ランディ!」
「いいえ、邪魔ではありませんよ。逆によかった。ランディ殿と言ったかな。今日は会えて良かった。ではまた」
といって席を立ってしまった。
「ちょっと、カミン様!カミン様!!!」
カミン様はそのまま戻らず、何が何だか分からないランディ様。そして影でこっそりみていた私とディック様はこっそり成功を喜んだ。
「ミルキー、ありがとう!」
「いえ、私はメラニア様の侍女ですから」
メラニア様には幸せになっていただきたいのです。
・・・・・・もっとも。
ディック様、あなたにも渡しません。
このヘンタイ弟め。




