2-8 競技
クリスは国境警備隊司令長官の許可を取り付け、部隊内での大規模な武術大会を開催した。
賞品には、クリスが長年かけて手に入れてきた、王国内では入手困難な最高級の一品物ウヰスキーを三本提供したため、武骨な兵たちは大いに盛り上がった。
大会の対戦規則は
「刃を潰した模擬剣を使用、急所への攻撃は禁止、防具着用、危険と判断した場合は審判が即時停止する、致命傷を与えた者は処罰、軽傷は不問」
という、実戦さながらの過酷なものであった。
そして行われた大会、大方の予想通り、クリスの下に配置されたロラン・ドラン二等兵が圧倒的な強さで優勝した。
決勝戦の相手はロランに引けを取らない体躯の持ち主の一等兵であった。
そんな強敵相手の決勝戦が始まった。
ロランはまず相手の斬撃を半身を引いて回避し、引いた足を軸にもう片方の足で相手の脇腹を蹴飛ばした。しかし相手はよろけずに引き下がり、再度剣を構え直す。
今度はロランが仕掛けた。ロランは上段から剣を振り下ろし、二本の剣が噛み合い、力比べとなった。ロランが上から押し込み、一等兵が両足を踏ん張って耐える。やがて一等兵は力任せに剣を跳ね上げ、その勢いのまま足払いを放った。
ロランは巧みに避け、身体を回転させながら剣の柄で一等兵の肩に痛打を与えた。そして相手がよろけたその隙に猛烈な勢いで剣を振り上げ、一等兵の剣を弾き飛ばしてしまったのだ。ロランは落ちてきた剣を片手で受け止め、相手へ返して敬礼する。
完璧な勝利だった。
ロランは驚くべきことに決勝に至るすべての試合において、相手に致命傷はおろかほんの擦り傷すら負わせず、また自身も衣服一枚切り裂かれることなく、圧倒的な力量差を見せつけ、すべての対戦相手の武器を弾き飛ばして制した。実戦さながらの勝負の中で相手を傷つけずに無力化するなど、並の達人でもそうそう何度もできることではない。神技であった。
大会後、ウヰスキーを手にしたのは上位三人だった。そして圧倒的一位だったロランに、クリスは声をかけた。
「見事な戦いぶりだったな、ロラン二等兵。昨年の敵軍は、もっと強かったか?」
「中尉殿、当たり前のことを聞かないでください。試合と実戦はまるで別物です。実戦の私は、もっと汚く、もっと容赦なく敵を倒します」
「頼もしいな」
「恐れ入ります」
シロタ・カンタという数字と理詰めで世界を塗り替える天才と、ロラン・ドランという戦場そのものを力でねじ伏せる怪物。
この類まれなる二つの才能と同じ時代に生まれ、今、同じ場所に立っていることを、クリスは生まれて初めて、いるかいないかも分からない神に深く感謝したのだった。
その日の夜。
「タチバナ!」
「はい、クリス様」
「俺に変わって霊峰マウント・ヒュービックに登って神に礼を伝えてきてくれ」
「本気ですか?無茶言ってほしくありませんわ」
「そうだな、すまん」
作戦で遠地へ出ている時を除けば、タチバナは常にクリスの傍らに控えていたが、そんなクリスの傍らで、タチバナはわずかに口元を緩めていた。




