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ヒュービック大陸興亡記  作者: 田中好雄
第2章 集結
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2-7 革命

クリスは自らの部隊を自由自在に動かせるようになるまで、徹底的な訓練に明け暮れた。

そして同時に、今後の最大の課題のために知恵を絞った。その課題とは、昨年の帝国軍侵攻時に露呈した「情報の物理的限界」である。

密偵がいくら早く走ろうと、早馬を飛ばそうと、国境から王都へ、あるいは隣の砦へ情報が届くには数日かかる。日数がかかることが原因で援軍が間に合わない場合もあるだろう。必要なのは報告書の書面ではなく、そこに書かれている内容の伝達速度なのだ。

ある日の訓練後、クリスはシロタを呼び出した。


「シロタ二等兵、一つ課題を与える」

「はい」

「遠く離れた場所同士で、報告書の内容を早馬とは比較にならない速度で伝える方法を作れ」

「はい?聞き間違いでしょうか」

「聞こえなかったか?」

「いいえ、聞こえました。しかし、そのようなことが出来るわけありません。報告書の紙が空を飛ぶわけでも、人間が鳥になるわけでもないのですから」

「そんなことは分かっている。だが、中身が遠距離でもしっかり伝われば手段は何でもいい。考えてみろ」

「ハッ、承知いたしました」


シロタは無茶苦茶を言う上司だと思いながらも、深く頭を下げたのだった。


クリスの命令を受けてから二ヶ月間、シロタは昼も夜も思考を巡らせていた。いくら馬が早くても限度がある。馬よりも早い動物を使うか?非現実的だ。では報告書の紙だけを素早く移動する方法は?巨大な弓矢に報告書を括り付けて飛ばすか?でもそれでは巨大な弓が幾つも必要になる。おまけに事故が起きる可能性もある。これは難題だ。

シロタはとにかく紙に書かれたものをどうやって素早く移動させるか、を考えた。伝えたいことは文字で書ける。その紙を運ぶにはどうやっても時間がかかる。紙だから時間がかかるのだろう、紙ではなくもっと軽いものに書ければいいのだ。これをずっと考えていた。

しかし、どんなに重さが軽いものに書いても、それを運ばなくてはならない。そこで躓いた。紙と書く文字を分離すればいいのか?


そしてとある夜、欠けていく月を見上げながら、ふと気づいたのだ。


月が欠けている。月には「私は欠けています」などとは書かれていないが、見れば一目瞭然で状態が分かる。そうだ、人間や馬を走らせるから費用と時間がかかる。それは書かれている紙を輸送するからだ。だが月は手紙を書いていない。どうやって自分に欠けていることを知らせた?形だ。そうだ、何らかの方法で手紙の内容を見せればいい。

そこからのシロタは早かった。


光を反射できるほど内側を徹底的に磨いた金属板の箱をつくり、一面だけ開ける。その箱の中に複数の蝋燭を並べ、光を一方向へ集中させる。更には蝋燭の煙が上に抜けるように工夫が施されている。

その箱の開いた一面を、光を受ける地点に向けて掲げると、歩いて一刻離れた遠距離からでもその光がはっきりと視認できた。ただし昼間は無理だったが。


シロタは同じ物をふたつ作り、夜間に離れた場所で光を見せあい、その光を手でリズミカルに遮ってみた。これを繰り返すと、遠方の観測者には光が一定の間隔で点滅しているように見える。この点滅の間隔や回数の組み合わせを、特定の内容に対応させればいい。シロタは遮蔽板を動かし、光を短く、あるいは長く明滅させ、頻出する軍事情報を、十五種類の明滅の組み合わせに対応させていった。

実験において、光の明滅パターンにより、数キロ先へ、早馬とは比較にならない短時間で伝えることに成功したのはそれからわずか三ヶ月後のことだった。


「クリス中尉、先日のご下命、なんとか形にできたと思います。ただし、今はまだ使用には制限があります」


その制限とは、夜間かつ晴天であり、見通しの利く地形に高台を作り、夜間の決まった時間に毎日必ず光の明滅をさせること、などであった。


しかしこれは欠点にはならない。なぜなら、この仕組みを使うと同時に今まで通り早馬を走らせればいいだけだからだ。これならどちらか早い方が届く。


クリスはまさか、これほどの短期間でシロタが物理的限界を突破する回答を出すとは思っておらず激しい衝撃と共に狂喜した。


クリス立ち会いのもとで行われた伝令実験は見事に成功。今後は光の明滅で伝えられる軍事情報を増やし、国境線沿いの砦に光の中継地点を作れば、王国の情報速度は帝国を遥かに凌駕する。クリスの頭脳は猛烈な勢いで次の謀略への計算を始めていた。


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