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お疲れの魔王様拾いました。〜満身創痍な魔王様を薬膳知識で癒します〜  作者: 火稀こはる


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第8話 お寝坊さんの朝ごはん

 —…モフモフした温かい何かが頬を撫でる。

『…ゴロゴロ』

「……ん…」

ゆっくりと浮上する意識。ふわふわとした眠気に抗い瞼を開けると、眼前に広がる白と茶色のモフモフ。

「んなぁ~」『ゴロゴロゴロゴロ』

そのモフモフは、彼の整った顔面に自慢の毛並みを押しつけて喉を鳴らす。更には、自分の眠っていた布団の中に潜り込む勢いで擦り寄ってくる。

「……まる…?」

彼、ベルンシュタイン・セレネ・ルフェフシュリリィは、ぼんやりとした頭で猛攻を仕掛けてくるモフモフの名前を呼んだ。それから明るい朝の日差しが差し込む窓を見て、呆然と呟いた。

「…朝…?我は…眠っていたのか?」



 『スラリ…』と静かに座敷のふすまが開き、まると一緒に寝起きのベルさんが出てきた。なぜかボーッとしている。

「あ、ベルさんおはよー」

「…イチエ…?ここは…」

「ここは人間界(?)の黒滝家ですが?」

「魔族の国(ルフェルディア)では…」

「ないですね~。でも、ぐっすり眠れたみたいで良かったです!今、朝ごはん用意しますね」

私は飲んでいたカフェオレのカップを置き、炬燵(コタツ)から立ち上がった。入れ替わるようにベルさんが向かい側の座布団に座る。

「…やはり、我は眠ったのか…」

「何言ってんですか、めっちゃスヤスヤ寝てましたよ?睡眠は体にいいんだから、僥倖ですよ?」

「そうか…」

ベルさんは呆けた顔のままボーッとしている。私は食器棚からマグカップを出して、ポットからお湯を注いだ。朝に飲む白湯は体にいいらしい。

「白湯でも飲んで、目を覚ましててくださいな」



 昨晩、お風呂からあがったベルさんは約束していたアイス(ハーゲン◯ッツ抹茶味小豆添え)を食べ、いざ就寝…となった時、日本式寝具…オフトゥンに相当渋っていた。


 「床に寝るのか?!」とか「ベッド以外で眠った事など無い!」とか色々言っていた。が、宥めすかして渋々布団に入った途端、飲み込まれる様に眠ってしまった。

(そりゃね、お客様用のお布団を半日天日干ししてフッカフカにしましたからね!それに合わせて肌触りのいい毛布とネコチャンの癒しコンボに勝てるほど、ベルさんに元気が有り余ってるとは思えないし…)


 本当は私が寝るはずだったが、魔王様に譲ってやったんだから。ぐっすり眠ってもらわないと困るのよ…と私は頷いた。



 ベルさんの朝ご飯を用意する為、キッチンに立つ。自分は既にもう済ましているので、温め直すだけだが。私は味噌汁の鍋を火にかける。

 ちなみに、現時刻は朝の9時半。結構なお寝坊さんだ。まぁ、朝ご飯がブランチにならずに済んでよかった。

 

 朝の献立は、『鮭と大葉の混ぜ込みおにぎり』と『かぼちゃと玉ねぎの味噌汁』と『人参と卵の簡単シリシリ』他、漬物など。

 ベルさんは特に、朝はしっかり食べて、体を起こして温めてもらわないと。これも『マナ』とやらの回復になっていればいいけど。


 炊飯器で保温しているご飯をボウルに取り出し、事前に準備していた解した焼き鮭と刻み大葉を入れて混ぜる。大葉の香りがフワリと立ちのぼり、いい匂いだ。白ごまを捻ってパラリと散らし、ラップに取り分けておにぎりを握る。最後に、持ちやすいように海苔を巻いて完成!


 『シリシリ』をレンジで温めている間におにぎりと漬物を皿に盛り付ける。味噌汁は沸騰させないように、直前で火を止めてお椀によそう。


 それらを盆に乗せてリビングの炬燵へ運ぶと、ベルさんはボサボサの頭のまま、膝に乗ったまるを撫でていた。白湯は三分の二程飲み終わっている。

(いくら起き抜けとはいえ、このままご飯を食べるのは良くないわね)

「ベルさん、食べる前に髪まとめよ?梳かしてあげるからちょっと待ってて」

私は昨晩もベルさんに使ったホテルアメニティ(使い捨て)のくしを手に、彼の後ろに回った。昨日よりいくらか艶を取り戻したベルさんの黒髪は、トリートメントのおかげかくしの通りも少しよかった。髪を梳かして簡単にシュシュで纏める。私物のカワイイ柄のシュシュがなんだか可笑しい。

「はい、出来た。食べていいよベルさん」

「…うむ『いただきます』」

ベルさんは教えた通り、そっと両手を合わせて厳かに唱える。私は新しいカフェオレをマグカップに作り、まるを連れてベルさんの向かい側に座った。


 人様の食事をジロジロ見るのはマナー違反だが、作り手としては反応が気になるところ。私はガン見しない程度に、チラチラと彼が食べる様を見守った。


 ベルさんは最初に汁椀を手に取り、息を吹きかけ冷ましてからゆっくりと口をつけた。なんだかんだ順応力強いよなぁ…等と思う。

「…ん…、甘い?」

「かぼちゃのせいかも…大丈夫そ?」

思ってたんと違う!と思う人はいるものね。でもかぼちゃは胃腸に良いんだよ。私が尋ねるとベルさんはコクンと飲み下し、微笑んだ。

「あぁ、嫌ではない。美味い」

「そっか、よかった」

「…しかし、野菜が多いな…」

ベルさんはスプーンで薄切りにしたかぼちゃを掬って食べながら、目の前に広げられた朝食を見て呟いた。そうだった、この人『野菜より肉』派だった。私は苦笑いをした。

「野菜は体調を整えるのに必須なんで食べてもろて…あ、そのおにぎりには鮭…お魚入ってますよ!」

「んむ……、美味い…なんだこの爽やかな香りは」

ベルさんは右手に持った『鮭と大葉のおにぎり』を凝視した。

「それに、この穀物の食べ応え…噛み締めると奥にある甘みがなんとも…うん…美味い」

あっという間に1個目を平らげる。フフフ…どうだ参ったか、その米は新米様やぞ…!と私は密かにほくそ笑む。もしかしたら、2個じゃ足りなかったかも知れない。 

「大葉の香りはストレス解消に効果がありますよ!あと鮭は…」

「イチエよ」

「はい?」

「お前は我に作る料理の何が、どう作用するかを教えてくれるが、この世界の人間はそういう学問を皆が学ぶのか?」

ベルさんが真っ直ぐにこちらを見ながら尋ねてきた。私は、はた…と動きをとめる。

「あ~…、私のコレは親の影響と言うか…『そういう学問』を個人的に学ぶ人はいるけど、殆んど趣味みたいなものですよ」

「趣味…?」

ベルさんは目を丸くする。

「一般教養の他に、身に付けたい知識や学問を個人的に勉強するんです。私の場合は母親がそ(・)う(・)で、うんちくを聞いてる内に覚えちゃったと言うか…」

「なんと…この世界は教育のレベルが高いのだな。そして、お前のご母堂は薬師か魔女殿だったか…その知識、称賛に値する」

「ぶっ!!ww」

真面目な顔をして我が母親を『魔女』と称賛したベルさんが可笑しくて、私は思わず吹き出してしまった。黒いローブと帽子を被り、大釜をかき回す母の姿が脳裏に浮かんだ。まぁ、確かに母は魔女みたいなものです。色んな意味で。

「…なぜそこで笑う」

「フフッ…いや、『言い得て妙』って感じ…?」

ベルさんは、なぜか急に笑った私に怪訝な顔をしながら、2つ目のおにぎりを頬張った。

第9話は10月19日、8時20分に更新します

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