第3話「過去をなぞる」
その日は、そのまま家に帰ってみた。
案の定、ちはると結婚したときに買った家具はなく、大学生の時に使ってた家具があり部屋の配置もそのままだった。
「いったい、どうなってるんだよ」
何か、未来に戻れる方法はあるのかと思う。
まずは、昔の僕はどのようにしてちはると付き合うようになったのか整理してみた。
スマホの写真を確認すると、幸いに今まで2人の写真は残っており、スマホは2026年仕様になってる模様。
あ、カレンダーも2021年にスクロールされてる状態だったんだ。
海介に言われて確認した時はまさか、年号が違ってるとは気付かなかった。
A4サイズのコピー用紙を用意する。
限りある写真の日付を見て、書き出していく。
2021年
11月10日(本日)。ちはると始めての会話
11月20日 ちはるとのご飯
11月25日 ドライブ
12月10日 ご飯
12月25日 ご飯
確か、25日に一緒にご飯を食べて、ちはると付きあうことになったな。
よし、一旦これ通りに進めていこう。
次の日から、僕は大学生活をやり直すことになった。
とはいっても、僕自身は大学生として生活しているわけではない。
仕事に行っているはずだったし、昨日まで妻の病院に通っていた。
それなのに今は、5年前の大学にいる。
なんとも不可解な感覚だった。
僕はその日はただ不安を抱きながら、眠りにつくしかなかった。
11月11日。
次の日は普通の大学生らしく、大学へと向かった。
とういのも、大学に行くしか考えに浮かばなかった。
「春樹、今日時間ある?」
昼休み、海介が声をかけてきた。
「時間があるというか……まあ、あるな」
「なんだよ、その返事」
「いや、大学ってこんなに暇だったかと思って」
「お前、昨日から様子おかしいぞ」
「昨日から?」
「うん。昨日の打ち上げのときもずっとぼーっとしてたし」
「まあ、少し色々あってさ」
「仕事のこと?」
「まあ……そんなところ」
海介はそれ以上踏み込んでこなかった。
こういうところは昔から変わらない。
余計なことは聞かず、困っているときは自然とそばにいてくれる。
だからこそ、僕は海介と友人になったのだと思う。
「そういえばさ」
海介がふと、ちはるの方に視線を向けた。
「昨日言ってたけど、本当にちはるちゃんのこと気になってるの?」
「……まあな」
「やっぱり?」
「うん」
「お前、昨日までほとんど話したことなかっただろ」
「そうだけど」
「一目惚れか?」
「……分からない」
本当に分からなかった。
僕はちはるを知っている。
しかし、今のちはるを知っているわけではない。
だから、今の自分が彼女を好きなのかと問われると、少し違う気もする。
ただ、彼女が目の前にいると、どうしても視線が向いてしまう。
「じゃあ、今度食事でも誘えば?」
「11月20日まで待つ」
「なんで?」
「……なんとなく」
「何それ」
海介が笑った。
僕は適当に話を濁した。
11月20日は、僕の記憶では、その日にちはると初めて二人で食事をする。
それまでは余計なことをしない。
そう決めていた。
ところが、その日の放課後。
大学の廊下でちはるとすれ違った。
「新山くん」
「ん?」
「今から帰るの?」
「うん」
「じゃあ、駅まで一緒に行かない?」
「……いいよ」




