第2話「今って、何年?」
そして、口にした。
「ごめん。今すぐ渋谷駅に向かう。今、新橋だから、20分くらいで着くと思う。どこかぶらついておいてくれ。着いたら連絡する」
「おう……」
電話を切った。
僕は完全に忘れていたし、覚えていない。
海介と一緒に遊ぶ約束をしていたことも。
いや。
それ以前に、今日という日そのものを何か勘違いしているような気がした。
僕は急いで新橋駅へ向かい、渋谷行きの電車に乗り込んだ。
どっちみち、今はちはるに連絡できない。
それなら、ちはるの連絡先を知っているはずの海介に会って、電話番号を教えてもらえばいい。
それだけだ。ついてない日だ。
海介とは大学が同じで大学2年生の時に知り合った。
大学一年生の頃から、K-POPアイドルのような塩顔イケメンだった海介は、その顔を隠すことができず、入学一年目にしてミスターキャンパスになった。
大学でよく見かける、食堂で騒ぎ散らかす常に格好をつけている学生たちとは違い、ミスターになったからといって威張るような男ではなかった。
同じ学部で大会運営をしていた僕なんかにも気さくに声をかけてくれた。
優しくて誰にでも気さくなく接してくれるいいやつだ。
僕はもちろん、大学ミスターなんかの友達と言っていいのかというレベルの人間で、東京に出てきたのも大学生になってからだ。
大学生になりたての時は、メンズ雑誌を買ってよく勉強をしたものだ。
まあ、地味な男だ。
「まもなく、渋谷駅です。」
アナウンスが流れた。
僕は早めに席を立ち、扉の前に立った。
渋谷駅で降りるのも久しぶりだな。
大学生のころは毎日降りて、歩いて大学まで行ったな。
隣には、白のパンツに紺色のt-シャツとラフな服装に見えながら、
身に着けているブレスレットはブランド品も身に着けている学生も降りるようだ。
僕が通っていた大学は東京の象徴といえる表参道に位置してあり、
おしゃれでイケメン美女が通うとされている大学で、僕は完全に来る大学を間違えたのである。
というのも、受験生のころは滑り止めとして受けた大学で通う予定ではなかったのに、
まさかのこの大学しか合格を頂けず、僕にとっては浪人になる危機を防いでくれた救いの大学なのだ。
無駄な考えをしながらも久しぶりの合う友達に会うも、
すぐにちはるの連絡先を聞いてすぐに別れなければならない状況を惜しんだ。
渋谷の空は赤紫色をしており、そろそろ夜を迎えそうだ。
「海介!」
後ろ姿は海介だ!なんだ、この大学生みたいなラフな格好は。
下はダメージジーンズに、赤のラインの入ったポロシャツ。
「申し訳ない。すっかり約束をしていたことを忘れていたよ。」
「春樹が約束を忘れるなんて珍しいな! まあ、夜飯は奢ってもらうからな」
「分かったよ」
「でもよ、春樹。どうしてスーツなんか着てるんだよ?」
「何言っているんだよ。会社だよ!会社!終わってから、すぐにちはるに会いに行こうと思って
病院に向かったんだけど、海介から連絡があって渋谷に来たんだよ」
「いや、会社?もうインターン?それに、さっきの電話でもそうだけど『ちはる』って誰ですか?」
「え?」
「まさか、彼女できたのか?抜け駆けはやめろよ~」
「おい。俺の奥さんだろうが!忘れちゃったのか?
海介の次の年にミスコンに出て準優勝した藤山ちはる!」
「あ~あの子か!俺、上の名前で憶えてたから。下の名前忘れてたわ!」
「いや。やばすぎ。奥さんって。あのこって、違う子と付き合ってなかったけ?」
「あういうさっぱりした顔の子が好きなんだ~!レベル高いなー」
「海介、さっきから何を言っているんだよ?」
「まぁ!春樹の妄想話が面白かったから、遅刻を許してあげるぜ。さぁ、今日は,,,」
「うん?話がかみ合わないな。つっこみどころ多いけど、ごめん。時間ないんだ。」
「え?」
「ちはるの連絡先、持っているだろ?ちょっと教えてくれない?」
「いや!だから、さっきまで苗字しか覚えてなっかたレベルの子だよ?連絡先なんて知らないよ」
「はぁ???おい。薄情だな。一緒に海介の彼女と一緒とも4人で山にキャンプに行ったじゃん。連絡先、まさか消したの?」
海介が、怪訝そうな顔をする。
「話がかみ合わないし、おかしな話をずっとしているのは春樹だよ。」
「……」
「こんな大事な日に、体調悪いのか?」
「大事な日ってなんだよ?」
焦りが募り、手に汗が滲んだ。
「いや~まさか春樹がこんなに今日に向けて積極的になってるとは」
にやにやしている海介がうざい。
こっちは少しもふざけていない。
「もったいぶらないで早く話せよ。マジで、早く行かなきゃ行けないんだよ、申し訳ない。」
それでも、何も知らない海介に当たるのはちがう。
ちはるの連絡先を聞いて、連絡してすぐに病院に戻る予定だ。
ちはるが病院で待っている。
少ししか会えないが、それだけでいい。
遅れた理由を説明しなければ。
「今日はミスコンに出場者と運営者で大学で集まり、お疲れ会だろうが!」
「は?」
「いや、ほら。文化祭後は大学近くの居酒屋とかレストランとか予約取りにくいし、時間を空けてから打ち上げしようってなってたじゃん」
「春樹と俺は、買い出し担当じゃん」
頭の中が真っ白になった。
頭が混乱した俺は、海介の言葉よりも
自分のカレンダーを信じて、ケータイを開きカレンダーを確認した。
『海介と17時半、渋谷駅。ミスミスターコン打ち上げ会(19時)』
病院の受付で確認したとき、カレンダーを開いただけで、予定の全文を確認していなかった。
海介が言う通りだった。
今日はミス・ミスターコンの打ち上げ。
でも、おかしい。
買い出し?僕なら、打ち上げというものは憂鬱で仕方ないものだ。
絶対に2か月も3か月以前から、この日を覚えているはずだ。
『文化祭後は大学近くの居酒屋とかレストランとか予約取りにくいから』って、何年後だよ。
とういよりも、いつの時のミスミスターコンの打ち上げだよ。
「春樹さん」
海介が僕の顔の前で手を振った。
「もうそろそろ買い出しに行かないと、打ち上げに遅れますよ」
「……ごめん」
僕は海介を見る。
「本当に申し訳ないんだけど、今日なんだ。完全に忘れてた」
「そういうこともあるだろ」
海介は笑った。
「そういうこともあるだろ。会社?だったんだろ。インターン行ってたんなら、教えてよ!就活の抜け駆けかよ!一緒にやろうぜ」
「ごめん」
僕は頭を抱えた。
「今日、ちょっと会社終わってから、ついてなくて……混乱してるんだ。ふざけるのはやめてくれ」
海介が僕の肩を叩く。
「きっと、その藤山ちはるさんも来るよ~。俺がアシストしてやるよ♡」
「……どうして、ちはるが来るんだよ」
「そりゃ来るでしょ」
海介は当たり前のように言った。
「今年の準ミスでしょ?」
「……」
僕は海介の顔を見る。
「ねえ」
「ん?」
「おかしなこと聞くけどさ」
「うん」
「今って、何年?」
海介が笑った。
そして、何でもないことのように答えた。
「2021年」
僕は、何も言えなかった。




