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引きずらない

 翌日、ほんの少しだけクラスに入るのが気まずく、いつもより遅く学校に行き、真っ先に小夏を抱きしめた。


「どうしたんだ依吹っち! 今日は依吹っちが甘々だな〜」


 小夏はぎゅ〜っと私を抱きしめ返すと、頭を撫でる。


「小夏に触れていると安心する」

「依吹っちは可愛いな〜。……彼女にもこんなことしてるのか?」


 少し黙り、すみちゃんとの事を思い返す。


「ううん。した事ない」

「ないのか⁉︎」

「うん。ないよ。小夏だけ」

「なんか照れるな〜」


 小夏は小さくそう呟いた。顔の角度を変えたからか、小夏の吐息と共に吐き出されたその言葉は少しこそばゆかった。


「はよ〜。どしたのいぶっちゃん。いぶっちゃんがこなっちゃんに抱きつくなんて珍しい」

「うーん、ちょっとね。瀬野君に申し訳なくて。小夏から元気もらってたの」


 白葉ちゃんは空いている私の方の席に座った。


「まあそう引きずらなくてもいいよ。どうせすぐ新しい相手見つけるよ。振った側に重荷背負われちゃ、振られた側も気が晴れないでしょ」

「そうかな?」

「そうだよ。まあ、いぶっちゃんは告白受け入れたことしかないから分からないだろうけど、意外と振られた方は翌日にはケロッとしてるもんだよ」

「えっと、私告白されたの瀬野君が初めて」

「へー……はぁ⁉︎ は、はぁ⁉︎ え、じゃあ彼女いるってなんだったの?」

「そうだぞ依吹っち! 矛盾するぞ!」


 すみちゃんは今離れたところで橋野さん達と話していて、勝手に喋っていいのか判断つかないけど、きっと、これくらいなら許してくれる。


「えっと、その子モテる子でね、告白が絶えない子なの。嘘つくのも苦手な誠実な子でね。だから、告白を断る口実として、私と恋人関係を築いているって感じで。だからその、恋愛感情を持つ恋人同士ではないの」

「めちゃくちゃ利用されてるじゃん」

「でも、その子良い子だから。私が好きで承諾したっていうのもあるし。受け入れた以上は、その子に好きな人ができるまではこの関係続けようかなって」

「だから依吹っち、彼女とハグとかもしたことないのか?」

「そうだね。手とかは繋ぐけど、それくらいかな」


 小夏は唸りながら、手をわきわきさせる。


「なんか、上手く言えないけどむがむがしてすっきりしないぞ。依吹っちの好きはどうなるんだ?」

「あまり考えた事なかったかな。そもそも自分が誰かに好かれるとか考えた事なかったから」

「あたしはこんなに依吹っちの事好きなのに伝わっていないのか⁉︎」

「伝わってるし、私も小夏の事好きだよ。でも、恋愛的に好かれるとか、そういう可能性考えたこともなかったし、私自身もそういう感情抱くとか考えた事なかったの。昨日彼女に、もし付き合っていなかったら瀬野君と付き合ったのかって聞かれたの。私ね、分からなかったの。承諾している姿も断っている姿もどっちも想像できなかったから」


 白葉ちゃんはやれやれと言いたげにため息をついた。


「じゃあ、お願いって言われたらどう?」


 白葉ちゃんに言われて想像してみると、空白だった言葉が埋まった。


「受け入れちゃう、と思う」

「一種の呪いだね。いぶっちゃんはもう少し自分本位になるべきだと思うよ。改めて考えてごらん。いぶっちゃんは瀬野と本当に付き合いたいと思う?」


 瀬野君と本当に付き合いたいか……。


「もし付き合うなら、私としてはもっと瀬野君の人となりを知ってからがいいかな。だから、今は付き合いたいとは思えないかも」

「つまりそれは付き合いたくないって事だよ。ほら、ちゃんとあるじゃん。自分の意志。もっとちゃんと知ってあげよ、自分の意志。相手のことばっか考えたって、最終的には誰も幸せにならないよ」

「そうだぞ依吹っち。嫌なことは嫌って言っていいんだぞ。あたしに甘えたかったら甘えたいって言っていいんだぞ。思う存分甘やかしてるやるぞ!」


 私は小夏を抱き上げ、膝に座らせて、小夏の肩に顎を乗せる。


「ありがとう。やっぱり小夏はこっちの方が落ち着く」

「すごい滑らかに体制変えられたぞ……⁉︎」

「小夏は羽のように軽いから」


 予鈴がなって、離れていたすみちゃん達が戻ってきた。


「藍川、おはよ」


 瀬野君はちょっと照れ臭そうに私に挨拶をした。

 きっと、本当に私に引きずられる事を望んでいないんだろうなって思えたから、いつものように笑顔を向けて、おはようって返した。


 白葉ちゃんはそれを見て、満足そうに頷いていた。

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