ボーリング
私は五人組の方で、すみちゃん、日南さん、瀬野君、篠原君と一緒になった。
六人グループとは違い、男女二、三で別れて座れる為、すみちゃんが真ん中で、私と日南さんが端に座った。
すみちゃんも日南さんも篠原君も、もちろん私も、あまり自ら盛り上げるタイプではない為、瀬野君が頑張って一生懸命喋っている。
対して向かいのグループは盛り上げ上手な人達が集まっているから、一分も経たないうちに楽しそうな声を響かせている。
「えっと、とりあえず誰から投げる? 投げたい奴いるか?」
「別に僕はこだわりない。最初でも最後でも間でもどこでも構わない」
「じゃあとりあえず篠原一番な。他希望ある?」
「私は純蓮の後だと助かるわ」
「じゃあ沙雪の後い──藍川さんにして
「酷い提案ね」
「いやらしい順番希望出すからだよ」
すみちゃんは少し拗ねつつも笑みを溢しながら日南さんの方を見ていた。
「じゃあ最後俺な。登録したから篠原もう投げていいぞ」
「景気づけにストライクでも取ってあげるよ」
そう言って余裕を見せていた篠原君の結果は六本だった。
「ちょっとここのレーン曲がってない?」
「篠原が下手なだけだよ。次七木投げていいぞ」
「うん」
深呼吸をし、真剣な顔をして投げたすみちゃんのボールは、真っ直ぐGの文字を刻みに転がった。二回とも。
「ダメだった〜」
「どんまい」
「安心しなさい。私が純蓮の分も倒してあげるわ」
そんな日南さんの結果は八本だった。
「私だけずっとガーターだったらどうしよう〜」
すみちゃんは冗談っぽく自嘲気味にそんな事を言っている。
「えっと、七木さん、投げる時腕が左に曲がっちゃっているから、ボールがピンの方に向かわないんだと思うよ。勢いつけずにゆっくりでいいから、腕を真っ直ぐにしたまま投げてみたらいいと思う。やってみるから見てて」
ゆっくりと転がっていくボールは、ほんの少しずつ中央から逸れるものの、着実にピンに当たり、数本落としていく。
「で、腕を真っ直ぐにしたまま投げれるようになったら、勢いつけてもいいと思う」
2回目に投げたボールが全てのピンを倒し、私のスコアにスペアが刻まれた。
「凄いわね依吹さん」
「ありがとう」
「スペアなんて出されたらストライク出すしか男としてのメンツが保たれないな」
瀬野君はそう言いながら、私と入れ替わるように立ち上がる。
「そんな事ないよ。結局楽しくやるのが一番だから」
「ガーター取ったところで藍川は気にしないってよ。でも、ストライクぐらい取らないと今まで通ってた分無駄になるかもな」
瀬野君はうるせと言いながら篠原君を小突くと、ボールを取って勢いよく投げた。
綺麗に真ん中に当たったものの、端っこ二本が残ってしまい、その二本を次で倒し切れなかったので、結果は九本だった。
「くっそー」
「でも凄いね瀬野君。ストライクだった可能性もあったわけだし」
「んっ……お、おう。ありがとな」
瀬野君は力を緩めてそう微笑んだ。
「さてと、僕は瀬野の引き立て役になるとしますか」
そんな篠原君が倒したピンの数は一本だった。
想定外過ぎたのか、これは瀬野の為と、恥ずかしそうに何度も口にしていた。
すみちゃんの番が回ってくると、すみちゃんは私の肩を叩いた。
「藍川さん。側でボールの投げ方教えてくれない?」
「いいよ」
投げ方、姿勢、勢い、順番が来る度に教えていると、徐々にガーターの回数が減り、倒せるピンの数も増えていった。最終ゲームでは、全てのピンを倒せた、なんてことはなかったけれど、すみちゃんは満足そうにしていた。
対照的に瀬野君は、静かに独り言を零すように、俺も下手でいればよかったと口にしていた。
◇◆◇◆◇
小夏はもう自分の番が終わったのか、グループを抜けて私の膝に座りにきた。
「なーなー依吹っち、さっき向こうで話してたんだけどな、依吹っちは今日いる人の中だったら、誰と付き合いたいか?」
「うーんそうだね〜」
すみちゃんとの関係は、恋人関係以前に親しいことすら、すみちゃん自身あまり知られたくないみたいだし、選択肢に入れるのはやめておこう。
それにしても、凄い皆聞き入っている。グループ違うのに白葉ちゃん達まで興味津々。やっぱり皆、恋バナ大好きなんだな。
「ちなみに小夏は誰なの?」
「知りたいか?」
「知りたい」
「依吹っちが答えたら教えてあげるぞ!」
「ずるい答え〜」
小夏をくすぐりながら少し考えて、一番に思い浮かんだ人の名前を口にする。
「小夏かな〜」
「おー! 両思いだー!」
「えー依吹ちゃん男子じゃないの〜? 男子は〜?」
皆が真剣な眼差しで私を見つめ、男子の場合も考えないといけないのだろうかと考えていると、小夏が目一杯両腕を上げた。
「別にいいじゃないか! あたしの依吹っちを他にもあげるなー! 依吹っち、誰かに手を出される前にあたしのものになれー!」
小夏の一声で、若干言わなきゃいけなかった雰囲気が和らいで正直助かった。
「ありがとう小夏。でも大丈夫だよ」
「何がだ?」
「小夏のものにならなくても大丈夫だよ」
「あたし今さりげなく振られたのか?」
小夏がきょとん顔で私の方を見て、思わず笑みが溢れる。
「告白してくれてたの? ありがとう。でも、だったら尚更気持ちには応えられないかな〜」
「どうしてだ依吹っち! あたし達両思いのはずだろ!」
「そうだね。でも、私もう付き合っている人がいるから」
「なんだそっか〜。付き合ってる人が……えっ?」
なんか今、初めて小夏の素というか、ありとあらゆる属性が外れた小夏を垣間見た気がした。
「いぶっちゃんフリーじゃないの⁉︎」
そして今初めて、思いっきり驚愕している白葉ちゃんを見た気がする。
「えっと……うん」
「いつから⁉︎」
「中学から」
「そんな前から依吹っちは彼氏のものだったのか⁉︎ あたしのものになる未来全くないじゃないか⁉︎」
「あ〜えっと、彼氏じゃなくて、その、彼女」
そう言うと、我慢できないと言った感じで中原君は笑いながら項垂れている瀬野君の背中を叩いた。
「諦めろ瀬野〜。中学から、しかも彼氏じゃなくて彼女な時点でお前に勝ち目全くねーよ」
「うるっせーよこのやろ」
「残念だったね瀬野。リサーチ怠たるから」
「うるっせーよまじで」
「まじごめん瀬野。クリスマスあたしらと遊んでたし、モテないとか言ってたから相手いるとかまじで思わなかった」
中原君と大澤さんは若干からかいを混ぜて笑いながらだから、顔を引き攣っている白葉ちゃんが引き立つ。
「もういいよ。まだ諦めがつく……」
瀬野君ってもしかして……。
「瀬野君、私のこと好きだったの?」
瀬野君は耳まで顔を真っ赤にして、顔を伏せた。
「どうなんだい瀬野君〜」
瀬野君はちょっかいかけている篠原君を片手で払いながら、少し顔を上げて、指の隙間から目を覗かせて私の方をはっきりと見る。
「好き、です」
若干の涙が滲んでいて、その目を見た瞬間、心が一気に重くなって、罪悪感が渦巻いた。
「そう、なんだ……。えっと、ありがとう。その、気づかなくてごめんね。それと、気持ちに応えられなくて」
「いいよ。藍川は何も悪くない。ちゃんと事前に知ろうとしなかった俺が悪いから」
「ヒューヒュー。好きな子にはちょー優しいじゃん瀬野〜」
「純蓮といい、依吹さんといい、瀬野は毎回恋人持ちを好きになるのね。そういえば、中学で私に告白してきた時も丁度彼氏がいた時だったわね」
「不憫やな〜瀬野。好みも分かりやすいしな〜」
「お前ら絶対殺す……」
微妙な空気を纏ったまま、私達は解散した。
◇◆◇◆◇
皆から見えなくなったところで、私とすみちゃんは二人横に並び、手を繋ぐ。
「すみちゃんはすごいね」
「どうかしたの?」
「すみちゃん、中学生の頃からよく告白されて振ってきてたでしょ。今までこういう罪悪感を感じながら日々を過ごしていたのかと思って」
すみちゃんは白い息を吐き、どこか遠い目をしながら、慣れるよ。と一言呟いた。
「ねえ、いぶ」
「ん?」
「もし、私と付き合っていなかったら、いぶは瀬野君と付き合ってたの?」
私はすみちゃんの家に着くまで黙っていた。どうしていたか、なんて答えたか、頭の中でシミュレーションしても、答えを出す時になると言葉が思い浮かばなかった。
「分からない」




