グーとパー
ボーリングに行くため、いつもより早く起きて、久しぶりに日曜日に外出する。
「いってきまーす」
パパの行ってらっしゃいを背に家の外に出ると、門の側ですみちゃんが塀にもたれていた。
「すみちゃん? おはよう」
「いぶ、おはよう」
すみちゃんは私の方を見ると、口角をほんの少し上げた。
「待っててくれたの?」
「音が聞こえたから、いぶ出てくるのかなって」
すみちゃんはそう言いながら、赤くなった両手を合わせて摩っている。
「じゃあ、一緒に行こうか」
私は片手をコートのポケットに。もう片手はすみちゃんの手を握り、同じくコートに入れる。
「い、いぶ?」
「赤かったから。ちょっとは温かくなるかなって」
すみちゃんは少し俯いて、片方の手を口元に持っていき、呼吸を当てながらありがとうと言った。
「あのね、いぶ」
「うん?」
「今日、多分グーとパーで別れると思うんだけど、いぶにはグーを出し続けてほしいの」
「別にいいよ」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ、約束ね」
集合の最寄駅で私達は手を離し、少し離れて集合地まで向かった。
まるで、今そこで会ったかのように、二度目の挨拶をすみちゃんとする。
「皆早いなー。あたし今日は結構早く来れたと思ったんだけどな〜」
「言うて時間ギリギリだろ。小森お前、普段どんだけ遅れてるんだよ」
「失礼な。ちゃんと遅れないように努力してるぞ。依吹っちと遊びにいって遅刻したことないしな。な、依吹っち!」
「そうだね」
「まあ全員揃ったなら行きましょか。寒いし」
白葉ちゃんのその一言で、皆自然と二人組三人組を作り、ボーリング場に向かって歩いていく。
さっきすみちゃんと繋いでいた手は小夏と繋ぎ、逆にすみちゃんは両手とも吹きさらしにしていた。
「いぶっちゃん、ボーリングとかよく来るの?」
「実はあんまり。子どもの頃家族とやったくらいだと思う。中学生の頃とか、遊びってなるとショッピングかカラオケかって感じだったから」
「じゃあボーリングあたしの方が上手いかもな! あたしはよくボーリング行ってたからな!」
「そうなんだ。小夏はどこでも楽しんでくれそうだから、色んなところ連れて行きたくなるからだろうね」
「でもガーターばっかりだったんでしょ」
「それは言わない約束だぞ白葉っち!」
小夏がほんの少し膨らませた頬を少しずつ摘み、元の形に戻す。
「小夏のほっぺ冷たいね」
「依吹っちの手はあったかいな〜」
「そう?」
「手袋要らずだ!」
さっきまでずっとポケットに入れていたおかげでもあるのかな。
「そんなにあったかいならあたしの手もあっためてほしいよ」
「じゃあ、白葉ちゃんも握る?」
白葉ちゃんに手を向けると、ありがたいけど通行の邪魔になるかもと断られた。
「それに、冷たくしちゃったら本末転倒だしね」
「私は気にしないよ」
「いぶっちゃんに甘えるとあたし自身がダメになりそうだからってのもある」
そんな他愛のない話をしていると、いつの間にかボーリング場についていた。
「俺受付してくるな」
瀬野君が抜けている間に、白葉ちゃんが私だけを連れて少し皆から離れて話しかけてきた。
「いぶっちゃん、グループ分けなんだけど、パー出してくれない?」
どうしよう。すみちゃんからはグーを出してほしいって言われたのに。
今皆と話しているすみちゃんに相談持ち掛けるわけにもいかないし。
「えっと、私グーを出し続けようかと思ってて」
「そこをパーにしてくれない?」
「その、とある事情で私は今日グーしか出しちゃいけない事情でして」
「いぶっちゃんはバトル漫画の住人なの?」
白葉ちゃんってそんなツッコミもするんだって、少し新鮮だった。
「て、そうじゃなくて。えーっと、うーんと、パーダメ?」
「そう……だね」
白葉ちゃんは難しい顔をしていたけれど、瀬野君が受付済ませてきたぞと声をかけた瞬間、急いで瀬野君の元に行き、何かを話していた。
瀬野君は一瞬焦ったように視線を私に向けた。
白葉ちゃんが小夏に何かを言っている時、瀬野君も近くの人に何か話しかけようとしていたが、橋野さんの一声で、強制的にグループ分けが始まった。
「グーとパーで分かれましょ!」
綺麗に六、五で別れたのに、微妙な空気が私達の間に流れた。




