修学旅行⑪
既に大浴場の貸切の時間は終わり、結構クタクタなのもあって、部屋のシャワーで済ませる。
「あれ? 白葉ちゃんもう寝たんだ」
「なんか今朝早く目が覚めたから眠いって寝ちゃったよ。そんなことより依吹ちゃん、髪乾かしてあげる」
あゆちゃんは既にドライヤーを携えてやる気満々だったので、お言葉に甘えることにした。
「じゃあ、お願いしようかな」
「やったー」
鏡台の前に座り、あゆちゃんに髪を乾かしてもらっていると、小夏が私の膝に座ってきた。
「あ! 小夏ずるい!」
「ここがあたしの定位置だからな!」
小夏は鏡台に置いておいたスキンケア用品を手に取って、私の顔に塗っていく。
「こんな風にな、マッサージしながらやるとハリも出ていいんだぞ」
「あ〜。なんか気持ちいいね。ほぐれていく感じ」
「だろ〜。人にやってもらうと特にな。あたしも叔母さんとかにしてもらってた時は気持ち良かったな」
小夏はパックをつけると、一段落ついたとばかりに欠伸をする。
「小夏眠い?」
「眠いな〜」
「じゃあ依吹ちゃんのことはわたしに任せて、小夏はさっさと自分のベッドに入って寝なさい〜」
「依吹っちがいないと寝れないから無理だな〜」
「この甘えため。昨日も依吹ちゃんと寝ててずるい」
「そういえば、あゆちゃんはいつ私のベッドに入ったの?」
「ん〜四時とかそれくらいかな〜。喉乾いちゃって。せっかくだから依吹ちゃんの寝顔見たいなって思って見たら一緒に寝てるんだもん。ずるい! だからわたしも一緒に寝たの。嫌だった?」
「嫌じゃないよ」
「じゃあ今日も一緒に寝よ」
「あゆっちもくると狭くてやだな〜」
「じゃあ小夏一人で寝ればいいじゃん」
「やだ〜」
小夏はぐいぐいと私の胸に頭を押し付ける。
「小夏はママにもこんな感じで甘えん坊なの?」
小夏は声も動きも大人しくなり、小さくなんでだ? と聞いてくる。
「ママって言ってたから」
「ああ、そっか。無意識だったな。全然、甘えん坊じゃないぞ」
「うっそだ〜! 小夏は絶対甘えん坊でしょ! 自覚ないだけだよ」
「残念ながら小夏ちゃんは事実しか言ってないんだな。全然、家では甘えん坊じゃないんだ。あゆっちの方が我儘酷そうだよな」
「まああゆちゃんは箱入り娘ですから」
あゆちゃんは得意げにそう言い放つ。
「否定しないのか」
「別にわたしはそういうの悪いことだと思ってないもん。依吹ちゃんはどうだったの? あまり手が掛からなさそうだよね」
「そう見える?」
「依吹っちがあまり我儘言ってるの想像つかないぞ」
「どうだろうね。私は我儘言っても親が許してくれてただけだから」
「親が許している時点で十分いい子ちゃんだよ」
「七木さんはどう思う?」
私は鏡越しに、不満気な表情を見せているすみちゃんに語りかける。
自分に振られるなんて思っていなかったのか、驚いた後、急いで笑みを作っている。
「そうだね、藍川さんのことだし、昔からずっと今みたいに優しかったと思うよ。まあ、もう少し積極的だったかもしれないけれど」
「積極的な依吹ちゃんか〜……超〜アリ〜!」
「積極的な依吹っち……あ、あたしは赤ちゃんじゃないぞ……⁉︎」
小夏は一体どんな想像をしたのだろうか。いくら私が積極的になろうと小夏を赤ちゃん扱いすることはないし。
「大丈夫、分かってるよ」
小夏の頭を撫でて落ち着かせていると、髪をいじるのをやめたあゆちゃんが、私の肩に顎を乗せる。
「小夏は赤ちゃんじゃなくても幼児みたいだよね〜」
「赤ちゃんじゃなければなんでもいいぞ」
「変なの〜。あ、依吹ちゃん、髪終わったよ。癖つかないようにちょっとまとめてみたんだけど、依吹ちゃん綺麗なストレートだしいらなかったかもね」
あゆちゃんは三つ編みにした髪を撫でながら、見せるように前に持ってくる。
「そんなことないよ。可愛くしてくれてありがと。この髪留めあゆちゃんの?」
「依吹ちゃんにあげる。わたしいっぱい持ってるから」
「私あまり髪留めとか気にしたことないから嬉しい。ありがとう」
口を閉じたまま頬を綻ばせたあゆちゃんを見るなり、小夏はおかしそうに笑った。
「あゆっち変な顔〜」
あゆちゃんは何も言わず、素早い動きで小夏の口を閉じると、すかさず両頬を伸ばす。
「ひぇ〜、ひゃめほー!」
「う、る、さ、い」
そんな二人のやり取りに思わず笑って、楽しんで、ふと目に入ったすみちゃんの顔に罪悪感を感じる。
「そろそろ寝ようか。皆明日も早いでしょ」
パックを剥がして、ゴミ箱にインしようとすると、小夏とあゆちゃんにあー! と叫ばれる。
「もったいないぞ!」
「捨てるくらいならちょうだい!」
「え、いや、だってここで全身塗りたくるのも恥ずかしいし」
「じゃあわたしが使うからちょうだい」
「あゆっちそれはちょっと気持ち悪いぞ」
「恋っていうのは気持ち悪くてなんぼなの!」
あゆちゃんに手を出されるけど、結局私は渡さなかった。
「なんかあゆちゃんの尊厳に関わる気がするからやめとくね」
「え〜」
「ごめんね」
私は洗面台に移動して、服を脱いで塗りたくった後、ゴミ箱に捨てる。
「電気、今日も昨日と同じがいい?」
「そうしてくれると助かるな」
「分かった」
電気を暖色にし、自分のベッドに向かう前にすみちゃんのベッドに手を置く。
「七木さん、おやすみ」
「おやすみ」
「あ、顔に糸くずついてる。ちょっとごめんね」
すみちゃんの顔に触れ、さりげなく耳を近づける。
「まあ、嘘だけどね。──取れたよ。それじゃあ改めて、おやすみ」
すみちゃんは布団を被って、さっきよりも小さな声でおやすみと返した。
自分のベッドに入って、昨日みたいに横になると、あゆちゃんから小夏ずるいという抗議があったので、寝返り絶対打てないなって思いながら、仰向けになり、あゆちゃんと小夏二人の頭に腕を回す。
「おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみ〜」




