修学旅行⑨
準備ができた事を伝える為、電話を掛けながら二人の部屋に向かう。
ずっとコール音が鳴るが、二人とも結局出なかった。メッセージアプリ経由だから、通知オフにされているのかなと思いながら、インターホンを押す。
特段慌てた音が聞こえるでもなく──というか静かすぎるような気がする。
嫌な気配がしてインターホンを連打すると、不機嫌そうな寝起きの沙雪さんがドアを開けて顔を見せた。
「あなたってほんっと、こういうところ配慮ないわよね」
「沙雪さんが電話に出ないから。まだ準備できていないの? もう行くよ?」
沙雪さんは私のスマホに触れて画面をつけ、時間を確認すると、入りなさいと私を部屋に招き入れた。
部屋に入ると、ベッドとベッドの隙間に落ちてなお、眠っている大澤さんがいた。
「えぇ……」
「あなた大澤起こしなさい。私は準備しているから」
「そもそもアラームつけてなかったの?」
「つけてたわよ。大澤が」
「鳴らなかったの?」
「うるさいから消したわ」
「なんでよ⁉︎ じゃあ起きようよ!」
「だって私の起きる時間ではないもの。大澤の準備が終わったら起こしてもらうつもりだったのよ」
「じゃあ大澤さん起こしなよ」
「私にそこまでする義理はないわ。そもそもこんな状態の人を起こす気なんてないわ。蹴られたらどうするのよ」
沙雪さん起こすのとどっこいどっこいどころか、大澤さんはまだ目が覚めたらちゃんと起きてくれそうだから、大澤さんの方がマシだと思うけど。
そもそも枕で起こした人の顔叩いてくる沙雪さんが蹴られる可能性に言及するなんて……。
「大澤さん、起きて。もう集合時間来ちゃうよ」
とはいえ、私もちょっと怖かったので、ちょっと失礼して、ベッドの上に上がって起こすことにする。
大澤さんを両手で揺すり動かすけれど、全く効果がない。
「ベッドから落ちても気づかず寝るような人間に、そんな起こし方通用すると本気で思っているのかしら?」
一理あるからこそ、沙雪さんが大澤さんを起こすのを私に擦りつけた理由が蹴られる可能性以外にもあることがよく分かる。
「ねえ沙雪さん、大澤さん引っ張るのだけでも手伝って」
「嫌よ。疲れる事はしたくないの」
「昨日は散々私を助けるとか言っていたのに」
「嘘ではないわよ。でも私はあなたが困っていたらなんでも助けるわけじゃないわ。私は便利屋じゃないもの。あくまで私の気分よ」
「沙雪さんはそういうお人でしたね」
どうにか一人で大澤さんを引きずり出して、布団を取って声をかける。
「大澤さん起きて。集合時間きてるよ」
大澤さんはゆっくりと目を開けて薄目で私を見ると、口元は緩みながらも緊張した面持ちをしていたが、目が段々と開いていくにつれ、なんだか幻滅されていったような気がした。
「なんだ、藍川か。はぁ。おはよう」
「なんかがっかりさせたみたいでごめんね。おはよう大澤さん」
「寝ぼけて藍川が理想に見えただけだから」
「理想……?」
大澤さんはスマホで瀬野君達に電話を掛けて、少し遅れる事を話しながらテキパキと準備を進めている。
沙雪さんは準備を終えたのか、ベッドに横になった。
「沙雪さん、起きて。寝ちゃダメだよ。沙雪さん起こすの面倒なんだから」
「失礼ね。横になっているだけよ」
「それでもダメだよ。起きて」
「うるさいわねほんと。休ませなさいよ」
ぐちぐちと文句を言う沙雪さんを引っ張って立たせて、椅子に誘導したけれど、そこでも肘を立てて寝そうになっていたので、仕方ないので私の体を使わせる。
「仲良いね二人」
立ちながら私に寄りかかっている沙雪さんを見て、大澤さんは横目にそう言った。
「まあ、それなりに。色々ありはしたので」
「それにしてもよくもまあそこまで懐かせられたね」
「失礼ね。懐いていないわよ。使っているのよ」
酷い言い方だよほんと。
「それにしてもあなた、今日変な匂いするわね」
「えぇ⁉︎ 嘘っ⁉︎」
そんな臭いのかと思って焦らずにはいられない。もし臭いのならいますぐシャワー浴びたい。
「あなた以外の匂いも混じって変な匂いよ」
その言葉を聞いて一安心した。
「小夏とあゆちゃんとくっついて寝てたからだと思うよ」
「そう。私はあなただけの匂いの方が好きね」
「左様ですか」
大澤さんはぷっと小さく笑う。
「なによ」
「い〜え〜」
大澤さんは半笑いでそう言いながら、洗面所に戻って、十五分程して化粧をした姿で出てくる。
「じゃあ行こうか」
「なに仕切っているのよ。あなたが一番遅かったのよ」
「それはごめんなさいね〜」
沙雪さんに小言をずっと言われながらも、大澤さんは全く効いていないのか、はいはいごめんなさいを連呼して流していた。




