修学旅行⑧
すみちゃんがシャワーから出てきてしばらくして、あゆちゃんが起きた。
「あ〜まだ眠い〜」
あゆちゃんはそう言って、せっかく起こした上体を再び横にし、私に腕を回して寝始める。
「あゆ化粧する暇無くなるよ。すっぴんでいいの?」
「嫌だ〜。依吹ちゃんが起きたら起きる〜」
「私はもう起きてるよ」
「じゃあ依吹ちゃんがちゃんと起きて起こしてくれるまで起きない〜」
「ん〜。白葉ちゃん、小夏の起こし方分かる?小夏離れなくて起き上がれないの」
「こなっちゃんはいつも、チャイムか電話掛けると爆睡してなければ起きるんだけど、多分今回はそれ使えないんだよね」
白葉ちゃんは電話番号の方から小夏に電話を掛けるけど、着信音が鳴っても起きる気配はない。
外に出てチャイムを鳴らしても同様に起きない。
「小夏爆睡してるの?」
「いや、起きる理由がないだけだと思うよ」
沙雪さんみたいな理由だなと思いつつ、小夏の場合はもっと別の意味なんだろうなと思う。
「小夏を藍川さんから引き剥がせばいいんじゃない?」
「多分それされると私の服伸びちゃう」
「じゃあ水で濡らしたタオル被せるなり、くすぐるなりしたら?」
「もっと平和的な起こし方しようよ。いぶっちゃん、こなっちゃん抱っこしたまま起き上がりなよ。多分そしたら起きるよ」
「そうしてみるね」
すみちゃんは私の身体に回している腕を退かそうとする。
「ほらあゆ、藍川さん離して」
「やだ〜わたしの〜」
「違う。あゆのじゃない」
すみちゃんは全身を使い、力づくであゆちゃんの腕を動かし、その隙に小夏を支えたまま立ち上がる。
「ほら小夏起きて〜」
小夏を下ろしながらそう声をかけると、ゆっくりと手を離していき、床に座る。
「ママ〜」
「私はママじゃないよ。ほら、顔洗いに行っておいで」
小夏は目をくしくし擦り、私を見上げると、大人しく顔を洗いにいった。
「あゆちゃんも起きて」
身体を揺すりながら声を掛けると、腕を回される。
「私も抱っこして〜」
あゆちゃんの身体の下に手を入れて、椅子に下ろす。そうすると満足したのか、ゆっくりと立ち上がったので、小夏と入れ替わるように私達も顔を洗いに行く。
「あたしいつかいぶっちゃん腰やると思う」
さっぱりして戻ってくると、白葉ちゃんに呆れた顔でそう言われる。
「大丈夫だと思うけど。私普段それなりに動いているし」
「藍川さん運動得意だもんね」
「うん。それに流石に無理そうなら持ち上げないから。皆軽いからできるのであって。白葉ちゃんも案外やってみたら平気だって分かると思うよ」
「え〜まじ〜? こなっちゃん、ちょっとおぶらせて」
「いいぞ〜」
白葉ちゃんは小夏をおぶって立とうとすると、結構フラつきながら、危なっかしく立ち上がる。
「あー、うん。こなっちゃんで限界だわ。橋野とか絶対無理」
「ちょっと! それ私重いみたいじゃん!」
「大丈夫だよ。私はあゆちゃんが重くないって知ってるから」
「も〜。だから依吹ちゃんのこと好き」
あゆちゃんが私に抱きつくと、すみちゃんは一瞬ムッとした表情をして、私の服を引っ張る。
不快にさせたのかと一瞬びっくりする。
「ねえ、藍川さん。お姫様抱っこってできる?」
「で、できると思うよ」
すみちゃんは瞬きを多くして、少し口元を緩めている。
「えっと、七木さんが良ければ試してみてもいい?」
「いいよ!」
すみちゃんは少し食い気味に答え、自分でも少し反応しすぎたと思ったのか、すぐに寄せた身体を少し遠ざける。
そのままベッドに腰をかけ、期待するように私を見る。
「えっと、じゃあ失礼します」
すみちゃんの背中に手を添え、足の下に手を入れて持ち上げる。
「七木さん軽いね」
「そうかな? 重くなくて良かった」
「ちょっと心配になっちゃうくらい。この機会に美味しいものいっぱい食べてね」
「お腹出ちゃうからほどほどにします」
「じゃあ運動しよう」
すみちゃんは何も言わず、まるで無言の否定をしているみたい。
「今はお腹引っ込んでても、動かないと将来酷い目見るよ〜。純蓮今でもお腹ぷにぷにしてるんだから」
すみちゃんは顔を真っ赤にして、あゆ! と大きく叫ぶ。あゆちゃんはそんなすみちゃんを見て、ケラケラと笑っている。
「でもお姫様抱っこしてもらえるって憧れ〜。好きな人なら尚更。ねえ依吹ちゃん、わたしもお姫様抱っこして」
「いいけど、流石に今日はちょっと。朝食抜きで大阪行くから。だからまた明日か、後日でお願いします」
「今日大阪なんだ。残念。わたし達明日だから。ねえ純蓮、予定変更で明日と明後日の予定交換しない?」
「それができたら私もしてるよ」
すみちゃんをベッドに下ろすと、がっかりして、あゆちゃんと二人でため息をついている。
時間も迫ってきているので、急いで朝の支度を済ませる。
「依吹ちゃんそれで終わり?」
「うん。私スキンケアだけで化粧しないから」
「依吹ちゃんそれで十分可愛いもんね。ケアだけだから肌も綺麗だし。羨ましい」
「あゆちゃんも何もしなくても十分綺麗だよ」
「もう。既に落ちてる子誑しても愛以外出ないよ」
あゆちゃんは平然と手を動かしながら会話をしていて、流石に慣れているなと思う。私だったらずれそう。
「その愛だけで十分だよ」
スマホのアラームが鳴って、集合時間がきたことを知らされたので、急いで荷物を持って靴を履く。
一つ大事なことを忘れていたので、靴を脱いで、化粧をしているすみちゃんに声を掛ける。
幸い横にいるのが白葉ちゃんなので、特に配慮する必要もないのが良かった。
「すみちゃん、行ってくるね。今日もすごく可愛いよ」
すみちゃんは若干にやけ、白葉ちゃんは呆れたように顔を皺を作った。
二人の顔を映す鏡に手を振って、部屋の外に出る。




