修学旅行③
夕食がバイキング形式だったことに安心して、サラダを中心に盛って食べる。
「依吹っちそれで大丈夫か? お腹空かないか?」
「うん。食べ歩きで結構調子に乗って食べすぎちゃったからあまりお腹空いてないんだよね」
「おお! 食べ歩きいいな! あたしは金閣寺行ったぞ。もうな、聞こえてくる言葉が全部外国語でな、目に見えるお城と聞こえてくる言語で頭がおかしくなりそうだったぞ」
「ああ、それは私も体感したよ」
日本語が聞こえると少し感動したレベルであまりにも日本語が掻き消されていたし。
「京都はやっぱり外国人が多いな〜」
「ね〜。東京も浅草だと外国人多いし、やっぱり日本といえばってことで歴史を感じたいんだろうね」
「勉強熱心だよな」
「そうだね」
「ちょっと皿寄せて」
白葉ちゃんは私と似たような盛り付けで戻ってきて、お皿を少し押し置いて席に座る。
「白葉ちゃん、それだけでいいの?」
「うん。あとで部屋戻って食べるから」
「なんでここで食べないんだ?」
「だってこのあとお風呂だし。なんで夕食後になるんだろうね。全クラス夕食前にしてくれればいいのに。橋野とすっちゃんなんて一つ一つのカロリー確認しながら選別してるからめっちゃ時間かかってるし」
気にせずお肉を頬張っていた小夏の手が止まった。
「ど、どうして気づかなかったんだ……⁉︎」
小夏は箸を置くと、その細い体の腹部を摘んで焦った顔を見せる。
「に、肉が付いてるぞ……!」
「大丈夫だよ。こなっちゃん細いから」
「そうだよ小夏。お腹摘めるのは普通だから。摘めなかったら骨だけってことになっちゃうよ」
「そ、そうか?」
「そうだよ」
小夏は静かに箸を置いて、少し皿を私の方に寄せた。
「依吹っち交換しないか?」
「遠慮しておくよ」
小夏は残念そうな声を漏らしながら、美味しいと太るを繰り返しながら平らげていた。
そんなウエストを心配している小夏を見て、私も密かに危機感を感じていた。
今回の食べ歩きで、正直朝に比べてウエストが太くなっている気がする。いや、なっている。
もちろん、この日に向けてダイエットなんてことを私はしていなかった。怠っていた。
そして、沙雪さんが毎度毎度一口あげると言っていた理由が今分かった。無邪気にも、沙雪さんが譲ってくれるなんて珍しいと少々感激しながら全てを受け入れていた私が今となっては悔しい。
沙雪さんが優しい時、裏があるのではと疑うべきだった。
正直、少しでも量を落とす為に、目の前のサラダすら食べる気がしなくなっていった。
「ねえ小夏」
「なんだ?」
「部屋戻ったら筋トレしない?」
「おう! いいぞ!」
食後の筋トレを救いに、私達は食べ進める。
「もう結構食べ終わってるじゃん」
ようやく料理の選定から戻ってきたすみちゃんとあゆちゃんは、私達の皿を見て、少し焦った顔をしていた。
「スイーツばっかじゃん。カロリー調べてたのなんだったの?」
「考えたんだよ。わたし達が一番焦っているのは腹が出ること。つまり、カロリーではなく量を抑えればいいわけ。ならスイーツ食べてもいいよねって」
「私はカロリーも気にしたかったけど、隣でスイーツ取っているのを見ていると我慢できなくて」
得意げな顔のあゆちゃんに対して、すみちゃんは恥じらいと負けが滲んだ表情をしている。
「あたしもう食べ終わったから先部屋戻ってていいか?」
「うんいいよ〜」
「じゃあ戻るぞ依吹っち!」
「藍川さんも戻っちゃうの?」
「うん。ちょっと小夏と食後の運動したいから。またね」
手を振って席から離れて、小夏に手を掴まれるまま、エレベーターに乗って部屋に戻っていく。
◇◆◇◆◇
正直ちょっと、筋トレは数分で飽きてしまって、三人が戻ってくる頃には二人だけの枕投げに種目が変わっていた。
物にぶつかったらいけないので、枕は取りにいく方式で。
「ただいま」
「おかえり──」
目を離して横からぶつけられた枕に体の軸をずらされ、元に戻すように歩いたせいで、受け止めようとしてくれたのだろう、手を出していたすみちゃんが、私と一緒に床に転んだ。
「わー⁉︎ ごめんな依吹っち、純蓮っち! 大丈夫か?」
「私は大丈夫。七木さんは? 大丈夫? ごめんね」
「私も平気」
先に私が立ち上がって、座ったままのすみちゃんに手を伸ばして立たせる。
「立っても痛くない? 足捻ったり、どこか強打したりとかしてない? 本当に大丈夫?」
すみちゃんの体の色んなところを触りながら聞くと、すみちゃんはおかしそうに、小さく短く声を漏らして笑った。
「私そんなにか弱く思われているの? 大丈夫だよ。どこも痛くないから。心配してくれてありがとう」
すみちゃんは私の頭を撫でながら、もう片手で私の手を握り、立ってと言わんばかりに手を引いた。
「ごめんな、二人とも。ごめんなさい」
小夏はバツが悪そうに再度謝ったので、私は小夏の頭に手を置く。
一瞬、ほんの少しすみちゃんの握る手の力が強まった気がした。
「大丈夫だよ。私も七木さんも怪我はなかったから」
「でももうやめてよ。先生にバレたら面倒だから」
白葉ちゃんのその注意に思わず二人とも苦笑いを浮かべる。
「今回で懲りたのでもうしません」
「これ以上迷惑かけられないからな」
「え〜。次やってくれたら今度はわたしが依吹ちゃんにぶつかろうと思ってたのに」
あゆちゃんは残念〜と言いながら、さっさとお風呂セットを持って、浴場に向かった。
「あゆちゃん早いね」
「いぶっちゃんにあまり裸見られたくないんだって」
「そうなんだ。私は極力皆の首から上しか見ないようにするつもりだけどね。だから白葉ちゃん達もできれば見ないでね」
「どうしよっかな〜」
白葉ちゃんは意地悪な返答をして、さっさとお風呂に向かってしまった。
お風呂の時間も迫っているので、私達もすみちゃんが代表でカードキーを持って、お風呂に向かった。
すみちゃんとは離したのに、目の前で小夏と手を繋ぐとすみちゃんからしたら嫌かなと思ったので、小夏には服の袖を掴ませておいた。




