修学旅行②
新幹線が京都につき、皆一斉に降りていく。
駅で先生の話を聞き終えて自由行動になったので、私達は班で固まって、先生に提出した予定表通りに動き始める。
「じゃあ二年坂行こうか」
「んじゃ電車乗るぞ」
ホームに移動している途中、沙雪さんはさりげなく五十嵐君にバッグを持たせ、自分の荷物はスマホ一つになっていた。
「沙雪さん自分で持ちなよ」
「あら、いつも私の荷物を文句なく持っているあなたから出る言葉とは思えないわね」
「はは、藍川さんも沙雪に良いように使われているんだね」
五十嵐君は特に眉を顰めたりせず、爽やかな笑みを浮かべる。
「五十嵐君も?」
「そうだよ。昔からずっと。沙雪に関してははいはい言ってその通りに接しとくのが一番だからね」
おそらくもう呆れすらも出なくなったのだろう。そうしたら一気に楽になるから。私もそっち側にいってしまわないか心配になる。
面倒だからと甘やかさず、強い意志を持って自立を促さないと。──あれ?
「なんか沙雪さんと接するのって子育てみたい」
「失礼ね。あなたの子どもは小夏さんだけで十分でしょう。私まで子どもになる気はないわ」
「いやでも、藍川さんの言っている通りかもしれないね。僕はダメ親なパターンだ。沙雪の教育は藍川さんに任せるよ」
「えぇっ……それはちょっと困るかも」
沙雪さんは子ども扱いされるのが不服なのか、五十嵐君からバッグを取ると自分で持った。
そういうムキになるところがより子どもっぽいと思ったけど、わざわざ面倒な事を引き起こしたいとかそういうのはないので、黙っておいた。それにむしろ、そういう事を言うよりも、褒めちぎった方が沙雪さんには効きそうと思った。
「何笑っているのよ」
「ん〜? 沙雪さんは可愛いなって」
そう言うと、頬を軽くつねられた。
「褒めたのに〜⁉︎」
「癪に触ったのよ」
沙雪さんは歩みを早めて、前にいる大澤さんと瀬野君の方に入っていった。
◇◆◇◆◇
電車とバスを乗り継いで、二年坂・三年坂にやってくる。
「このお団子美味しい」
「ここ有名なところだから絶対来たいって思ってたんだよね」
「げっ、最悪。みたらし垂れちまった」
瀬野君の服には垂れたみたらしベッタリと付いていた。
何か拭くものをと鞄に手を入れている間に、五十嵐君が既に瀬野君の服を拭いていた。
「皆もついでにウェットティッシュ持っときなよ」
「ありがとう五十嵐君」
五十嵐君がくれたウェットティッシュを手に、残りのみたらし団子も食べ切る。
修学旅行ってお互いの意外な一面が見られる貴重なイベントだと思うけれど、今回それを最大限発揮していたのは五十嵐君だと思う。
誰が取り出すよりも早くウェットティッシュを取り出したように、ゴミ袋を取り出して持ってくれたのも五十嵐君。お土産の下調べをしてくれたのも五十嵐君。
私達は食べたい物を事前に調べていたくらいだから、探す為にお土産店を巡る必要が無くなったからすごく助かったし、清水寺もゆとりを持って散策できた。
「五十嵐ってなんかおかんみたいだな」
「そうかな? もしそうだとしたら、昔誰かさんにこき使われたのが効いているんだろうね」
五十嵐君が誰かさんと言った瞬間、私達全員の視線が沙雪さんに集まった。
沙雪さんはまるで心当たりなんてありませんよととぼけるように話題をすんなり変えて、皆の意識を食に持っていった。
◇◆◇◆◇
結構食べてお腹いっぱいになって、夕食の心配をしながらホテルに戻る。
ロビーで先生の話を聞いて、部屋班ごとにキーを受け取り、固まってエレベーターに乗って部屋に入る。
疲れた〜と、小夏はリモコンを手に真っ先にテレビの真ん前のベッドに飛び乗り、テレビをつけた。
「依吹ちゃん今日どこ行ってきたの?」
「二年坂・三年坂で食べ歩きメインで清水寺行ってきたよ」
「いいね〜。わたし明日だったんだよね。残念。二年坂では転ばなかった?」
「大丈夫だよ」
「良かった」
「私達は伏見稲荷と東福寺行ってきたよ」
すみちゃんはスマホの写真を見せながら、あゆちゃんと二人で写った写真をメインに、景色や班の皆で撮った写真を見せて語ってくれた。
「すごい楽しんでるね」
「でもすごく疲れちゃった。あゆが一番上まで登ろうとするから」
「せっかくだから登りたいじゃん」
「伏見稲荷登るの大変って言うよね」
「うん。私がちょっと体力的に無理で結局降りたけど、鳥居はやっぱり凄かったよ」
「私も中学の時見たけどあれは凄いよね」
ずっと立って話していると、白葉ちゃんが肩を叩いた。
「話すのもいいけどとりあえずベッド決めよう。こなっちゃんは決定として」
「わたし依吹ちゃんの隣」
「あたしも依吹っちの隣だ!」
このまま自然と決まってしまうのかと思ったけれど、今回は珍しくすみちゃんも主張を見せてきた。
「わ、私も藍川さんの隣がいい。一緒に寝たことあるから安心できるし」
「だとしたら、純蓮は一緒に寝たことあるんだから譲ってよ。わたしだって、寝相も寝起きも悪くない、安心できる人の隣で寝たいもん」
すみちゃんはでも──と一度溢したけれど、結局言葉を飲み込んで、私に視線を送るのにとどめた。
ここで私がすみちゃんと寝たいと言うのが、彼女としては正解なんだろう。でも、あゆちゃんも小夏も、私とすみちゃんの関係は知らない。それに、あゆちゃんの言う通り別荘ではすみちゃんと一緒に寝た。ここですみちゃんと一緒に寝たいと言ってしまえば、すみちゃんと入れ替わる人は傷つくだろう。そもそもその前に多分一悶着ある。
すみちゃんにはあとでフォローをいれればいい。もしあれなら、個別で二人きりのお泊まり会をして、その時埋め合わせで一緒に寝ればいい。
我慢してもらうことになるけど、その分──ううん、それ以上のものを与えるから、今はすみちゃんを選ばないでおく。
「私は別に、誰と寝てもいいから」
この一言で、私の両脇は小夏とあゆちゃんになった。




