修学旅行①
今日から三泊四日の修学旅行が始まる。
「沙雪一番奥行って」
「どうしてあなたに決められないといけないのよ」
「じゃあいいよ、うちが一番奥行くから」
大澤さんがそう言うと、沙雪さんはさっき文句言っていたのは何だったのか、窓側に座った。
沙雪さん、人の指示通りに動くの嫌なんだろうな。だからよく私で遊ぶんだろうな。
「早く座りなさいよ。動くわよ」
「沙雪さん、本当に社会で生きていけるの?」
「何よいきなり」
「客観的に見た感想だよ」
沙雪さんの隣に腰を下ろして、テーブルを出す。
「沙雪はフリーランスでもやればいいんじゃない? やれるだけの技術があるかは別として」
「まるで私が社会不適合者みたいな言い方ね。もし何かあったら依吹に養ってもらうから問題ないわ」
「養いませんけど」
夏休み前は自分一人で生きていくとか、ヒモにはならないとか言ってたくせに、今言っていることと矛盾しすぎてるでしょ。
「沙雪大学は行くの?」
「ええ。だから推薦狙っているのよ。受験なんてしたくないもの」
「沙雪さん推薦狙ってるの⁉︎」
沙雪さんが成績とか気にする口とは思わなかった。
「私あなた達よりは頭良いわよ」
「なぜだろう、沙雪さんに言われるとショックが大きい。仮に小夏に言われたら頑張ったねって喜べるのに」
「あなた私に対しては散々な言い様ね」
「沙雪は要領良いタイプだからね。だからこその性格だし」
「私としては純蓮が推薦狙いじゃないのすごく嬉しいわ。面倒な相手が消えるもの」
すみちゃんって推薦狙っていないんだ。初めて知った。
勉強とかは教えてもらうけど、そういう話、なったことも聞こうと思ったこともないな。
思えば、私からすみちゃんを知ろうとしたことってあるのかな……?
知ろうと思わなかった? なんで? 知れない時間が長かったから? それとも、昔があるから知ってるつもりだったから? だから私は、本来恋人ならするはずの知る行為というのを怠った?
時間と関係に甘え過ぎていたから? それは恋人として、あまりにも酷いことじゃないのだろうか。
デートとかもあまり私から誘うことなかった……というかたぶんないし、修学旅行終わったら私からデートとか誘って、色々すみちゃんの事聞こうかな。そしたらすみちゃんが求めているものとかも分かって、もっと付き合いやすくなるはずだし。今ならまだ取り戻せる。ちゃんと恋人として向き合わないと。
「藍川?」
「うん? どうしたの?」
「いや、なんか静止してたから」
「ただ、沙雪さんですら受験の事を考えているなんてと思って」
「失礼ね」
「大澤さんは何か考えてる?」
「あんま考えてないけど、うちはAO使おうかなって思って。うちのダンス部強いじゃん。だから、このままメンバー外れなければいけるかなって」
「浅い考えね」
「推薦に言われたくない。藍川は?」
「私はもう一般しかないかな。テストも特筆して点数良いとかでもないし」
「あなた勉強していない私よりテストの結果悪いものね」
「中間は遊びすぎただけだから」
「言い訳ね」
沙雪さんは的確に人の嫌なところをつくのが本当に上手い。そんなに人を刺激するのが上手いなら良い方に使えばいいのにと思う。
天は二物を与えないとかいわれる。沙雪さんはパッと見二物を与えられて恵まれているように見えるけど、こういう部分で均衡取ってるんだなって心底思う。
──いやこれ私が損してるだけだ。つまり均衡取れてない。うん、世の中理不尽。
「あまりいじめると藍川に嫌われるよ」
「平気よ。依吹が人を嫌うなんてありえないもの。まだ私が結婚する方が可能性あるわ」
ある種の沙雪さん最大のデレなんだろうな。言い方と扱いのせいでありがたみはないけど。
だから、やり返しを含めて、少しからかってみる。
「沙雪さんは私の事好きだよね、ほんと」
「ええ。前から言ってるじゃない、好きよって」
さらっと言われるその言葉にあまりにも驚いた。
「う、嘘?」
「さあ、どうかしら」
妖艶に笑うその顔を見て、一度でも沙雪さんに一泡吹かせたいと思った私が馬鹿だと思い知った。
「程々にしないと、藍川好きな人らが嫉妬するよ」
「優越感で気持ちいいわ」
「もうここまでくると清々しいよ」
なんだろう、たぶんこの修学旅行、若干疲れると思う。既にいくらかのゲージ削れているし。
大澤さんが唯一の救いとなってくれる事を願うしかない。
──でもまあ、やっぱり修学旅行楽しみな気持ちが一番。すみちゃんに何かお揃いのお土産買いたいな。




