交友関係
すみちゃんと相談して、一緒に別荘に行くくらい仲が深まったと見て取れるだらうしってことで、新学期からは普通の友達のように、むしろちょっと仲の良い友達のように、手を繋いだまま登校することにした。
幸いなことに、小夏もあゆちゃんも、きっと私と登校するとなれば手を繋ぐだろうから、違和感が働かないという考えもあってのこと。
「おはよう白葉」
「おはよう白葉ちゃん」
「おはよう。日南、ちゃんといぶっちゃんと別れたって広めてるらしいよ。あたしも一役買いました」
白葉ちゃんは目元にピースを持ってきて、そのままウインクをした。
「ありがとう白葉ちゃん。わざわざ動いてくれて」
「いーえ」
「じゃあいぶ、私も噂流してくるね。白葉も一緒に行く?」
「いや、あたしは疲れたから遠慮しとく。行ってらっしゃい」
「本当は白葉いた方が楽なんだけど、そういうことなら一人で行ってきます。いぶ、またね」
迷いなく廊下に出て、男女問わず人の輪に入っていった姿を見て、改めて立場の差といいますか、あまり見慣れないすみちゃんを見せつけられた気分になる。
「どうしたのいぶっちゃん?」
「いや、皆私と仲良くしてくれるけど、よく考えると皆は私以外にも友達いるんだよね。私は皆しかいないけど」
「六人もいれば十分でしょ。それともいぶっちゃんは友達百人目指している方なの?」
「そういうわけじゃないけど、でも、クラス替えで皆と離れたらどうしようかなって」
「あーそれについては大丈夫。今回もしっかり対策するから」
「対策?」
「そ。一年の時もやったよ。ほら、あたし去年殴っちゃったじゃん。それを上手いこと使って、皆に怖がられていて、仲良くしてくれるの藍川さんと小森さん、あとは橋野さん達くらいなんですって、親交えて言っとくの。で、ちょうど一年終わる前に、橋野とすっちゃん喧嘩みたいになったじゃん。ここでクラス離したら二人は仲直りできないかもしれない。そのせいであたしといぶっちゃんの仲もギスギスしているから、仲直りさせる為にも、同じクラスにしてくださいって、日南と大澤が責任持って仲を取り持つってことで上手くやってたらしい」
普通七人も同じクラスの人同士にしないだろうとは思っていたけれど、裏での根回しがあったからなのか。
「三年は宇河を利用させてもらうよ。社会選択あいつと一緒にすれば、あたしら全員宇河との接触禁止だから、強制的に宇河と別のクラスにできるからね」
一学年全七クラス。内四クラスが文系。そして、日本史、世界史選択ごとに二クラスずつ分かれる。なるほど、よく考えられている。
「白葉ちゃんはずる賢いね」
「世の中損しない為には根回しするんだよ」
「そのおかげで私は甘い汁吸わせてもらえるよ。三年になったら友達作りできる自信ないし」
「いぶっちゃんはあっさり作れそうだけど」
「白葉ちゃんは私の事買い被りすぎだよ」
「そんなことないけど、でも困ってたらあたしら助けられるし」
白葉ちゃんはちょっとおいでと、私の手を引いて廊下を歩いていく。
「白葉、はよ〜」
ただ歩いているだけで、すれ違いざまに白葉ちゃんは挨拶をされて、あっという間にその子達の輪に入っていく。
「はよ。ねえ見て見て、いぶっちゃん。日南の元カノ」
「まじ〜⁉︎ よろしく〜」
「え、あ、よ、よろしく」
「きょどってる、まじ可愛い〜! 陰系ってやつ?」
ギャルっぽさのあるその子達は、私の姿を一瞥して、私の頬や手を触る。
「うっわ〜、やっぱ化粧してないから綺麗だわ」
「ネイルもしてない」
「素材良いからめっちゃいじりたいんだけど。いい?」
「橋野に文句言われるからやめときな」
「あーそっか、あゆのお気にだっけ」
「そうそう」
「じゃあいいや。またね依吹ちゃん……だよね?」
「あ、うん。依吹です」
「可愛い〜。じゃーねー」
また進むと、白葉ちゃん経由で輪に入っていって、今度は小夏の保護者認識をされていた。
他にも、大澤さんとジャージ探ししてた人認定や、沙雪さんの内面を知っている人なのか、遊ばれて可哀想にと同情してきた人もいた。
なんか、こうして声をかけられると、私の存在自体は色んな方向性で広まっているんだなっていうのが知れて、なんだか気恥ずかしいというか、むず痒かった。
「ね。いぶっちゃんは一人になっても友達作り楽勝でしょ」
「いざという時は皆に頼ろうって思えたかな」
でも、ただの一度も、すみちゃんとの関係を結びつけられたことはなかった。
周りから見たら、私とすみちゃんはただ同じグループにいるだけで、そこに追加で定義付けられる何かはないのだと実感した。
たぶんすみちゃんは、こういうのが不満に繋がって、変な形で出てしまったんだと思う。
小夏の保護者、白葉ちゃんと喧嘩した人、あゆちゃんのお気に入り、沙雪さんの元カノ、大澤さんとジャージ探してた人。皆、何かしら友達以外のそういう認識があった。
彼女なのにそれを隠しているから、そういう二つ目の、私達だけの関係性がない。
きっと、すみちゃんはこのことにもっと早く気づいていた。だって、皆の中でそういう認知があるということは、そういう話題が上がってたってことだもん。すみちゃんは交友関係が広い。聞いていてもおかしくないし、聞いている方が自然だ。
私は知らず知らずのうちにすみちゃんに寂しい思いをさせていた。
「どうしたのいぶっちゃん? 疲れた?」
「ううん。ただ、側から見たら私とすみちゃんの関係は友達以上でも以下でもないんだなって」
「まあそうだろうね。だって、そもそもそれを望んでいるわけでしょ?」
「うーん、どうなんだろう」
たぶんすみちゃんは、それを望んでいない。でもそうなると、すみちゃんが私達の関係どころか、同中出身ということすら隠す理由が今回のことで分からなくなった。
私が注目されない為とは言っていたけれど、ここまで名前が知られている以上、意味はないと思う。
もし、皆のように、他の人から見た私達だけの関係が欲しいのだとしたら、すみちゃんは私にどうしろと言いたいのだろう。
「ねえ、白葉ちゃん」
「うん?」
いや、白葉ちゃんに言うのはよしとこう。言ったとして、白葉ちゃんを悩ませるだけだろうし。何よりたぶん、愚痴っぽくなる。すみちゃんを悪くは言いたくない。それに、返される言葉は分かってる。そして、その通りに私が動けないのも分かってる。ただ余計に、動けない私を自覚するだけになる。だから、やめた。情けない私を実感したくないから。
「あーその、白葉ちゃん部活とかしてないのに、関係構築上手だねって思って」
「だからあたし休み時間とかしょっちゅう話しに行ってるんだよ」
「なるほど〜」
クラスにずっといる人とそうでない人の友達の差っていうのを突きつけられた気がする。
たしかに小学生の時、中休みとかで遊びに誘うのに他クラス行ったりしたけど、だから小学生の時は友達多かったんだな、私。
非情な現実を前に教室に戻る。
「あら、別れて早々無視かしら? 酷いわね」
そう声を掛けられて振り向くと、髪をバッサリ切った沙雪さんがいた。
「うぇ、ええ⁉︎ い、イメチェン⁉︎」
「あら、こうした方が失恋した感が出て、別れたエピソードに箔がつくと思わないかしら?」
まさかたかが噂を終わらせる為に髪まで切ってくれるとは思わなくて、動揺以外の何ものでもない。
「え、あ、ありがとう」
だからそれしか言う言葉が思いつかなかった。
「ええ、大いに感謝するといいわ」
そしてその言葉で私の感謝の気持ちが薄まった。それに冷静になると、どうせ自分の為もあるだろうなとしか思えなかったから。沙雪さん別にヘアアレンジとかするタイプじゃなかったし、暑いから切ったとか、そんなところだろう。




