別荘
「ついたー!」
ついに、小夏の別荘にやってきた。
見た感じは普通の家と変わらない。表札もちゃんと付いているし。
ただ、風が強くて潮の香りが漂ってくる。
海の匂いが非日常感を醸し出している。
「おい、お前自分の荷物取れよ」
兄はトランクを開けて、すみちゃんと沙雪さんの荷物は丁寧に渡していたのに、私に対しては投げ渡してきた。
「たく、母さんが小遣いくれるって言わなきゃ車出してないからな。感謝しろ」
「お兄さん、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
すみちゃんと沙雪さんが頭を下げると、私に言ったこととは矛盾して、これくらいお安い御用さ。と、カッコつけて言っていた。我が兄ながら……いや、兄だからこそ、女子高生にカッコつけているのを見ると背筋が凍る。
「おい、お前こそ言うことあるだろうが」
「はいはいありがとございますお兄様〜」
「ちっ、お前はほんと可愛げないな。純蓮ちゃんと沙雪ちゃんは沢山楽しんでね。じゃあお兄さんもう行くね」
鳥肌の立つような声色を最後に、兄は車に乗って帰っていった。
「暑いからとっとと入るわよ」
沙雪さんはそう言って、荷物を私の側に置いて、手ぶらでインターホンを鳴らしにいった。
私に持てということかと、無遠慮に拍車のかかる沙雪さんに呆れてしまう。
「一緒に持つよ。沙雪には困っちゃうね」
沙雪さんの荷物を持ち上げると、すみちゃんも手を伸ばして、一緒に持ってくれる。
「ありがとう」
「いえいえ」
顔を出した小夏に招き入れられ、別荘の中へと入っていく。
「お邪魔します」
「待ってたぞ! ゆっくりくつろいでくれ!」
端っこに荷物を置き、吹き抜けになっているリビングを見て思わず声を漏らす。
壁一面が窓になっていたりと、利便性よりもデザインを重視しているところがいかにも別荘って感じだ。
「結構綺麗だね」
「管理人さんが掃除とかしてくれてるんだ。ご飯もお願いして買ってもらってるから大丈夫だぞ」
すみちゃんから小夏に話しかけているところを見る限り、小夏自体は苦手というわけではなさそうなので、そこは安心した。
小夏に嫌悪感を抱いているとなると、いよいよ付き合い方に迷いが生じるどころじゃないから。
「小夏、レシートあったりする? 割り勘するよ」
「管理人さんが領収書取ってるからあたしは持ってないぞ。それに、ママが払うから気にしなくていいぞ」
「それは悪いよ」
「別にいいんだ。こうやって皆が来なかったら、管理されているだけの無人家になっているだけだったしな。あたしも来なかったし。だからいいんだ。別荘の意味をくれただけで十分だ」
小夏は無邪気に笑って、あゆちゃん達はまだかなと、弾んだ声を出しながら外に出ていった。
「いいのかな?」
「いらないと言っているのだから別にいいじゃない。気にするのなら菓子折りでもなんでも持ってくれば良かったのよ」
「菓子折りは持ってきてないけど、花火は用意したんだよね」
「お〜、いぶっちゃんナイス。あたしも持ってきた」
白葉ちゃんとお互い持ってきたものを見せ合って、たっぷり遊べそうだねと互いに笑い合う。
「実は私も持ってきてて」
すみちゃんも荷物の中から取り出してくる。
「こんなにあるなら二日に分けても良さそうだね」
「私もそう思う」
「日南は持ってきてるの?」
「私が持ってくると思うのかしら?」
我が物顔でソファで寛いでいる沙雪さんを見ていると、聞く相手を間違えたと思わざるをえない。
「日南に聞いたあたしが悪かったよ」
白葉ちゃんも同様のことを思ったらしい。
花火を纏めてテーブルの上に置いていると、小夏があゆちゃんと大澤さんを連れて戻ってきた。
「やっほやっほ〜! お待たせー!」
「お邪魔しまーす」
あゆちゃんと大澤さんもボストンバックを皆の荷物が集結しているところに置いて、疲れた〜とソファに向かっていく。
「ソファに集まってもいいけど汚さないようにな」
「なんで〜?」
「誰かはそこで寝るからな。汚れたら嫌だろ?」
「嘘っ⁉︎」
「そういう事は先に言ってよ」
あゆちゃんと大澤さんは急いで立ったのに、沙雪さんだけは平然と座り続けている。
「シーツはあるからそこまで気にしなくていいけどな。でも人によっては嫌だろ?」
「他の人は布団なの?」
「布団というかソファ以外のベッドは三つしかないぞ!」
小夏はなぜか、両手を腰に添えて、誇らしそうに鼻息荒くそう言った。
「じゃあ他の人どうやって寝るの⁉︎」
「一つのベッドで二人寝れば問題ないな。布団も余分なのないから我慢してくれ」
だから小夏、枕だけは絶対持ってきてって言ってたのか……。
そして、ソファベッドの人以外、必ず誰かと一緒に寝ないといけない。この、ある意味修学旅行の部屋班以上の究極の選択に、皆神経を研ぎ澄ませる。
「私はここで寝るわ」
真っ先に手を打ったのは当然沙雪さんだ。堂々と一人で寝る選択をした。
ここで、誰もずるいなんて言えない。言ってしまったら、私は誰の隣も嫌ですって宣言するようなものだから。
「じゃああたしはこなっちゃんと寝るよ」
「いいぞ〜」
ここで、白葉ちゃんによるペア宣言が行われたことによって、皆次のフェーズに移行する。
そして、こうなると動くのが早い人は分かりきっている。でも、今回はそれ以上に早く先手を打った人がいた。
「じゃあ私依吹ちゃん──」
「藍川、一緒に寝よ」
あゆちゃんが言い切る前に、割り込むように大澤さんが私に向けてそう言ってきた。
「うん、いいよ」
あゆちゃんは大澤さんに向けて、なんでなんで〜! と、文句を言っている。
ただ、出遅れてなし崩し的にペアが決まったすみちゃんだけが、一人何も言わずに静かに立ちすくんでいた。
私が先に、七木さん一緒に組もうと言えば良かったのだろうか。
そうすれば、今のすみちゃんは笑顔を浮かべていたのだろうか。
でも、今の私は率先してすみちゃんと二人になりたいと、そう思えるのだろうか?
「藍川? 行くよ。部屋案内してくれるって」
「え? あ、うん」
二階に上がって、部屋とトイレを案内してもらう。
「ここは?」
「ここはあたしの部屋だから」
小夏はそれだけ言って、他の部屋とは違って開ける事なくリビングに降りていく。
「さてと、じゃあ海行こう!」
「それは明日ね」
あゆちゃんはすみちゃんにそう言われて、白いフリルのビキニを握りしめたまま、え〜! と抗議している。
「皆あゆみたいに体力あるわけじゃないから」
「二泊三日しかないんだよ!」
「明日行けば十分だよ」
「え〜! 海行きたい人!」
あゆちゃんは高々と手を挙げたけれど、他の皆は乗り気じゃないのもあって、今日は一日別荘で過ごすことになった。




