分からない
宇河さんの件はあっさりと終わった。それもそうだ。あれだけ段階を踏んで、親達も関わらせない事を望んでいるのに、それでもまだ仲良くしてほしいなんて、先生達は言えない。
宇河さんの両親もその事を分かっているのか、あっさりとその事を飲み込み、頭を下げて謝罪していた。
宇河さんただ一人がこの結果に納得いかず、叫びながら抵抗していた。
そこに友達と言う言葉はなく、上にいられなくなるとか、ずっとそんな言葉ばかり叫んでいた。
宇河さんの両親はそんな娘を見て、呆れたような、面倒くさそうな表情を浮かべ、父親の方が怒鳴りつけていた。
嫌がる宇河さんを押さえつけながら、私達同様、お互い関わらない事に対しての同意書にサインをして、宇河さん家族を残して私達は退出していった。
どうして宇河さんはあんなに人ではなくカーストに執着するのか、正直少し知りたかった。
名前を書かされる時に両親に言っていた、どうして私の邪魔をするの⁉︎ って言葉が忘れられなかった。
でも、そんな好奇心の為に約束を破って皆を巻き込むのも嫌だ。そもそも私が聞いたところで、宇河さんはどうせ何も答えない。ただ怒り狂うだけ。だから、もう気にしない。これ以上疲れたくないから。
子どもは子ども同士、親は親同士で固まって、皆帰路についていく。
このメンバーで別荘に遊びに行く事になっているからか、余計に親同士は話に花を咲かせている。
「ママ、わたしの事で変な事言ってないかな〜。依吹ちゃんのご両親に悪印象抱かれないか心配〜」
あゆちゃんはそう言いながら、私の腕にぴったりとくっついた。
「あゆは別に藍川となんでもないでしょ」
「わたしはまだ深い関係になる事諦めてないもん。人生何があるか分からないし。ね、依吹ちゃん」
あゆちゃんはそう言って、私にウインクを飛ばした。
「その事に関して私から言えることはないけど、悪印象に関しては平気だと思うよ。沙雪さんを前にしても良いお友達持ったねと私に言ってくるような両親だから」
「じゃあ安心かも〜」
あゆちゃんの笑いながらのその返答が癪に障ったのか、沙雪さんは後ろに親達がいるというのに、問答無用であゆちゃんにデコピンした。
「暴力反対〜」
「あなたが失礼だからよ」
「この中で一番問題ある沙雪が良い友達なら問題ないのは事実でしょ」
「あら、私よりも問題ある人は沢山いるじゃない」
皆そこは口を揃えて、それはないと言った。
「全く失礼な人達ね。私が可哀想よ」
「それを言える時点で可哀想じゃないよ。それにしても、解放されて良かった。あたしの親、いじめに敏感だから」
「どこの家も敏感でしょ」
「いや〜、あたし加害者と被害者両方経験あるから、うちの親は特に敏感なんだよ」
白葉ちゃんのサラッとした告白に、何も知らなかった人達は微妙な反応をした。ただ、沙雪さんだけは大して何も感じてなさそうだけれど。
だからなのか
「だからあなた手が出るのね」
と、平然と言ってのけていた。普通ならデリカシーのない言動だけれど、白葉ちゃんも大して気にしていないからか、その発言が空気を元に戻すトリガーになった。
「日南にだけは言われたくないけど、それが原因なのは否定しない」
「まあ殴りたくなる時あるよね〜。わたしも許されるなら宇河殴りたかったし」
「殴れば良かったじゃない」
「わたしに面倒かかるのは嫌だもん。でも、依吹ちゃんにこんな心労掛けるくらいなら殴ってとっとと大事にしとけば良かったかも。ごめんね依吹ちゃん」
今だから言える冗談という形で捉えておこう。
「あゆちゃんが悪者になるのはもっと嫌だから、殴らなくて良かったよ。でも、そんな風に思ってくれてありがとう」
「そうなの〜? じゃあ理性働いてて良かった」
「本当に良かったよ」
あゆちゃんがさりげなく頭を差し出したので撫でると、嬉しそうに撫でられた〜と声に出していた。
そのままあゆちゃんの視線は小夏に向いて、からかうように声をかけた。
「あれ小夏〜? 今日はやけに静かじゃん。いつもみたいに依吹ちゃんにくっつかないの? わたしの独占状態だよ」
「うん。今はほら、いるから」
小夏はぎこちなく笑って、また正面を向いた。
おそらく保護者達の事を言っているのだろう。視線を向けようとしていないから。
「そういえば小夏のママちょー若いし派手だよね」
「あ、えっと、ママじゃなくて叔母さんなんだ。ママ、今日は忙しくて来れなくて」
「パパは?」
「パパは、えっと──」
小夏は右腕を摩りながら、愛想笑いを浮かべながら、濁した声をひたすら出している。
「そんなことより、宇河の件片付いたし、橋野も大澤も大会終わったんでしょ? じゃあさっさと日にち決めよ。すっちゃん作ってくれるんでしょ?」
白葉ちゃんは小夏の話題を上手く逸らすように、もっと重要度の高い話題に切り替える。
変に庇うと、以前のようにあゆちゃんと衝突する可能性があるし、そもそも大澤さんと沙雪さんは鋭いところがあるから、勘付かれる可能性を避けたのだろう。
私も白葉ちゃんのように上手く場をコントロールできれば、すみちゃんに不満を持たせずに済んだのかなと考えてしまう。
「うん、作るよ。今日にでも送るね。皆行ける日丸に投票しといて」
「時間も決めとこうか。小夏、何時なら都合良い?」
「多分到着昼くらいになるぞ」
「じゃあ十三時くらい?」
「こなっちゃんと他の人らで時間ずらした方がいいと思う。こなっちゃんついてなければ皆入れないし」
「じゃあうちらは十四時にする?」
「私はもっと遅い方が助かるわ」
「沙雪はどうせ藍川さんの車で寝るでしょ」
「じゃあ十四時でいいね。けってーい」
時間が決まって、いよいよ決めることは日にちのみになる。
夜、お風呂から上がったくらいですみちゃんから日程の投票が送られてきたので、それに答えて今日は寝る。
けれどすんなり眠りにつけず、考えが頭を巡る。
すみちゃんは小夏との距離感についてだけ不満げだったけれど、今日のあゆちゃんみたいに、小夏以外と距離が近いのは問題ないのだろうか? 特段不満そうな気配はなかったし、そこまで気にしていない? そうなると、いよいよすみちゃんが分からない。どうすればいいのか分からない。
すみちゃんは私に何を求めているのだろうか。
どうしてそんなに小夏を気にしているのか──
「分からない」
もう何も分からない。唯一分かったことといえば、周りに皆がいる今日は、すみちゃんと二人でデートした時に比べて随分と気が楽だった。




