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終わり良くても良くはない

「いぶ、デート行かない?」


 家に来て開口一番すみちゃんがそう言った。だから、今日は家ではなく外に出る。


「どこ行きたい?」

「今日はいぶが決めて」

「うーん」


 どこに行こうか悩んで、没入型美術館にやってきた。

 あゆちゃんがフォルダ見せてくれた時に、ちらっとここに来て撮った写真があって気になっていたから。


「見ていぶ! 綺麗だよ!」


 すみちゃんは私と腕を組んで、光で表現される自然の姿にうっとりしている。


「こうして見ると結構芸術っていうよりはイルミネーションみたいな映えスポットって感じだね」

「ね!」

「私は全体鏡張りのところ気になっているんだよね」

「私も気になってる! 探してみようか」

「うん」


 良かった、今日のすみちゃんは機嫌が良さそう。あとは地雷を踏まないように気をつけて喋ればいい。


「いぶ、あったよ」

「わ〜。やっぱ写真越しより、こうして直接見た方が圧巻だね。すごく綺麗」

「いぶ、こっち。ここなら他の人写らないよ」


 すみちゃんが鏡に向けてスマホを構えたので、私も皆がするように、少し身体の角度を気にして、写真に写る。


「綺麗に撮れたよ、いぶ」


 写真に写った私達は、まるで友達のように楽しさが伝わる写真だったので、今度は私がスマホを取り出す。


「すみちゃんは写真を撮るのが上手いね」


 私は後ろからすみちゃんを抱きしめて、すみちゃんと同じように、鏡に向けてシャッターを切る。

 今度は逆に、お互い若干緊張したからか、まるで恋人のような、どこか静けさのある写真になった。


「どう?」


 写真を見せると、鏡に映ったすみちゃんは、楽しさからではなく、幸せから生まれる満面の笑みを見せていた。


「いぶも上手。あとでその写真頂戴」

「もちろん。すみちゃんのも頂戴」

「うん。あげるね」


 他にも色んな場所で写真を撮って、遊べる場所で遊んで、私の気持ちはすっかり元通りになっていた。


「いぶ、待って……」


 細い足場でバランスを取りながら進んでいくアスレチックを見つけて、中央辺りまで来たところで、すみちゃんは体力が少々危なくなったらしい。


「キツイなら降りる? 頑張って怪我しても危ないし」


 すみちゃんはその場で少し静止した後、ゆっくりと頷いたので、私は足場から降りて、すみちゃんの側にいき、腰に手を添える。すみちゃんに肩を掴んでもらって、支えながら足場に降ろす。


「結構遊んだし、そろそろご飯行こうか。お腹空いちゃった」

「私も。喉乾いちゃった」


 すみちゃんは空になっているちっちゃなペットボトルを握りしめる。


 館内は全体に冷風が行き届かないからか、どこか暑苦しさがあったので、ロッカースペースに来た時の涼しさは格別で、解放感すらあった。


「すみちゃん何食べたい?」

「さっぱりした物が食べたいかな」

「じゃあうどんとかお寿司かな? どっちがいい?」

「じゃあお寿司」

「分かった」


 すみちゃんと相談してどこに行くか決めて、アプリで予約を取ってから向かう。


「暑いね〜」

「ね〜」


 二人で一つの日傘に入って、お互い自分にファンを当てる。


「早く寿司屋さん入りたい。涼みたい」

「目的がご飯じゃなくなってるよ」

「あまりに暑いからね。つい」


 すみちゃんはしっかり。と、私にファンを向ける。


「涼しい〜」

「良かった。いぶが少し元気になってくれたみたいで」

「お陰様で。でもすみちゃんは暑くない?」

「平気。いぶに日傘持たせてるもん。これくらいさせて」

「ありがとう。でも、がま──」


 つい言葉を詰まらせた。すみちゃんの地雷に触れるかも。そう思うだけで、口が閉じていく。


「どうしたの?」

「ん〜? 私が持ちたくて持ってるから、すみちゃんそこまで気にしなくていいのにって思って。ちっちゃな事だけど、こうやってすみちゃんの役に立ててると思うと嬉しい」


 嘘は言っていない。軽はずみに出そうになった強い本音を無理やり引っ込めて、言葉を変えてもう一度出し直し、最後に一生懸命探し当てた本音を出して意識を最後に置く。

 これが一番、お互い平和に済ませられる。


「そう思ってくれて嬉しい。でも、私はあまりいぶの役に立ててない。甘えてばっかり」


 心臓が跳ねる。トキメキではなく警鐘。抜かれた手榴弾のピンを捨てられる前に受け止め、爆発しないようにレバーを握りしめるかのように、焦って言葉を紡ぐ。


「そんな事ないよ。今もこうして私を涼しくしようとしてくれているし。普段も色々と提案してくれてすごく助かってる。私こそ、すみちゃんに助けられてばっかりだよ。ほら、お寿司屋さん着いたよ。入ろう」


 別の事で気を逸らさせて、そっとピンを刺し直す。

 席に着いて、メニューを眺めるすみちゃんを見て、ようやく安心する。

 ああ、なんでだろう。楽しいはずなのに、どこか疲れている私がいる。


「いぶ」

「どうしたの?」

「ごめんね」


 すみちゃんはタブレットを見ながらそう口にした。


「な、何が? あ、もしかして間違えて注文しちゃった? そしたら私が食べるから大丈夫だよ」

「この前変なこと言っちゃってごめんね」


 私の顔が固まったのを感じる。バレた? どうして? なんで? また、辛くなる。そんな考えが頭でずっと回っている。


「な、何のこと?」

「小夏を優先してるって言っちゃったこと。ごめんね。いぶが小夏を大事にしているのは今に始まったことじゃないもんね。でもね、やっぱり私が見ているところだけでもいいから配慮してほしい。裏で何しててもいいから。それだけ。あまり気にしないで」


 到着したお寿司にも気づかず、すみちゃんが食べ始めて、ようやく私の前にお寿司が置かれていたのに気づく。

 醤油に浸して食べるけど、味が遠くに感じる。だからさらにたっぷり醤油を染み込ませる。


 理由は分かっている。すみちゃんが言った、裏で何しててもいいって言葉。あれは信頼から出た言葉じゃない。疑念から出た言葉。

 一体すみちゃんは私と小夏の事、どう考えているのか。どう見ているのか。そんなこと聞く気になれなかった。私の事信用してないの? 言いたい言葉を引っ込めた。碌なことにならない、目に見えている地雷に突っ込むって分かっているから。


 終わり良ければ全て良しって言葉があるけれど、私はデート終わりのすみちゃんの笑顔を見ても、手放しで今日楽しかったと思えなかった。

 この時初めて、仮で付き合っていた方が楽しかったと思った。だから頬を叩いた。だって、その頃はすみちゃんに辛い思いをさせていた時期だから。あの頃に比べたら、今の私なんて何もない。

 だから大丈夫。すみちゃんが幸せならそれでいい。

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