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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
第二部・魔石編  逆時計回りの旅

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138/148

138話 エクストラバトル

 ――総来客数10組28名、満席。


 その全員が代金を支払い、次の予約を入れて帰路に就いた。総売り上げ金額、サービス料込みで425万ジェン。一晩の売り上げだ。


「それでは、これにて本日の営業は終了ですな。『三食おやつ付き』のお二人、そしてスタッフの皆。今日も大変お疲れさまでした」


 左手を三角巾で釣ったオーナーシェフ・ミゲイロさんが満足げな微笑みでスタッフ全員を労い、この日の営業は終わりを告げた。5人の料理人も、サービススタッフも特別な一日を終えた高揚感から、疲労感を感じながらも皆一様に笑顔を見せて帰路に就く。女性陣とシーラは想像以上に打ち解けていて、特にマヤさんはシーラをとても気に入ってくれている。


「シーラちゃん、明日も来てよ~」

「引っ張んな」


 給仕服がお気に召したシーラは、袖を引くマヤさんの手を鬱陶しそうに払いのける。お淑やかなシルヴァリアさんはどこかに行ってしまい、いつも通りのシーラがいる。


 で、マヤさんの言葉で俺の感じていた違和感が確定する。


「あ、マヤさん。帰りしなで申し訳ないんだけど、一つお願いいいかな?」

「えぇ~、時間外業務」

 呼び止めると苦々しい顔でマヤさんは俺を見る。そりゃそうか。冒険者稼業しか経験のない俺にはどうも勤務時間の概念が薄かったようだ。己の愚かさが本当に恨めしい。

「あー、だよな。すいません」


だが、次の瞬間マヤさんはケロリと表情を変えて二、三歩俺に近づいてくる。

「あはは、嘘嘘。なに?」

「あ、や。マジで大丈夫なんで。勤務終わったでしょ」

「はぁー?嫌味か。良いって言ってんだから早く」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」


 すでに着替え終わったマヤさんにひそひそと耳打ちをする。それを聞いたマヤさんは軽く笑って指で丸を作る。

「オッケー。帰り道だし。そのまま直帰するね、料理長!」

「もう料理長じゃないんすけど」

 従業員用の裏口に向かいながらマヤさんは振り返りケラケラと笑う。

「何言ってんですか。『一日』料理長でしょ。まだ一日は終わってませんよ。じゃ、シーラちゃん。またね」


「ん。いつかね」

 給仕服のまま、レモン水を飲みながらシーラはマヤに向かって小さく手を挙げる。その光景はまさに稲妻が落ちたような衝撃で俺の網膜を貫き心の臓を焼く。

「シーラ……っ、お前っ!」

「は?なに」

 グラスを傾けてレモン片を口に入れながら怪訝な顔で俺に抗議を示すシーラ。だが、俺は言葉を続けることはできなかった。


 

 ――やがて、スタッフは皆退勤して、店内に残るのは俺とシーラとミゲイロさんの三人だけ。


「お帰りにならないので?あ、もしかして報酬ですか?ギルド経由でお渡ししますので、ご安心を」

 ミゲイロさんは冗談めかしてそう言って笑う。


「わはは、そんな心配してませんて。あー、そうっすね。しいて心配している……って言うなら――」

 意味深に言葉を溜めて、俺は確信を持った視線をミゲイロさんに向けて笑う。

「明日はどうするのかな、と思って」


 へらへらと笑いながらそんな言葉を放つと、ミゲイロさんは観念した様子で申し訳なさそうに腕を釣る三角巾を解く。

「……申し訳ありません、騙す形になってしまって」

「え、やば。嘘つきじゃん」


 空のグラスにお代わりを入れながらシーラが目を丸くする。

「そう言うなって。そもそもがおかしいと思ったんだよ。『ケガ』だぞ?それで俺に頼むのが『一日料理長』っておかしいだろ。俺を誰だと思ってんだよ」

「ん?リューズ」

「……そうね、正解」


 骨折だろうと切断だろうと溶解だろうと、外傷なら俺にはなんの問題もなく治癒ができる。かつては『神癒』と呼ばれた治癒士なんだから。考えられる事は、ビスカがミゲイロさんに助力を請うて依頼を作ったって事だろう。となると、報酬の金額は……どちらか、もしくは両方の持ち出しだよなぁ。


「お金、受け取りませんからね?どうせミゲイロさんの財布からでしょ。それより価値のあるすげぇ経験させてもらったし」

 嬉しい反面申し訳なさが勝る。ここまでさせてしまって、さらにお金なんか受け取れるはずがない。

「い、いえ……。私は一口だけですので」

「一口?」


 その単語にシーラが『ん?』と反応して振り向くのが少し面白かった。


 そして、まるで罪の告白をするかのようにミゲイロさんは教えてくれた。コックコートのポケットから彼が取り出したのは『三食おやつ付き』S級昇級と刻まれた金属製のキーホルダーで、日付とシリアルナンバーが入っている。通し番号は100で、彼の持つそれの番号は1番だった。


 それを見て思わず苦笑してしまう。

「いつの間に作ったんだよ、こんなの」

「……ギルド本部から、と仰っていましたよ。100個限定だ、と」


 やり取りをしていると、玄関の扉が開く。あえて施錠せずに開けておいた扉。


 そこに現れたのはビスカだった。ビスカは俺とミゲイロさんの様子を一瞥して状況を把握したようで、悪戯そうにクスリと笑う。

「あら、バレました?」


 俺はじっと眉を寄せて抗議を示す。

「バレました?じゃねぇわ。手の込んだことしやがって。金は当然受け取らないからな」


 仕事終わりのようでいつもの受付嬢の服と違って私服姿のビスカは悪びれる様子もなく俺たちへと歩みを進める。

「満足させられなかったんですか?それなら当然お支払いできませんが……」

「ちげーよ。どうせお前かミゲイロさんの持ち出しだろ?そんな金受け取れるか」


 それを聞いたビスカは呆れたように大きくため息をつく。

「いいえ?そのお金は、ここダンガロの街で募ったお金です。一人一口5万ジェン。街中に声を掛けて、詳細に事情と計画を説明して、賛同して下さった皆様から集まったお金です。それをあなたは受け取れない、と?」


 ――5万ジェン。


 それは決して安い金額では無い。それを出してくれる人をこの街の中だけで100人も探すのは、どれだけの時間と労力と心労を要した事だろうか?

 

「私が用意したのはそこまでです。それ以降はきちんとした高難度の依頼だったと自負してますが。ミゲイロさん、あなたのお店を訪れる舌の肥えたお客様全員を満足させる……それはそんなに容易いことでしょうか?」

 話を振られたミゲイロさんは当然とばかりに首を横に振る。


「でしょう?それにあなたはしっかりと応えた。報酬を受け取らない理由はありますか?」


 気を抜くと涙腺がぶっ壊れそうだったので、全力でそれを抑える。まだ終わりじゃない。まだ泣くわけにはいかない。


「……あぁ、あるね」


 それは予想外の答えだったようで、ビスカは一転キョトンとした顔で俺を見る。


「まだ全員じゃないからな。飯、まだだろ?食って行けよ」

「え?」

 あっけにとられた表情のビスカを見て俺はニッと笑い、シーラに手で促す。

「シーラ、テラス席1名様ご案内だ」

「ん、了解」

 


 

 

 

 

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