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エイムの魔法植物学  作者: izumo_3D
ー誘惑の森編ー
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黎明

シラセは驚愕していた。


(俺たちが魔法を使えることを、一瞬で見抜いた!?

肩にピー助が乗っているエイムはともかく……俺は何の予兆も発してないぞ!?

こいつ……ただものじゃない……!)


思考より先に、身体が動いていた。

シラセは反射的に槍を具現化し、すでに戦闘態勢を取っていた。


「ほう、驚いた……なんたる具現化速度。

得体のしれない相手との戦闘を想定し、間合いの取れる槍を選んだことも――まあ及第点じゃな。」


「お前、何者だ!!」


シラセが叫ぶ。

エイムも身構え、ブーツにマナを込めて、いつでも駆け出せるようにしていた。


「……なるほど。そちらのお嬢さんは魔法道具を扱うのか。

凝縮されたマナの流れが見えるのう。

肩の鳥人形――それが、お嬢さんの魔法のようじゃな。非常に珍しい魔法じゃ。」


「てめぇ……質問に答えないなら……! 答えさせるまでだ!」


シラセが飛びかかろうとした瞬間――。


突風が二人の間を駆け抜け、次の刹那には、老人の姿が掻き消えていた。


「な……!?」


空気が止まる。

あっけに取られた二人の背後から、穏やかな声が響く。


「いやぁ、すまんの。

久しぶりに若い魔法使いに出会ったものでな……つい少し舞い上がってしまった。

敵ではない、安心してくれ。」


目の前から消えたはずの老爺が、いつの間にか背後に立っている。

二人は一瞬で“格の違い”を悟り、息を呑んだ。


「……おじいさん、あなたはいったい……何者なんですか?」


エイムが恐る恐る口を開く。


「ほっほ。名乗るほどの者ではないわい。

まあ、魔法に関係する仕事をしておるだけじゃ。

ところで、君らは旅をしておるのかね?」


急に柔らかい口調へと変わった老爺に、二人は戸惑いつつも、エイムが答えた。


「は、はい。私たちは、魔法都市フィオルナを目指しています。」


「ほう、なるほど! 魔法を学ぶ者ならば、一度は訪れてみたい場所じゃな。

あそこにはこの時代を代表する名高い魔法使いが、数多くおるからのう。」


老爺は目を細め、懐かしむように言う。


「おい、爺さん。こっちの話ばっかじゃなくて、あんたのことも言えよ! 不公平だろ!」


「ふむ、若者らしい血気盛んな物言いじゃのう。

あまり多くは語れんが、わしも少しばかり“調査”の旅の途中でな。」


柔和な口調の奥に、鋭い眼光が一瞬だけ走る。

その圧に、二人は自然と背筋を伸ばした。


「……さて、お二人さん。

わしも魔法を使う端くれとしてな。少しばかり“老人のお節介”をさせてもらえんかの。」


「え……あの……なんでしょうか?」


エイムは恐る恐る尋ねる。


「なあに、ちょっとした助言じゃ。特に――おぬしだ、若いの。」


「は、俺? 一体なんだよ……」


シラセが警戒を解かぬまま、眉をひそめる。


「お主の魔法の具現化速度、見事じゃのう。

それに、その魔法……もしやお主、守護英雄の末裔か?」


シラセはぎくりとし、観念したように息を吐いた。


「……ああ、そうだよ。よくわかったな。」


「魔法に携わる者であれば、気づかん者の方が少ないじゃろう。

しかしお主、実に“惜しい”のう。」


「惜しい……?」


「ああ。お主、具現化の速度が速すぎる。それゆえ、マナの消費が無駄に多い。」


「マナの……無駄だと?」


「ふむ。やはり分かっておらんか。

お主は基本的な魔法理論を学んでおらぬのじゃな。

無理もない、そういう教育の場が少ないからのう。」


「……もったいぶってねぇで、早く言えよ。」


虚勢を張りながらも、シラセの目には興味が宿っていた。


「よいか。魔法とは、体力と同じじゃ。

道の向こうまで歩くのと、全力疾走するの――どちらが早く疲れるかのう?」


「そりゃ、全力疾走だろ。」


「うむ。そして魔法もそれと同じ。

お主のように一瞬で具現化すれば、それだけ膨大なマナが一気に消費されるのじゃ。」


シラセの脳裏に、戦いの記憶が蘇る。

バジリスクとの激闘――大剣を具現化した直後、身体を押し潰すような重みを感じた。

あれは、まさにマナの急消耗だった。


「おそらくお主の具現化速度は、すでに“音”と同等。

かの守護英雄をも凌ぐほどじゃろう。

だがな――いつでもその速度で具現化しておったら、マナがいくらあっても足りん。」


電撃が走るような感覚が、シラセの胸を貫いた。

それは長年抱えてきた悩み――“マナの持続力の弱さ”の答えそのものだった。


「察するに、音速での具現化がお主の“普通”になっておる。

だが、それは最適ではない。

力とは、速さではなく“均衡”に宿る。

よく考え、鍛錬を重ねるといい。」


シラセは黙って拳を握りしめた。


「さて、次はお嬢さんじゃな。

お主の魔法は、美しく――そして少し、哀しい。」


「そ、そうでしょうか……?」


「ああ。そしてその小鳥からは、不思議な力を感じる。

魔法ではない、もっと根源的な……温かな力じゃ。

わしにもその正体は分からんが――きっとお主にとって大切な存在じゃろう。

大事にするんじゃ。」


「ありがとうございます……」


「ふむ、わしからの話は以上じゃ。

老人のお節介に付き合わせて悪かったのう。」


「あの! どうして、そんな話をしてくれたんですか?」


エイムが恐る恐る尋ねた。


「わしはな、人の“マナ”から、その者の本質を見る。

お主たちのマナは、まぶしく、そして温かかった。

だから、つい声をかけてしまったというわけじゃ。」


そう言って、老爺はゆっくりと振り返った。

背を向けながら、穏やかに手を振る。


「また会える日を楽しみにしておるよ。――ほっほ。」


その背中は、風に溶けるように遠ざかっていった。


「……何者なんだろう、あのおじいさん。

でも、悪い人ではなさそうだね。

それに、きっとすごい魔法使いだよ!」


エイムは首をかしげながらも、どこか嬉しそうに笑った。


シラセは無言のまま、老爺の背を見送る。

握り締めた拳の中で、一つの確信が、新たに芽生えていた。

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