悲しみの果て
エイムとシラセは、魔法都市フィオルナを目指して歩みを進めていた。
集落と集落の間は距離が長く、次の町が見えるまでは野営を繰り返す旅路だ。
その夜も、森の奥で焚き火を囲んでいた。
炎がぱちぱちと音を立て、暗闇に赤い光を揺らめかせる。
ふと、シラセが焚き火を見つめながらつぶやいた。
「なあエイム、前にも聞いたけどさ――ピー助って、なんでエイムが寝ても平気なんだろうな?」
「うーん……そうなんだよね。私も不思議なの。」
エイムは膝に手を置き、首をかしげる。
「ほかの子たちは、私が眠るとマナの供給が途切れて止まっちゃうのに……ピーちゃんだけは、なぜか動き続けられるんだよ。」
彼女は隣にいるピーちゃんへ視線を向けた。
「ねえ、ピーちゃんって……一体どうなってるのかな?」
「ピ?」
ピーちゃんは首をひねり、無邪気に鳴くだけだった。
「あはは……わかんないよね。」
エイムは微笑むが、その目にはわずかな寂しさが宿る。
「まあ、理由はどうあれ……」
シラセは背伸びをして肩を回す。
「いつも寝ずの番をしてくれて、本当に助かってるよ。ありがとうな、ピー助。」
「ピー!」
ピーちゃんは誇らしげに羽ばたいて返事をする。
二人は簡易テントに入り、やがて静かな寝息を立て始めた。
テントの屋根の上では、ピーちゃんがちょこんと止まり、見張りを続けている。
――いったい、自分は何者なのか。
その小さな瞳は、星空のきらめきを映しながら遠くを見つめていた。
まるで記憶をたぐり寄せるように、過去を思い返すかのように。
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エイムとピーちゃんの出会いは、今からおよそ5年前にさかのぼる。
それは、幼いエイムにとってあまりにもつらい時期だった。
エイムは幼い頃から、両親と共に魔法植物の調査に出かける日々を送っていた。
しかし、ある日突然、父と母は相次いで同じ病に倒れたのだ。
父の名はオルフ、母の名はエウリ。
二人の病状は日を追うごとに悪化し、やがてベッドから起き上がることさえできなくなった。
「お母さん!お父さん!元気になってよぉぉ!」
エイムは母に抱き着きながら叫ぶ。
「…ええ…エイム…お母さんも…お父さんも…絶対に元気に…なるから…もう少しだけ…待っててね…」
「…ああ…エイム…大丈夫…だから…な…」
両親は、息も切れ切れに絞り出すようにつぶやく。言葉とは裏腹に、その声色は、とても希望を持てるようなものではなかった。
あんなに元気だった二人が、目の前でどんどん弱っていく。
恐怖と寂しさは、まだ10歳にも満たない幼い心を、容赦なく締めつけた。
両親の危機を聞きつけ、祖父のダイロが家に滞在するようになった。
彼は二人の容体を見て、先が長くないことを悟り、胸をえぐられるような思いでエイムを見守った。
その頃のエイムは、泣きじゃくって両親にすがりついたり、絶望に押しつぶされるように自室へ閉じこもったりと、外の世界への心を閉ざしていた。
そして、ある日のこと――
「きゃあああああ!!!」
突然、エイムの叫び声が家中に響き渡った。
驚いたダイロは、エイムの部屋へ駆け込む。
「どうしたんじゃ、エイム!?」
目に飛び込んできた光景に、ダイロは息を呑んだ。
部屋の中央で、小さな人形たちが、まるで生きているかのように動き回っていたのだ。
「こ……これはまさか……! エイム、お前……魔法が発現したのか!?」
「わ、わかんない……!」
エイムは震える声で答える。
「お人形さんをぎゅっと握りしめながら……『寂しいよ、誰か来て』って、何度も何度も願ってたら……いつの間にか……こうなってたの……!」
「エイム……!」
ダイロは言葉を失い、少女を強く抱きしめた。
それは、深い孤独と悲しみが生み出した奇跡だった。
いや、むしろ絶望からの叫びが、魔法として形を成してしまったのだろう。
「ダイロじいちゃん……!」
エイムもまた、祖父の胸に顔を埋め、嗚咽を漏らす。
二人の頬を、悲哀に満ちた涙が次々と伝っていく。
小さな人形たちは、ただ静かにそんな二人を見守っていたのだった。
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