どうか、笑っておくれ
両親の容体は、日に日に悪化していくばかりだった。
家の中には重苦しい沈黙が漂い、エイムは泣き疲れて声も枯れ、憔悴しきっていた。
まだ幼い彼女には、この現実を受け止めるにはあまりにも辛すぎた。
そんなエイムを、少しでも気持ちを紛らわせてやりたい――。
そう考えたダイロは、作業場にこもり、あるものを作り始める。
それは、小鳥の姿をした、精巧な機械仕掛けの人形だった。
ダイロは腕利きの技術屋として知られ、世界各地から複雑なギミックの制作依頼が舞い込むほどの人物だった。
さらに、息子夫婦が魔法植物の研究に没頭していたこともあり、その植物の特性を活かした魔法道具作りにも携わるようになっていた。
のちにエイムが冒険で愛用することになる、マナを蓄える特製ブーツも、ダイロの手によるものだ。
しかし今、彼が作ろうとしているのは「道具」ではない。
それは、孫娘の小さな心を救うための祈りにも似た創作だった。
エイムに発現した魔法を、彼女自身が「良いもの」だと信じられるようにしてやりたい――。
そう願ったダイロは、人形に特別な機能を組み込むことにした。
「周囲のエネルギーを少しずつ蓄え、自らの意志で放出できる」。
それは、エイムの魔法と響き合い、まるで命を持った鳥のように動ける仕組みだった。
「これで、この小鳥は風を蓄えれば、自分の力で空を飛ぶことができるじゃろう。
そうすれば、あの子と一緒に遊んでやれるはずじゃ……頼んだぞ。」
完成した小鳥を前に、ダイロは深く息を吐き、願いを込めて目を閉じた。
その小さな羽根には、彼の想いと、家族への祈りが宿っていた。
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「ほれ、エイム。いいものをやろう。
見てみい、機械仕掛けの小鳥の人形じゃ。」
作業場から戻ったダイロが差し出した人形を、エイムは生気の失せた瞳で見つめた。
「……ありがとう……」
泣き腫らした喉のせいでかすれた小さな声に、ダイロは胸が締め付けられるようだった。
それでも穏やかな笑みを浮かべ、静かに語りかける。
「この小鳥はな、特別な金属でできておる。
その金属には、お前さんの父さんと母さんが研究してきた、力を蓄える魔法植物の魔法が宿っておるんじゃ。」
「……もしかして……ステラブルーム(星送りの爆果)?」
エイムの目に、一瞬だけ光が宿る。
ダイロは「ほっほっほ!」と豪快に笑った。
「さすが魔法植物学者の娘じゃな。その通りじゃ!」
「……うん。お父さんとお母さんが、とても好きな魔法植物だから……」
ほんのわずかだが、エイムの口元に小さな笑みが浮かぶ。
その姿を見て、ダイロの胸に込み上げるものがあった。
本当に久しぶりだった――あの子が、こうして笑ったのは。
「その力でな、例えば風を蓄えれば、この小鳥は本当に空を飛べるんじゃ。」
「……えっ、ほんとに!? ……すごい……!」
「ふふ、そしてそれを可能にするのは、エイム……お前自身の魔法じゃ。」
「……わたしの、魔法……?」
「ああ、魔法は天から授かる奇跡じゃよ。
お前がその魔法で、この小鳥を飛ばしてやりなさい。」
エイムは小鳥を両手で抱き締め、涙に濡れた頬を拭った。
その瞳には、ようやく光が戻りつつあった。
「……うん、やってみる!」
次の瞬間、エイムは勢いよく外へ飛び出していった。
小鳥の人形を胸に抱え、まるで宝物を守るようにして――。
「ああ……いつぶりじゃろうな……あの子が、あんなふうに駆けていく姿を見るのは……」
ダイロは玄関先で立ち尽くしながら、目頭を熱くした。
その背中を、暖かく、そして少し切なく、見つめ続けていた。
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