交錯の兆し
シラセは目覚めてから一週間ほど休息を取り、ようやく体力を取り戻しつつあった。
今では再び魔法の訓練を始めているが、その様子はこれまでとはどこか違っていた。
魔法で棒状のものを出現させると、シラセは座禅を組むように静かに腰を下ろし、目を閉じて集中する。そして、その棒を左右にゆっくりと地面になぞり始めた。
「……何してるの?」
不思議そうに問いかけるエイム。
シラセは目を閉じたまま、わずかに口角を上げて答えた。
「ああ、この前の戦いを覚えてるか? エイムが言ってただろ。『守護英雄は糸のようなものを魔法で作って、それを感覚器官として使ってたんじゃないか』って。」
「あ、そういえば……言ったね。でもあくまでも推測だよ?」
「それが本当かどうかはわからない。ただ、おれは今まで“武器を作って戦う”ことしか考えてなかったんだ。でももし、魔法をもっと柔軟に使えれば――可能性は、無限に広がると思わないか?」
エイムは思わず目を輝かせた。
「なるほど! 確かにそれができたらすごいね! それで、やってみてどうなの?」
シラセは軽く息を吐く。
「……正直、全然手応えがない。でも、初めての試みだしな。鍛錬を続ければ、何か掴めるかもしれない。だからもう少し続けてみるつもりだ。」
「そっか……うん、頑張って!」
二人が言葉を交わすその頃、町にもようやく変化が訪れていた。
長く町を閉ざしていた軍の門番たちが、次々と撤収の準備を始めていたのだ。
小人の人形を使って隠密に情報を集めた結果、病はすでに収束へと向かい、軍が正式に封鎖を解除したことが分かった。
それを確認したエイムたちは、久しぶりに町へ足を踏み入れることにした。
「確かに蛇は倒したから、もう病気は広がらないはずだけど……実際はどうなったんだろう?」
恐る恐る町を歩くと、人影はまだまばらながらも、家々からは人々の声が漏れ、少しずつ活気を取り戻しつつあるのが分かった。
安堵を覚えた二人は、そのまま宿屋へと向かい、温かい食事と柔らかなベッドで久しぶりの安らぎを味わう。
翌日からは、まだ病気の症状が残る人々を回り、調合薬を配って症状を和らげる活動に尽力した。
そうして数日が経ち、町が落ち着きを取り戻していくのを見届けた二人は、再び旅に出る決意を固める。
「さあ、たっぷり休めたし――またフィオルナを目指して進もう!」
「ああ、行こう!」
二人は一回り成長した心で、新たな一歩を踏み出した。
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同じころ――。
重厚な扉の前で、フードを深く被った男が立ちすくんでいた。
落ち着きなく足を踏み替え、ぼそぼそと愚痴をこぼす。
「あーあ、やだやだ……絶対詰められるじゃん……
てかなんで、あの最強魔眼のバジリスクちゃんがやられてんだよ~!」
「つべこべ言わず、さっさと入ったらどうだ。」
背後から低い声が響いた。
いつの間にか、背の高い別の男が立っていた。
すらりとした体躯はどこか気品を漂わせているが、その顔は仮面に覆われており、表情は一切読めない。
「あ、あれぇー!? 部屋の外にいたんだね~! あはは、どうもどうも~!」
フードの男は慌てておどけてみせながら、扉を開けて部屋に駆け込む。
部屋の中央には巨大な円卓が置かれており、二人はそこに腰を下ろした。
「いや~本日はお日柄もよく――」
「御託はいい。バジリスクが打ち取られたというのは本当か。」
「……あはは~、はい、そうなんだよねぇ~……まさかねぇ……いやぁ、ほんと信じられないっす~……」
フードの男は目を泳がせ、しどろもどろに答える。
仮面の男の声がさらに冷たく響く。
「バジリスクには《石化の魔眼》があった。それが倒されたということは……わかるな?」
「え、えっと……」
「相手は、相当の手練れということだ。下手をすれば、過去の英雄に並ぶほどのな。我々の計画に大きな支障をきたしかねん。」
「うーん……そうっすね~。いやぁ、困ったなぁ~。」
「……貴様には調査を命じていたはずだが?」
「あ、あれぇ? そうでしたっけ!? いや~最近、物忘れが激しくて……歳かなぁ~なんて、はは……」
「……ふん。まあいい。」
仮面の男は淡々と続ける。
「有力な情報を得た。バジリスクが倒される直前、町には旅の者が来ていたそうだ。
特徴は――『朱色の髪の少女、白髪の少年、そして機械仕掛けの小鳥』。」
「うっわぁ~、なにそれ!めっちゃ目立つじゃないですか!」
「これだけあれば特定は容易い。そして、ガルムとバジリスクが倒された地点を線で結べば、奴らの進行方向も見えてくる。
……おそらくは、魔法都市フィオルナに向かっている。」
「なるほど……ってことは~、どこかで待ち伏せして討てばいいってことね?」
「珍しく察しがいいな。やり方は任せる。ただし――即座には殺すな。利用価値があるかもしれん。まずは奴らの情報を洗いざらい集めろ。」
「了解っす♪」
「話は終わりだ。さっさと取り掛かれ。」
「ういーす!」
フードの男は軽快な足取りで部屋を出ていく。その顔には、不気味なほど爽やかな笑みが浮かんでいた。
まるで無邪気な子供が、新しい玩具を前にしてはしゃぐかのように――。
一人残された仮面の男は、窓の外を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「……まもなくだ。絶対に成し遂げる……見ていてくれ、クロア……」
その言葉は虚空へと消え、ただ、行き場のない願いだけが残された。
封鎖された町編――完。
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