グラビティ・フォール
シラセは落下していく最中、霞む視界の中でぼんやりと思った。
――このまま地面に叩きつけられて、俺は死ぬ。
もう体は、まともには動かない。
バジリスクの体に突き刺さっている大剣が、ちらちらと粒子となって崩れはじめていた。シラセからのマナの供給が途絶えかけているせいだ。
――もう、駄目だ。
諦めかけたその瞬間だった。
「まだだよ!!」
耳を裂くように、エイムの叫び声が響く。
次の瞬間、落下するシラセの体は、空高く跳躍したエイムに抱きとめられていた。
「エ…エイム…!」
呻くように名を呼ぶシラセ。
二人はそのまま地面に着地した。
砂煙の中、エイムは強い眼差しでシラセに問いかける。
「シラセ、頑張ってくれて本当にありがとう! もう少しだけでいい、魔法を維持できる!?」
「…でも、俺は、あいつを倒せなかった……」
かすれた声で答えるシラセ。
だがエイムは迷いなく言葉を返す。
「確かに、まだバジリスクは倒せてない! でも!!
私たちには相棒がいる。あの子と力を合わせれば、まだ戦える!」
「相棒…?」
「忘れたの!? ピーちゃんっていう、とっても頼りになる相棒がいるでしょ!
だから、もう一度だけ――力を貸して!」
「ピー助……わかった。あいつに…託す……!」
シラセが踏ん張った瞬間、崩れかけていた大剣の粒子化が止まる。
その光景を確認すると、エイムは声を張り上げた。
「ピーちゃん! 最後の大仕事だよ! 大剣の真上へ飛んで!」
「ピィィィィ!!」
ピーちゃんは全力で舞い上がり、大剣の真上へと急上昇する。
地上ではバジリスクが巨体をのたうち回し、大地を揺るがしながら暴れ狂っていた。大剣が抜け落ちるのも、もはや時間の問題だった。
「いくよ、ピーちゃん!!
今までため込んだ――『重力』を、全解放!!!!」
「ピィィィィィィ!!!!!」
ピーちゃんはエネルギーを蓄えることができる。風、陽光、そして常に体にかかり続けていた「重力」すら、その例外ではない。
生まれてから数年。積み重ねてきた膨大な力の結晶を、この一瞬にすべて解き放つ。
周囲の景色が、あまりの重力にぐにゃりと歪む。
黒に近い紫の光がピーちゃんの体を包み込み――
そして目で追えぬ速度で、急降下した。
その機械仕掛けの体が、大剣の柄頭に激突する。
ガァァアアアアン!!!!
凄絶な衝撃音。爆風が広がり、周囲の岩が砕け散って無数の弾丸のように飛び交う。
恐るべき重力の奔流に押し込まれ、大剣はさらに深く、バジリスクの体を貫いた。
ズドォッ!!
ついにその鋼鉄の骨が断ち切られる。
大剣はバジリスクの頭部と胴を完全に切り離し、刀身は地面へと深々と突き刺さっていた。
「ギィィヤァァァァァァァァァァ!!!!」
地面を転がった怪物の頭は、断末魔を響かせる。
だが次第に、魔眼の魔法陣は消え失せ、その目から光が失われていった。
そしてその巨体は小蛇もろとも、ガルムの時と同じように無数の塵となり、大気に溶けて消えていった――。
あたりにはただ、静寂だけが、広がっていた。
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