絶体絶命
どんな者にも、平等に朝は訪れる。
痛みに喘ぐ病人にも、明日を夢見る子どもにも、そして、死の恐怖を胸に抱きながら、戦いに挑む者たちにも——。
高く昇る陽光の下、エイムとシラセは、戦支度を整えた。
一体の人形に先導されながら、森の奥へと足を踏み入れていく。バジリスクを、討つために。
道中、二人の間に言葉はなかった。
張り詰めた空気の中、互いに覚悟を研ぎ澄ましながら、黙々と歩を進める。
森の奥へと進んで、どれほど経っただろう。
やがて、森の闇に溶け込むようにぽっかりと開いた洞窟が現れた。
その奥は暗く、何も見えない。
二人には、まるで死が手招きをしているように感じられた。
だが、今は臆するときではない。
エイムとシラセは顔を見合わせ、無言のままうなずき合う。
「……いくぞ」
シラセの低く絞った声を合図に、二人は音を立てぬよう細心の注意を払いながら、洞窟の奥へと足を踏み入れた。
やがて、かすかに光が見えてくる。
洞窟の向こう側には空間が広がっている。そこが、バジリスクの眠る場所。
胸の奥で、心臓が激しく脈打つ。
その音が相手に聞こえてしまうのではないかと思うほどに。
慎重を期すため、まずは人形が先に洞窟の出口を覗いた。
腕で丸を作る仕草——敵は眠っている。予定通りだ。
エイムとシラセは息を殺し、そっと顔を出す。
その瞬間、視界に飛び込んできたのは——
岩のように巨大な蛇。
神話から抜け出したかのような、恐ろしい存在が、静かにとぐろを巻いて眠っていた。
その姿を前に、全身の血が冷え、体が硬直する。
だが、恐れている暇はない。今やるべきことは、その魔眼を潰すこと。
奇襲こそが勝利への鍵だ。
幸運なことに、バジリスクは顔をこちらに向けて眠っている。
両目を正面から射抜くには、絶好の角度だった。
シラセの具現化魔法の強みは、その生成速度にある。
弓を構えながら魔法を発動すれば、二連の矢をほぼ同時に発射することが可能だった。
「……よし、やるぞ」
エイムとうなずきあい、シラセは静かに弓を構える。
その動きに呼応するように、マナが具現化し、弓矢が手元に出現した。
慎重に、狙いを定める。
まさにその瞬間だった——
ボトッ……ボトッ……
背後の暗がりから、何かが落ちる不快な音が響いた。
「……!」
エイムとシラセは即座に振り返った。
そして——息を呑む。
洞窟の壁一面に、無数の小さな蛇がうごめいていた。
それらが這い寄るたびに、地に落ちていく個体がいた。あの音は、その蛇たちの落下音だったのだ。
蛇、蛇、蛇——
その群れは地面を埋め尽くし、壁を這い、天井からもぶら下がりながら、静かに、だが確実にこちらへと迫ってくる。
あまりの数に、二人の理性は停止し、悲鳴を上げる。
「う……うわあああああぁあああッ!!」
反射的に叫び、二人はバジリスクの眠る空間へと飛び出す。
それしか、逃れる術がなかった。
その瞬間——
「シュゥゥウウーーーーーーッ……!」
鋭い、空気を裂くようなおおきな音が、背後から響いた。
背筋が、凍り付く。
ーーーーーやられた。
二人は直感で悟る。
そうだ。蛇とは、狡猾な生き物だった。
自分たちは、ここに誘い込まれたのだ。
退路は、無数の蛇にふさがれている。
背後には、目を合わせただけで命を奪う化け物。
そしてそれが今……間違いなくこちらを、見ている。
全てが遅かった。
この状況に名を付けるならば、それはただ一つ。
「絶体絶命」だった。
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