対峙
絶望的な状況だった。
すべてが予想を裏切っていた。
無数の蛇に退路を塞がれ、背後には魔眼の怪物。
二人の命は、まさに風前の灯火だった。
咄嗟に、シラセが叫ぶ。
「エイム! 絶対にバジリスクの目を見るな!!」
「わかってるけど……! でもどうすればいいの!?」
「くっ……とにかく、俺がこの蛇どもを蹴散らして退路を作る!」
叫ぶなり、シラセの手に長槍が具現化する。
振るうたびに鋭い弧を描き、蛇を何匹も薙ぎ払っていく。
だが、その数はまるで尽きる気配がない。
どれだけ薙ぎ払っても、次から次へと壁を這い、天井から降り、地を這い寄る。
ほとんど意味がない。
エイムは混乱していた。
どうすればいい?
どうしたら、この状況から抜け出せるの——?
そのとき。
「ピィーーーーー!!」
ピーちゃんが鋭く鳴いた。
「バジリスクが……こっちに向かってきてるって!」
ずるずると地を引きずる、重く不吉な音。
背後から、それは確かに迫っていた。
死が、音を立てて近づいてくる。
エイムは、思わず目をつむった。
逃れようのない運命に、体が凍りつく。
ーーそのときだった。
脳裏に、かすかな記憶がよみがえる。
シラセが語っていた、あの話。
「守護英雄様は、目を閉じながら戦ってたみたいだ」
「その周囲には、キラキラした細かな光があったらしい」
「でも、それが何だったのかはわからないって……」
電流のような閃きが、脳裏を駆け抜けた。
「……そうか!!」
「な、なんだ!?」
蛇の群れを払いながら、シラセが叫ぶ。
エイムは興奮気味に続けた。
「守護英雄の周りにあった“キラキラ”の正体!
たぶんそれは、魔法で具現化された細かい糸だよ!
それを感覚器官として空間に張り巡らせて、敵の動きを察知してたんだ!」
「なっ…!?そんなことが…!?
で、でも……それが今の状況と何の関係があるんだ!?」
「大ありだよ!私は……守護英雄みたいに、目を閉じて戦ってみせる!」
「はあ!?エイム、無茶するな!目を閉じてバジリスクと戦うなんて——!」
「大丈夫、私にはピーちゃんがいる!私とピーちゃんなら、できる!」
その言葉に、シラセははっとする。
「まさか……ピー助を“目”の代わりに……!?
確かにピー助ならバジリスクの動きを伝えられるだろうが…
精度もタイミングも……!」
「無茶なのはわかってる。でもやるしかない!!
死ぬのを待つなんて、もっと嫌!」
エイムはピーちゃんに向かって叫ぶ。
「ピーちゃん! バジリスクの動きを、全部、細かく伝えて!!」
「ピィ!!」
小さな体が、力強く鳴いた。
「シラセ、お願い! 蛇たちがこっちに来ないように、足止めして!」
一瞬、シラセは迷った。
だが、この状況で他に選択肢はない。
「くっ……わかった! 任せるぞ、エイム!」
「ありがとう! 絶対に、生きて帰ろう!!」
エイムは心を決め、ぎゅっと目を閉じた。
そして、バジリスクの方へと向き直る。
この目を開いたら、すべてが終わる。
どんなに恐ろしくても、絶対に目を開けてはいけない。
それが、自分の命を守る唯一の手段。
「ピーちゃん、お願い……!」
視界を断たれたまま、エイムは息を整える。
正面には、魔眼の怪物。
後方には、毒を持つ無数の蛇。
絶望的な状況。
だが、心は研ぎ澄まされていく。
エイムは、視覚以外のすべての感覚に、意識を集中させる。
そして、バジリスクとの命を賭けた戦いに、踏み込んでいった。
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