魔法をもたらした存在
木漏れ日が差し込む宿の食堂で、三人は丸い木のテーブルを囲んでいた。
目の前には、湯気を立てる朝食。焼きたてのパン、香ばしいスープ、素朴な野菜の煮込み。
空腹の彼らは目を輝かせた。
「うわぁ、おいしそう! それじゃあ、いただきまーす!」
エイムが手を合わせ、弾む声でそう言った。
「……いただきます。」
エリシアもまた、穏やかな笑みを浮かべながら小さくつぶやく。
スプーンを手に、ひとさじ。
口に運び、ゆっくりと噛む。
――その瞬間だった。
ぽろり。
頬を一粒の涙が伝った。
「え、あっ!? エリシア、大丈夫!?」
驚いたエイムとシラセが、彼女の顔をのぞき込む。
「……おいしい…すごく……」
震える声。瞳に宿る光は、悲しみではなかった。
「ご飯がおいしいって思ったの……本当に、久しぶりなの」
その言葉に、エイムがぱっと目を見開いた。
「エリシア……よかったね! それって、きっと心が元気になってきた証拠だよ!」
「うん、悲しいときや辛いときって、飯が味しねぇもんな。
うまいって感じられるのは、いい兆候だ。」
「……ありがとう。ふたりとも、本当に…」
笑顔と涙が入り混じるエリシアの表情は、まるで長い夜が明けたようだった。
そして、三人は言葉を交わしながら、あっという間に朝食を平らげた。
「ふぅ〜、食った食った……さて、エイム。これからどうするんだ?」
シラセは満足げに腹をさすり、エイムに視線を向けた。
「まずは、ヘルマン村長に今回の件を報告しに行くつもり。
それと、エリシアのこれからについても相談しないと。……一緒に来てくれる?」
「うん、もちろん!」
エリシアは力強く頷く。
「村の人たち……最初は私のこと、気にかけてくれてたの。
食べ物を家の前に置いてくれたり、ドア越しに声をかけてくれたり。
でも私は誰にも会いたくなくて、引きこもっていた……
それどころか、幻影を見せてみんなを怖がらせてしまった。
だから……ちゃんと、お礼をして、そして謝りたいの。」
「そっか。みんな、いい人そうだったもんね!きっと大丈夫!」
「うん。これからはこの村の一員として……頑張って生きていきたい。」
「それなら、さっそく村長のところへ行こう!」
そうして三人は、宿を後にした。
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少し経った頃。
3人とヘルマン村長はテーブルを囲み、ことの顛末を報告していた。
「そうか……つまり、皆が見ていた“幽霊の少女”は、エリシアだったのか……」
ヘルマン村長は深く眉をひそめながら言った。
「気づけなくて……本当に、すまなかった」
「いえ、そんな……姿も変わっていましたし、無理はありません。
こわがらせてしまってごめんなさい。
あと、私は皆さんの優しさに支えられていました、本当にありがとうございました。」
「そう言ってもらえると、私たちも救われる。これからは、村の皆で君を支えるよ。安心していい」
「ありがとうございます。私も、皆さんに恩返しができるように……この命、大切に生きていきます」
村長と交わされる言葉は、短いながらも、どれも真心に満ちていた。
その様子を、エイムとシラセは静かに、誇らしげに見守っていた。
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村長の家を後にして、三人は並んで歩いていた。空にはうっすらと雲が流れ、風が頬をなでていく。
「……あっという間だったけど、この村とも……もうすぐお別れか」
シラセの声には、少しだけ寂しさが滲んでいた。
「そうだね…私たちには、まだやるべきことがあるから」
エイムも目を伏せながらつぶやいた。
「二人は、魔法植物の調査をしてるんだっけ?」
エリシアが尋ねる。
「うん、そうだよ!」
本当は、魔獣や人造魔法植物についての調査も兼ねているのだが、エイムとシラセはこのことを不用意に口にしないようにしていた。
下手に噂が広まって、人々に不要な不安や混乱が沸き起こるのを防ぐためだ。
「そっか……関係あるかどうか、分からないけど……実は一つ、気になることがあるの」
エリシアの声音が少し低くなる。
「もしかしたら、エイムたちの旅になにか関係があるかもしれない。」
「えっ、どんなこと?」
エリシアは語り始めた。まだ冒険者として旅を始めたばかりの、ある日の記憶を――
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その日、エリシアは父とともに、ある古い遺跡を訪れていた。
「見てごらん、エリシア。これはとても古い文字だ。
遺跡もかなり古い。どうやら、大昔の人たちが何かを残したらしい」
「すごい……! なんて書いてあるの?」
「うん、父さんが少し読んでみよう……えっと……
『ここに祀る。この世界に魔法を――もたらした――存在を……』……っ!?」
父の手が止まった。彼の顔は、青ざめていた。
「……お父さん?」
「……エリシア。このことは……あまり気にしなくていい。
さあ、他の場所を見に行こう!」
手を引かれたエリシアは、振り返りながら、崩れかけた壁画を見つめた。
そこには、確かに何かが描かれていた“はず”だった。
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「その壁画……思い返してみると、何かが描かれていた部分だけ、まるで“えぐられた”みたいに崩れてたの。
「もしかしたら……誰かが“その存在”を隠そうとしたのかもしれない」
エリシアの言葉に、エイムとシラセは思わず目を見合わせた。
「魔法をもたらした存在……?」
「そんな存在が、意図的に……消されている?」
突き抜けるように晴天の空の下、3人には静けさが重くのしかかっていた。
まるで、その名も姿も知らぬ“何か”の気配を感じるようで、3人にはこの世界が、それまでとはまるで別のもののように感じていたのだった。
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