”世界の根幹に到達する者(アカシック・テンプレート)”
「ウ、ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
王が雷撃の鞭を再び何度も、アカテンへと振るい上げる。
だが、神力を得て啓泉やモミ夜のような”超越者”とでもいうべき存在になった現在のアカテンに、生半可な瘴気の攻撃が通じるはずもない。
アカテンは最初の数回の鞭打を受けていたが、七度目の攻撃を神力を込めた手刀で断ち切っていた。
「その程度のヤワな攻撃じゃ、今の俺に傷一つつける事は出来んぞ。”王様”?……もしかして、それが貴様の本気なのか?」
そんなアカテンの煽りを受けて、王は自身の相貌を憤怒で醜く歪ませていた。
「クッ……”その程度の攻撃”で豚のように醜い鳴き声を上げていたのは貴様であろうが!!」
「おやおや、現在勝てる自信がない奴ほど変えようのない過去の事例を持ち出してマウントを取りたがる。……えっ!?も、もしかして……”憎悪の極点王”ってまさか!て、典型的な小物だったんすか!?」
「知らなかった~!」などと言いながらわざとらしく驚きの声を上げ、大きく目を見開きながら口元を押さえるアカテンを前に、王の堪忍袋の緒が切れる--!!
「……良いだろう。そこまで言うのならば、我が本気を見せてくれるわッ!!」
刹那、”憎悪の極点王”のもとに、極大の力が集まり始める--!!
「……”永遠の王”から賜りし権能のもと、我が本気を持って貴様を跡形もなくこの世から消し去ってくれようぞ!!」
”永遠の王”。
それは、数多の世界に干渉するほどの絶対的な権威と圧倒的な権能を保持する超常的な存在である。
”永遠の王”は『全ての世界を絶対的な権威のもとに統一すべし』という理念のもとに、自分が選んだ存在に圧倒的な権能や、”堕淫棲隷武”のような異形の軍勢を与え、数多の世界に破滅と混乱を引き起こしてきた。
--夏の終わりに想いを馳せる者、”悲劇確約論”。
--天上に響き渡る福音、”天ぷら☆ハフハフ”。
--業務中にアニメ視聴がバレた男、”ゴッド・ドラゴン”。
そして、この世界に現れた存在--”憎悪の極点王”。
いずれも”永遠の王”の尖兵として、一つの世界を支配し滅ぼすだけの力を有する脅威的な存在である。
そのような絶対的な存在である”永遠の王”から与えられた権能を持って、”憎悪の極点王”は禁じられた力を極限開放する事を決意した。
その結果、どうなるのかは分からない。
だが、この場で大人しく引っ込んでいるようなら、”憎悪の極点王”という存在は最初から"怨嗟を招く呪詛"などという在り方を選んだりするはずがないのだ--。
「……来たれ、全ての命の反転属性!”滅死奉光”--!!」
己の激情のままに、”永遠の王”より与えられた権威と権能を極大の殺意の波動で塗りつぶしていく”憎悪の極点王”。
彼の憎悪を全ての基軸にした在り方は、万能ともいえる権能の全てを”生命ある者を殺し尽くす”という方向に変容させていく。
--それは、人々が長い年月と共に伝統として積み上げ、目指すべき理想としての”権威”というモノを、他者を鏖殺するための暴力に貶める最悪の具現そのものであった。
純粋なまでの殺意で塗り固められた極大の力の塊が、アカテンへと放たれる--!!
「権威、権威、権威!……絶対、権威ォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
とてつもない連撃がアカテンへと襲い掛かる--!!
「クッ!?……何て凄まじく桁違いな威力なんだ!!」
「クハハハハハッ!!これが我の力だ!……何が希望だ?この時代を終わらせる?……ここで無様に潰えるのは取るに足らぬ貴様の方だ!アカシック・テンプレート!!」
今はまだ神力によって持ちこたえられているが、このまま対抗する手段がなければ追い込まれる一方である。
だが、アカテンはまだこの状態になったばかりで、自分の力を使いこなせていない。
そんなアカテンに対して、王が激昂と共に罵倒の言葉を浴びせる。
「……何が山賊小説だ、何が”HEAPS”だ!!貴様など、その無価値な小説とやらと同じ単なる底辺に過ぎん愚物であろうが!……そんな何も守るべきモノを持たない貴様が、この国を護るために王へと昇りつめた我に嫉妬してくだらん妨害をしおって反吐が出るわ!この下衆が!……さっさと、くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
これまでにない極限のエネルギーが、アカテンへと迫りくる--!!
(クソッ……!最早、これまでか!?)
死を覚悟したその瞬間、これまでの思い出がアカテンの脳裏をよぎる。
数々の光景が頭の中で煌く中、ふとある人物とのやり取りが強く浮かび上がった。
『……日本神話にあるように、かつて父なるイザナギ様が、黄泉比良坂で死を司る母なるイザナミ様に決別を告げた事によって、地上は生命に満ちた躍動感溢れる世界になりました』
『……ですが、"憎悪の極点王"が喧伝する『怨嗟を招く呪詛』によって、この地上は他者の"死"を求める意志が蔓延し、今となっては命ある者が生きられない"地獄"へと変わりつつあるんです……!!』
『……し、知らんかった!!歴史とオカルト、両方の側面から考察された完璧な理論を前に俺氏、完全驚愕せり……!!』
それは、『あやかしマイスター』の血筋の少女である弥勒寺 ツカサという少女の言葉だった。
それを思い浮かべたとき、アカテンは(この娘って、アキラとかいう彼氏っぽい奴がいたはずだよな?……こんな死の瀬戸際で思い浮かべるとか、まさか俺には他人の彼女を凌辱したい!という山賊特有ともいえる”寝盗り願望”があったのか……!?)と一瞬考えたりしたが、(でも俺は、『十代のうちは好きな者同士でイチャイチャして欲しい!チャラい間男に寝取られるのは結婚してから♡』って考えているから、その線はないな……)とすぐに思い至り、ツカサの言葉からこの状況を打開する手立てが何かないかを思案し始める。
(ツカサの言う通り、これほどの強い力をただ誰かを殺すことのみにしか使えないようなコイツが君臨するような世界になったら、誰も生きられない世の中になるのは目に見えている……)
ならば、今の自分が出来る事はただ一つ。
「それなら、俺がそんな死の運命に別離を告げるような”静謐を打ち破る者”になってやらぁ!!」
こうして、アカシック・テンプレートという青年の指向性は定まった。
それと同時にアカテンへと、”憎悪の極点王”が放った一撃が直撃する--!!
「クククッ……!大口を叩いた割に存外あっけないモノだな、アカシック・テンプレート。貴様のようなゴミには相応しい末路と言えよう……!!」
勝利を確信して、高笑いをする”憎悪の極点王”。
何も残らなくなった跡地を目にしながら、王は既にいなくなったアカテンに向けてなお嘲りの言葉を吐き続ける。
「所詮貴様など何の覚悟もなしに首を突っ込んだだけの雑魚よ!!偉大なる王の権威に楯突いた事を地獄の底で悔やむのだな……この無能が!!」
嘲笑したかと思えば、すぐに憤慨する”憎悪の極点王””。
喜怒の差はあれど、このままアカテンを嘲るだけの言葉を呟くかと思われた王だったが、今度は彼自身が思ってもいなかった”驚愕”という表情へと変えられる事となる。
最初はあたりを漂う淡い光の粒子だった。
それらが段々と集い始めたかと思うと、やがて一つの人の形を形成していく--。
そして、光の中から姿を現したのは--アカシック・テンプレートであった。
王が信じられない光景を前に、絶叫にも似た響きを上げる。
「……き、貴様!!一体何だそれは!?どうして、あの直撃を受けて生きていられる!?」
罪人を咎めるような王の詰問を前にしても、アカテンは憶することなく平然と答える。
「いや、俺は確かにあのときのお前の一撃で死んだも同然だったさ、”憎悪の極点王”。……だが、人が十月十日を得てこの世で新たな生を得るように、俺も全世界の人々から集められた力を糧にこうして再誕する事が出来たんだ……!!」
「何ッ!?……と、”十月十日”だと!?」
アカテンの発言を聞いて、更なる動揺を見せる”憎悪の極点王”。
彼はアカテンの言葉を聞きながら、かつて自分に絶対的な権能と強大なる軍勢を与えた超越的存在--”永遠の王”が口にしていた言葉を無意識に呟いていた。
「”人は十の数に王の影を見る”、だと?……あ、ありえん!!こんな奴が、あの方と同じ領域に到達する者だとでも言うのか!?」
だが、”憎悪の極点王”がどれだけ強く否定しようとも、目前の光景が事実を物語っている。
今のアカテンはただ復活を果たしただけでなく、これまで以上にない世界を揺るがす程の神力を迸らせながらその膨大な力に翻弄されることなく、指向性を持った自身の意思で確かに制御しているようであった。
--立花 モミ夜という中卒無職の少年が、十の数字に裁きと破壊の力を見出し、自身が生まれてから一度も発揮する事のなかった全身全霊の境地を求めたかのように。
--藤原 啓泉という天上貴族の青年が、十の数字に寛容性と多様性を見出し、様々な在り方が息づく世界を願ったように。
アカシック・テンプレートというなろう作家は、十の数字に生命の誕生と復活を見出し、憎悪と死の時代に別れを告げる道を選択する--!!
新しい時代を望む人々の希望をその身に集め、一人の山賊なろう作家は真の意味で”世界の根幹に到達する者”となった。
”破壊”をもたらすモミ夜、”平定”をなさんとする啓泉。--そして”創造”を司る第三の超越者となったアカシック・テンプレートが、廃滅の暗黒時代に終わりを告げるかのように、降誕の焔を身に纏いこの地に顕現を果たす--!!
「まったく……山賊小説を書いているような俺が、人様から施しを受けるなんざ世も末だな。……それじゃ、こんな世紀末はさっさと終わらせて、山賊は山賊らしく略奪したりして、お天道様に顔向け出来ない奴として後ろ指差されるような当たり前に戻してみせるぜ!!」
そんなアカテンの発言を受けて、”憎悪の極点王”が憤怒に顔を歪ませながら、地の底から響き渡るような凄まじく殺気を込めた声音でアカテンを凝視する。
「……認めん。……認めん、認めん、認めん!!貴様のような者が”永遠の王”に選ばれたこの我の統治を阻むなど、断じて認めん!!」
裂帛の叫びと共に、”憎悪の極点王”の殺意がこれまで以上に凝縮されていく。
「超越者としての力に目覚めたか?……だが、それがどうした!!賢しらにどれだけ復活出来たところで、この俺を倒すことなど出来はせん!!……ロクな攻撃の手段を持たぬ貴様など、この我の殺意の波動で再生が追いつかなくなるまで殺し尽くしてくれるッ!!」
再び……いや、今まで以上に極大な暗黒瘴気が色濃く込められた”滅死奉光”が、アカテンに向けて放たれる--!!
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!アカシック・テンプレートォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
アカテンの魂の断絶を願う"怨嗟を招く呪詛"と共に放たれる、圧倒的な悪意の奔流。
だが対するアカテンは動じることなく、右手を掲げていた。
刹那--突如、”憎悪の極点王””が放ったはずの攻撃が掻き消えていた。
困惑する”憎悪の極点王”だが、無理もない話である。
今のアカテンを一撃で倒しきれるとは思っていなかったが、それでも何度も超火力の”滅死奉光”をぶつければその再生能力とやらも追いつかなくなる……と王は判断していた。
だが、アカテンは再生どころか如何なる手段によるものか攻撃そのものをなかった事にしたのだ。
単なる再生や創造では説明がつかない事象を前に、”憎悪の極点王”が絶句する。
そんな王とは対照的に、アカテンが余裕の笑みと共に一つの小さな物体を手にとってみせた。
「……何だそれは……硬貨、か?」
アカテンが手にしたモノ。
それは、一つの十円玉だった。
”憎悪の極点王”の答えを聞いて、アカテンが頷く。
「あぁ、そうだ。どんだけ力や感情を込めようが、お前の"怨嗟を招く呪詛"はあまりにも駄文すぎて、”資本主義社会”においては二束三文の価値しかなかったようだぜ?」
「馬鹿な……任意の対象物を適切な価格の資産に変換する、だと?……ありえん!!それは貴様の”創造”の権能を超えている!!……一体、何をした貴様ァッ!?」
”憎悪の極点王”の激昂もどこ吹く風で、ある種の余裕ともいえる確信を携えながらアカテンが答える。
「”創造”、ね……確かに俺の力はさっき見せたような復活だけじゃなく、何かを作り出すことだって出来る。……だが、それは俺が一人で何でも出来るって事じゃない。命っていうのは、自分だけじゃない”誰か”と結びついて生まれてくるモノなんだ」
そう言ってアカテンが右手の平を広げると、そこにか細くもしっかりと結びついた眩き輝きを放つ紐のようなモノが出現していた。
無から全てを生み出すのではなく、個々の異なるモノ同士が”結び”ついて新たなモノを生成する在り方を模した象徴の形。
それは、自身の力だけではなく世界中の人々から『小説家になろう!』を通じて超越者の領域にまで到達したアカシック・テンプレートに相応しい魂の在り方と言えたのかもしれない。
アカテンは紐を手繰り寄せるかのように、両手を流麗に振るう。
「人は一人で生まれてくるわけでもなければ、一人で生きていく事も出来はしない。……それがどんな過程や結果を辿ろうとも、そこには”誰か”との確かな繋がりがあるはずなんだ……!!」
アカテンの背後に、様々な細さや彩の紐が現れたかと思うと、それらが編み込まれていき幻想的な刺繍を編み出していく--。
「単なるなろう作家だった俺に大した力はないかもしれない。……だけど、俺が出来ない事は誰かの力を借りたら良いんだ。……生まれてくる事だけじゃない。それも全部含めて”生きる”っていう事だろう?」
自分の力だけでは、”憎悪の極点王”の猛攻を凌ぎ切る事が出来ない。
だからこそ、アカテンは啓泉を通じて彼が内包している英傑:ハリウッドの魂と結びつき、全てを金に変換する彼の理:『夢の新天地』を借り受ける事に成功したのだ。
”憎悪の極点に座する者”と”世界の根幹に到達する者”。
他者の存在を激しく否定しようとした者と、他者との繋がりを強く望んだ者の差異がここに来て明確なモノとなる--!!
「一人じゃ何も出来なかった俺を、世界中のみんなが助けてくれた。……だから俺は、今ここにいる俺にしか出来ない事をやってみせる……!!」
そうして、目前の相手を強き意思を込めた眼差しで見据えるアカシック・テンプレート。
「見せてやるぜ、”憎悪の極点王”!!この世界には、お前の"怨嗟を招く呪詛"でも断ち切れない繋がりがあるんだって事をなぁッ!!」
そんな魂の叫びと共に、藤原 啓泉の保有する理:八百万が展開し、瞬時に粛清の光が”憎悪の極点王”に向けて放たれる--!!
それを皮切りに、退廃の魔炎や裁きの雷、差し穿つ聖槍が”憎悪の極点王””に向けて立て続けに迫る。
本来ならば、圧倒的な超越的存在である”永遠の王”の加護が機能していれば、アカテンの権能による攻撃だろうと跳ねのける事が出来たかもしれない。
だが、”憎悪の極点王”は”永遠の王”から与えられた絶対的な権威を、他者を害し排斥するための暴力装置へと貶めていた。
そのため、”憎悪の極点王”の身を護るモノは何一つなく、彼は猛攻を凌ぎ切る事も出来ないまま無防備な状態で全てを受ける結果となっていた。
「グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
”憎悪の極点王”の身に迫る数多の攻撃が王の身体を刺し貫き、モミ夜の”暴食”の権能を通じてその力を内部から食い荒らしていく。
王は"怨嗟を招く呪詛"による殺意でそれらに宿る魂を否定しようとするが、今のアカテンと結びついて力を分け与えているのは、モミ夜のような”HEAPS””の仲間達や啓泉だけでなく、ネットの拡散行為などを通じて『小説家になろう』でアカテンを応援している世界中の人々であるため、王だけでは対処が追いつかない。
アカテンのように誰かに助けを呼ぼうともしても、自身の支持者達を”無能なブタ共”呼ぼわりして切り捨てたため、彼らにすがりつく事も出来ない。
孤高から単なる孤独へと転落した王は、膨大な攻撃にその身を刺し貫かれていく--!!
……そんな中、王の脳裏に浮かんだのはこれまでのような憎悪や殺意ではなく、純粋なまでのある疑問だった。
「……何故だ、アカシック・テンプレート。……何故、貴様だけが、絶望の只中でそんな風に立っていられる……?」
うわごとのように、王が呟き続ける。
「何故、貴様だけが栄光のもと祝福を受けている?何故、貴様のような奴が大勢の者達に囲まれている?何故、貴様のような奴が勝利する……?貴様は、俺と同じクズ側の人間だろう……?」
自分のもとに現れたのが、清廉潔白な聖人なりただ我武者羅に前を見据えて生きる勇者であれば、そのような存在に敗れる事にもまだ納得は出来た。
だが、目前のアカシック・テンプレートという青年がどのような存在なのかは、数度やり取りをしただけで否応なく理解させられた。
--中身のない底の浅いクズ。--
その答えに行きつくと、鏡合わせの自分を見せられているようで耐え切れなくなり、王としての仮面を纏いながら振る舞う事が困難になるほど激しく感情を曝け出す結果となってしまった。
だからこそ、分からない。
何故、自分と同じような存在であるはずのアカシック・テンプレートにここまで無様なほどに追いつめられているのかを。
例え道理が分かったとしても、到底それを納得出来そうにはなかった。
「……お前も俺と同じく、この世界に対して何の希望も持っていない底辺のクズだろう。……出てくる言葉はその場しのぎの言い訳と現実逃避、責任転嫁の雑音ばかり。……そんな貴様が、同じクズの俺を蹴落として英雄になる事を夢見ているのか?……どんなに脚光を浴びようが、俺の"怨嗟を招く呪詛"もお前の”HEAPS”とやらも、大衆という豚共にとってみれば単なる暇つぶしの娯楽に過ぎん事が何故分からん?俺やお前にどれだけの力があろうとも、すぐに時代に埋もれるに決まっているだろう……!!」
そんな腹の底から絞り出すような王の詰問に対しても、アカテンはすげなく返す。
「英雄?そんなモノになんざ、興味ないね。……あぁ、いや、書籍化とかは興味がないといえば嘘になるけど、少なくとも俺は今回みたいな度が過ぎた面倒ごとは全て、フィクションの中の出来事として済まされるような元の日常とやらに帰還したいだけだな」
「ッ!?……何故だ、アカシック・テンプレート!!俺達のような者があのくだらん地獄に戻ったところで、居場所がないと何度も言っているだろう!?……貴様は、貴様のような奴だけは!嘘でもそんな言葉を口にするべきではない!!」
そんな王を見据えながら、怒りともいえない哀れみともいえる表情でアカテンが見つめる。
「”憎悪の極点王”、やはり俺とお前は違う。……確かに俺も自分が上手くいかないのを誰かのせいにしたりする事もあるかもしれないし、今はこうして俺を支持していたとしても、世の中の人間はその場の流行りすたりでまたお前の"怨嗟を招く呪詛"のようなモノを担ぎ出すかもしれない。……それはこの場でお前を倒してところで変わらない事実なんだろう」
けどな、とアカテンは続ける。
「例え、どんだけ失敗したり絶望したり世の中が変わろうとも、諦めず立ち上がるのがこの俺、アカシック・テンプレートだ!!……”英雄”なんかには程遠いのは自分自身で分かってる。だが、それでも!俺はお前のように何もかもが上手く行かなくなったからって、それを投げ捨てるような真似はしない!!」
「ッ!?き、貴様……!!」
「……お前も一度はこの国の頂点に昇りつめた存在なんだ。それなら、周りが馬鹿だの相手が悪いだのと言った弱音よりも先に、自分の本気を出してみやがれ!!--”憎悪の極点王”!」
(弱音よりも先に本気を出せ、か……”あの方”に権能を与えられてから、ついぞ忘れていた感覚だな……)
ボロボロに崩れそうになる肉体を奮い立たせて、目前のアカテンへと一歩一歩近づく”憎悪の極点王”。
「良いだろう、アカシック・テンプレート。……”永遠の王”から与えられた権威も、王としての責務も関係ない。……俺は俺という一人の存在として、自身の意思のもとに貴様を殺す……!!」
”永遠の王”への忠義やこの国の支配者としての地位に決別を告げ、アカテンと対峙する意思を選んだ”憎悪の極点王”。
その宣言と同時に彼の身体を纏っていた暗黒瘴気が剥がれ落ち、”永遠の王”から与えられた絶対的な権威と圧倒的な権能が喪失していく。
後に残ったのは、”憎悪の極点王”という虚飾で塗り固められた殻を脱ぎ捨てた一人の青年だった。
……このままアカテンに戦いに挑んだところで勝機は皆無に等しく、例え万が一勝利を掴んだところで自身の命が尽きる事は避けられない事象だという事は、既に確信している。
だが、青年の表情には悲壮なモノは見当たらない。
今の彼には、与えられた強大な能力をもとに"怨嗟を招く呪詛"で他者を傷つけながらこの国の頂点に昇りつめても得る事が出来なかった確かな充足感だけが存在していた--。
「行くぞ、アカシック・テンプレート!!名乗るべき名もなく、背負うべき宿命を失おうとも!俺はお前という存在を超えてみせる!!」
「……へっ、偉い立場にふんぞり返っていた今までなんかよりも、よっぽどいい顔してんじゃねぇか。……良いぜ、”名もなき挑戦者”。お前の生きた証を見せつけてみろ!!」
アカテンの言葉を受けて、今まで見せた事のなかったような心底愉しそうな笑みを浮かべながら--”名もなき挑戦者”となった青年は、純粋なまでに己の中で内包していた闘気を跳ね上げていく--!!
権威と権能を失い”名もなき挑戦者”と成り果てようとも、これまで”憎悪の極点王”として生きてきた経験が全てなくなるわけではない。
青年はこれまで自身の人生で得た感情や知識・経験を全て駆使し、アカテンに全身全霊命を懸けた一世一代の勝負を仕掛けようとしていた。
アカテンもそれを感じ取っていたから。
そんな”名もなき挑戦者”に手を抜くような真似をすることなく、本気の力でぶつかる道を選ぶ。
「来やがれ、”名もなき挑戦者”!!」
「アカシック……テンプレートォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
互いの闘気が激しくぶつかり合う--!!
”憎悪の極点王”として振るわれた強大な死と破壊の力、ここに来てなお発揮される”世界の根幹に到達する者”の全力の権能。
それだけの強大な力の不可に耐え切れなくなったのか、力場が崩れ世界に亀裂が生じ始める--!!
”世界の根幹に到達する者”と”名もなき挑戦者”。
二人はその亀裂に落下しながらも、互いに最強の一撃を放つ--!!
『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
最早この場で繰り広げられるのは、生を望む者と死を振りまく者の死闘ではない。
敗れようとも立ち上がる者、全てを擲ってでも諦めない者。
どこまでも似たモノ同士でありながら、最後までこのような形でぶつかり合う事しか選べなかった不器用さを嘆くかのように、虚無の宇宙を破壊の咆哮が染め上げていく--。




