”憎悪の極点に座する者(ヘイト・ディザスター)”
~~魔城:ヘイトクライム 王の間~~
雷撃の鞭でアカテンをいたぶっていた”憎悪の極点王”だったが、ふと違和感を覚え、その手の動きを止めた。
「何だ……?この国から、憎悪の炎が消えていく……?」
自身の原動力となっていた大衆の『誰かを憎み、呪い、憎悪する感情』。
それらが急速に収まっていっているのを、王は感じ取っていた。
そんな王に対して、ボロボロにいたぶられたアカテンが、現状に不釣り合いなはずの不敵な笑みを弱々しくも口許に浮かべる。
「へ、へへっ……自分の根城ですら突破されている事に気づかなかった間抜けだもんな、テメェは。……そんな野郎に大衆の心理やら、時勢の流れなんて分かりっこねぇか……!!」
「……なんだと、貴様ァッ!!」
王が掴む雷撃の鞭が、激しくアカテンのもとへ振り下ろされる!!
アカテンはうずくまって頭を抱えながらも、再び王に強い意思を込めて返答していた。
「へっ、図星で何も言い返せないから、そうやって暴力で誤魔化すしか能がないだけだろ?そんなお前でもいい加減分かってるんだろ?……みんな憎悪をばら撒く事しか出来ないワンパターンなお前のやり方に飽き飽きしてんだよ!!」
「くっ、大衆が我に"否"を突きつけているだと……!?あり得ん!!奴等こそが与えられたモノに脊椎反射で飛びつくくらいしか能がない豚の群れではないか!……そんなカス共に己の考えなどありはしないッ!!」
だが、王がそう叫ぼうとも現在進行形でこの国から憎悪の大炎が鎮められ、それとは対極に位置する新しき時代の到来を意味する風が吹き抜けていた。
現に『王の剣』たる堕淫棲隷武の軍勢も、モミ夜や啓泉を始めとする戦闘神や国連軍などによって一掃され始めている。
いや、王もその事を実感しているからこそ、このように焦りの姿を見せているのかもしれなかった。
「それがアンタの限界、って奴だ。"憎悪の極点王"!!……普段は自分を支持する奴等を『気高き同胞』だなんておべんちゃらを言っておきながら、自分の思い通りにいかなければすぐに『くだらん豚』呼ばわり。……アンタ、そのザマで一体何を守れるつもりなんだ!!」
「ッ!!」
アカテンの発言を受けて押し黙る"憎悪の極点王"。
それを好機と見たアカテンは、畳み掛けるように言葉を続ける--!!
「お前の醜悪な憎悪と支配の時代は、俺達”HEAPS”が生み出した流れによって崩された……諦めて降伏しろ、"憎悪の極点王"!テメェじゃ、俺達には勝てねぇんだよ!!」
アカテンの威勢の良い啖呵を聞いて、なおも押し黙る"憎悪の極点王"だったが……それも一瞬の事だった。
「クッ、クッ、クッ……フハハハハッ!!」
王は突如不気味な笑みを口許に浮かべたかと思うと、盛大に高笑いを始めた。
あまりの豹変ぶりを前に、今度はドン引きした表情でアカテンが押し黙る。
そんなアカテンを見据えながら、王が獰猛な笑みとともに嬉しそうに呟く。
「そうか……完全無欠な我が統治を崩すこの流れを生み出したのは貴様ら"HEAPS"とかいう逆賊の群れだったのだな……ならば、"HEAPS"の首領であるアカシック・テンプレートよ。大衆の眼前で貴様を嬲り殺しにして、外にいる者達が持つ紛い物の希望とやらを粉砕してくれるわッ!!」
その発言を受けてアカテンが「マジかよ……」と冷や汗を流しながら、顔面蒼白になる。
アカテンとしては"憎悪の極点王"に現実を突きつけ、王に降伏を促すつもりだった。
事実として、"HEAPS"の仲間達や啓泉の奮闘の結果、大勢は既に決しており、どれほど強大な権能をゆうしていようと王には打つ手がないはずだった。
ゆえにアカテンの降伏勧告は勝算のあるモノだったのだが、唯一にして決定的な誤算は、彼が言った通り"憎悪の極点王"という存在に壊滅的なまでに時勢を読む能力がなかった事である。
それがこの場においては諦めの悪さという形で発揮され、王の中では『この流れを生み出した"HEAPS"の首領であるアカシック・テンプレートの命を奪えば、全てが元通りになる』と短絡的な結論に変換される事となったのである。
「さて、それでは覚悟してもらうぞ?……アカシック・テンプレートォッ!!」
嗜虐的な笑みを浮かべた王とは裏腹に、顔をひきつらせ恐怖にうち震えるアカテン。
今、彼の命は風前の灯に晒されようとしていた……。
「あっ、何だ?あれは……?」
「ホントだー!!何か映ってるしー!」
”HEAPS”を始めとする”憎悪の極点王”勢力への反抗作戦が各地で激化していく中、全国それぞれの場所にいる人々が一斉に空中を見つめていた。
そこには、”憎悪の極点王”による権能によるものなのか、王の足元に転がされながら無様にはいつくばるアカテンの姿が巨大なスクリーン映像として浮かび上がっていた。
何が始まるのか……?と固唾をのんで見守る群衆を前に、王が高らかに宣言する。
「麗しき臣民諸君!これより我は、この国に住まう者達の平穏を脅かし、国内で破壊的活動を煽動した大罪人として、”HEAPS”の首領:アカシック・テンプレートの処刑を開始する事とする……!!」
衝撃ともいえる王の発言だったが……群衆の反応は絶望……などではなく、ただただ純粋なまでの困惑であった。
「えっ……アカシック・テンプレートって誰だ?王の下で転がされてるあのイキりオタク丸出しなアイツが何か関係があるのか?」
「てゆうか、”HEAPS”ってユウヤの事でしょ?……誰かは知らないけど、これまで音楽活動で頑張ってきたユウヤの人気にあやかるために、”HEAPS”の名前を騙るってサイテーね!さっさと王に処刑されたら良いのに……!!」
一般大衆にとって”HEAPS”は、田中 裕也を中心とした音楽グループ”HEAPS(ぼた山達)として認識されているため、裕也の音楽活動に関わらずに当初からのレジスタンス的山賊活動をしていたアカテンやモミ夜といった他のメンバーの事は全く周知されていなかったのだ。(というか、本来の”HEAPS”がそういう集団である事もロクに知られていない)
なので、王は『自分の統治体制に不満を持つ者達の旗印を処刑することによって、反攻勢力の機運をくじく事が出来るうえに、自分に逆らう者の末路がどうなるのかを民衆に見せつけられる』と考えていたが、大半の人々からすると『裕也の”HEAPS”を騙ったどこぞの偽物が、”憎悪の極点王”に対して何か不敬な事をやらかしたんだな』程度の認識でしかなかったのである。
この辺りにも、”憎悪の極点王”の時流を読めない性分が露呈することとなったのだが、王はそんな大衆の白けた反応に気づくことなくアカテンを雷の鞭で嬲り始める。
「そらそら!!足掻いてみせろ、この糞豚がぁっ!!」
「ブ、ブヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!?気持ちよすぎるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
精神に破綻をきたし始め、盛大に醜態を晒すアカテンを目の当たりにしたことにより、大衆の反応は困惑から嘲笑するモノへと変わり始めていた。
「何アイツ……あんなので喜ぶとか、キモすぎウケる~!!」
「ふん、紛い物に相応しい無様な最期ね……!!」
大衆の王の統治体制に対する認識には特に影響は出ないかもしれないが、このまま王の攻撃を一方的に受け続けていれば、アカテンの命が尽きることとなる。
このまま”憎悪の極点王”に一矢も報いることなく、無意味にアカテンがその生を終えようとしていた……そのときである!!
「何やってんだよ、アカテン君!!」
嘲笑の渦の中から聞こえた、一人の青年の必死な叫び。
それを聞いた人々は一瞬静まり返ったが、『せっかくの余興に水を差すなよ』といった意思を込めた表情で声のした方へ振り向くが、すぐに驚愕のあまり腰を抜かすこととなる。
なんと、そこにいたのは彼らにとって本物の”HEAPS(ぼた山達)”を代表する存在であるトップアーティスト:田中 裕也が真剣な気迫と共に、空中の映像に向かって叫んでいたからである--。
何が起こっているのか分からずに、戸惑う群衆から先程とは違う性質の困惑の声が聞こえ始める。
「どういう事なんだ……?あの偽物に対して怒っている、ってわけじゃなさそうだよな……?」
「あんなモッサイのと裕也に何か関係があるっていうの?そんなはずないじゃない……」
そんな言葉が聞こえたのか、発言者に対して裕也がキッと睨むように視線を投げかける。
「アカテン君の事を悪く言うんじゃねぇ!!……あの人は、紛れもない俺達”HEAPS”の仲間だ!!」
裕也の発言を受けて、衝撃を受ける人々。
気圧されながらも、ざわつきを見せる彼らに対して裕也が話し続ける。
「俺はそれまでずっと、こんな世界が嫌いで仕方なかった。……”憎悪の極点王”が目立つようになり始めてから、周りの奴等は右を見ても左を見ても他人の悪口ばかり。立派なはずの大人達ですらそんな状況にだんまり決め込むどころか、開き直ってガキみたいに誰かのせいにしてくだらない便乗までし始める始末……心底思ってたよ。世の中本当にくだらないヤツばっかりだってな!」
だけどな、と裕也は続ける。
「本当にくだらないのは、そんな現状が間違っているって分かっているのに、燻るばかりで何も出来ない無力な俺自身だってことは薄々気づいていたんだ。だけど、それが分かっていても俺には何をどうしたら良いのか分からなくて、鬱屈とした日々を過ごすしかなかった。……そんなときだった。ネットでアカテン君が執筆している小説に出会ったのは」
真剣な裕也の表情を前に、それまでのざわつきは鳴りを潜め、じっと話に聞き入る聴衆。
裕也は普段の彼からは考えられないような澄んだ瞳で、胸の内を明かす。
「アカテン君が執筆している山賊小説を読んだ俺は、『人間ってここまで自分に正直に生きていいんだ!!』っていうのを知る事が出来たんだ。……それ以来、アカテン君の小説に出てくるような本物の山賊になる事を夢見た俺は、アカテン君の呼びかけに応じてこの時代をぶっ壊すために、レジスタンス的山賊集団:”HEAPS”に加わることにしたんだ……!!」
それを聞いた人々は酷く衝撃を受けることとなる。
「嘘……?あのユウヤがそんな反社会的勢力である山賊に与していたなんて!!」
「世界をぶっ壊す、だなんて……それじゃあ、まるで……」
驚きの表情を隠せないでいる群衆に向けて、裕也が勢いよく頭を下げる。
「頼む、みんな!!俺がどうしようもないヤツだって事は分かってるし、みんなにとったらアカテン君は単なる見ず知らずの他人だってことは分かってる!……だけど、世の中に絶望しきっていた頃の俺を助けてくれた仲間が今凄く苦しんでいるんだ!!……頼む、アカテン君を助けるためにみんなの力を貸してくれ!!」
内から絞り出した裕也の必死の懇願。
それに対して、聴衆はまばらな反応を見せるだけであった。
……どれだけ世の中を変えるような歌で人気を得ても、実際の支配者である”憎悪の極点王”に反抗するような自分達に味方するヤツは流石にいないのか、と裕也が諦めかけた--そのときである!!
「や、やっちまえ、"HEAPS"!この時代を……駆け抜けろ!!」
そう裕也に声をかけたのは、二十代半ばの冴えない青年だった。
呆気に取られている周りに構うことなく、彼は言葉を続ける。
「僕はこれまで自分の上手くいかない現実に心が挫けかけていた……だけど、僕よりも遥かに年下のはずのユウヤが"HEAPS(ぼた山達)"として頑張っている姿を見て、勇気をもらえたんだ……!!」
だから、と青年は裕也を見据える。
「山賊を目指していたり、レジスタンスに所属していた事を知っても、そういう君を応援する気持ちは微塵も変わっていない!……だから、君は、いや、君達は!自分の信じた道を最後まで突き進んでくれ、"HEAPS"……!!」
自身の希望を託した一人の青年の心からの叫び。
それに呼応する声援が、遠巻きになっていた周りの人々からも上がり始める--!!
「何で謝ってんだよ、ユウヤ!お前達は本当にここまで自分達の力で世の中を変えてきたじゃねぇか!……なら、いっちょド派手に王の支配とやらにも引導を渡してやろうぜ!」
「そうよ!!時代は既に"BE-POP"へと変わり始めているのよ!怨嗟を招く呪詛なんてお呼びじゃないんだから!!」
「いっけー、”HEAPS”!!この時代に君達の生きた証を刻みつけてやれ!!」
人々の中からかつてないほどの高まりをもって、”HEAPS”を称える声が上がり始める。
そんな中で待ったをかけたのは、一人の女性だった。
「待って!”HEAPS”を応援するのはいいけど、私達じゃ”憎悪の極点王”や彼を守護する堕淫棲隷武達には到底かなわないわよ?対策もなしに立ち向かうのは無謀じゃないかしら?」
現実を突きつけられた瞬間、王の絶大な力を思い出した民衆はすぐに静まり返る。
だが対する裕也は、それも織り込み済みとでも言わんばかりに余裕の表情を浮かべている。
「大丈夫だ!ネットに上げられているアカテン君の小説を通じて俺達が応援すれば、今も王に立ち向かい続けているアカテン君に力を分け与える事が出来るはずだ!!……頼む、みんなも俺が感動した『アカシック・テンプレート』の小説を読んでくれ!!」
裕也の発言を受けて、半信半疑ながらも聴衆が自身の携帯を操作し始める。
「立ち向かってる、って言われたところでどう見ても鞭で叩かれて喜んでるだけにしか見えないけど……”HEAPS(ぼた山達)”のユウヤがそこまで言うんなら、アカテンとやらの小説を読んでみるか!」
「私もネットでこの事を拡散するから安心してね、ユウヤ♡……それにしても、この人の作品あらすじの時点でつまらなさそうだけど……でも、ユウヤが感動した!って言ってるんだから、そんなわけないよね♡」
この場に集まった彼ら彼女らの協力のもと、急速的にアカテンの小説の閲覧数が跳ね上がっていく--!!
アカテンの危機に立ちあがったのは、裕也だけではなかった。
ここでも、現在”HEAPS”の一員が奮闘していた。
「あ~、あれが今話題の幻想的な謎の灯ってヤツかな~?……でも、話に聞いていたよりも、今日はなんだか激しく動き回っているような……?」
「見ろよ!何か文字じゃね、アレ!?」
カップルの視線の先には、”HEAPS”のメンバーである赤蜂が放つ幻想的な光があった。
だが、赤蜂はいつもと違いゆらゆら揺れるのではなく、忙しなく動き回っていた。
集まった人々が何が起こっているのか、と訝しむ中、赤蜂の描く軌道は一つの意味を持つ名前へと変じていた--。
「アカシック……テンプレート?」
「何だろうね、それ?ネットで検索してみよ♪」
裕也の”HEAPS(ぼた山達)のような騒々しい雰囲気が苦手な人の間にも、赤蜂の奮闘によって急速にアカテンの名前が広がっていく--!!
(待ってて、アカテンさん!……ボクも”HEAPS”の仲間として、絶対にアカテンさんを助けてみせる!)
そんな決意を胸に、赤蜂は人知れず仲間のために飛翔する--!!
全世界規模で軍事行為を展開していた『王の剣』たる存在”堕淫棲隷武”。
”憎悪の極点王”の支配が揺らぎ始めた日本国内の騒動を鎮圧するために、その軍勢の全てが日本国内へ集結しようとしていた。
もたらすべきは、武力による圧倒的な暴虐。
『王の剣』たる彼らに求められるのは、複雑な交渉を取りまとめることでもなければ、利益を推し量ることでもない。
ただ、その圧倒的な武力によって王の敵を討ち果たすことのみである。
ゆえに堕淫棲隷武達は、王に叛乱を企てた逆賊はもちろん、中立気取りであれ王の熱烈な支持者であろうと、老若男女問わず国民の九割を虐殺するつもりだった。
--絶対なる王の統治を悪戯に破壊せしめんとする逆賊共、生かす価値など微塵もありはしない。
--己の意思を持たずにただ流される者達は、これまで通り黙ったまま我等が振るう刃の決定に従うべし。
--王の忠実なる臣下を騙る無能共は論外である。真に王の事を想うのならば、何故、このような事態になる事をむざむざ許したのか?王の権威を汚す不始末は己の命で贖うより他になし。
--それだけ減らせば、生き残った者達がどのような主張だろうと関係ない。王の支配に抗う事の愚かさをその身に叩きつけてくれる!!
彼らの思考を言語化すればこのようなモノだろうか。
『王の剣』たる自分達にとって大事なのは”憎悪の極点王”の権威による絶対的な支配のみであり、その支配下にいる人間達などいくらでも代わりの利く代用品でしかない。
数が増えすぎて統治が難しくなってきたら、また減らしてしまえば良い。
王の支配領域に異を唱える外部の者がいるなら、圧倒的な武力でこちらから侵略してしまえば良い。
そんな単純明快ともいえる思考回路のもと、堕淫棲隷武達は国内で虐殺を実行しようとしていたのだが……。
「コココッ……。麿の庭でいつまでそのような無粋な振る舞いが許されると思っておるのかの!?」
最強の暴力装置である堕淫棲隷武の軍勢は、天上貴族にして益荒男、生粋の”さぶらいばー”でもある藤原 啓泉と精鋭の検非違使部隊によって、その数を確実に減らしていた。
これまで通り、堕淫棲隷武の相手が藤原達だけならば、戦況がここまで劇的に変わる事はなかった。
だが、啓泉や国連軍の及ばないところでも王の支配に対する反抗の狼煙が上がり始めていた--。
「中東の二人組みたいな戦える奴等にだけ任せてられるか!!自分の居場所は俺達自身の手で守るんだ!」
『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
「わ、我々『ブラックロッジ』も皆さんに魔導具を提供させて頂きます!!」
国内各地で有志連合のような市民の集まりが、”憎悪の極点王”と決別した魔導具工房『ブラックロッジ』から提供された武器を手に、”堕淫棲隷武”を返り討ちにしていた。
ブラックロッジはこれまで魔導具に"怨嗟を招く呪詛"による術式を組み込んでいたのだが、それを廃止し急増ではあるが裕也のような"BE-POP”の旋律を組み込んだ魔道具を作り出すことに成功していた。
単純な威力、という面では"怨嗟を招く呪詛"型に劣るのだが、"BE-POP”型は汎用性、適応性などに優れており、臨機応変な戦い方で『絶対的な王の支配のもとに、世界を一つに集約すべし』という理念に縛られた”堕淫棲隷武”達を翻弄していた。
動きがあったのは国内だけではない。
日本に帰還しようとしていた”堕淫棲隷武”も次々と撃破されていた。
「諸君!招待状もなしで私達の大切な家族や友人達が暮らす世界に踏み入ろうとしていた強盗まがいの『王の剣』御一行のお帰りのようだ!!……彼らには我々からそれ相応の流儀で、盛大に見送ってやろうではないか!」
『Yes,Sir!』
逃走を図る”堕淫棲隷武”をむざむざ見逃すほど国連軍も無能ではなく、”堕淫棲隷武”達は国連軍の猛攻を受けて一掃されていく。
また、各国国内でも現在日本で起きているのと同じように、軍とは無関係に”憎悪の極点王”勢力に本格的な反抗作戦を仕掛ける動きが生じ始めていた。
「へっ……上海の兄貴を倒した藤原とかいう小日本野郎が、まさかあの化物共を駆逐しまくってやがるとはな……!!おい、お前ら!!俺達もアイツに負けてらんねぇぞ!!」
『了解です、兄貴!!』
「”憎悪の極点王”を始めとする”堕淫棲隷武”という存在は、在るべき秩序に満たされるはずのこの世界にとって不純物以外の何物でもない……”あの方”の目指した”統制管理”という在り方の正しさを示すためにも、奴らはこの世界から我々の強き結束と正しき秩序のもとで!粛清してくれるッ!!」
「ピンチのときこそ、最大の稼ぎ時ってね……ならば、我が社がやる事もただ一つ。この世界の危機に行動あるのみ!!」
各国国内では、自分達の目指してきた英傑達を死闘の果てに超えてきた益荒男:藤原 啓泉に負けてはいられない、と言わんばかりに数多の戦士達が”堕淫棲隷武”の軍勢に立ち向かっていた。
超巨大ベンチャー企業、中国マフィア、ソビエトの残党、帽子屋、漁業組合、魔術連盟、観光協会、傭兵部隊、終末教団……。
国や立場の違いを超えて、彼ら戦士達は国連軍とは異なる側面から”堕淫棲隷武”達を追いつめていく--!!
戦闘が出来ない者達も、ただ安全なところで怯えていたわけではない。
彼らは彼らなりに、この世界の危機に向き合おうとしていた。
「オイ、このジャパンのユウヤっていうアーティスト、滅茶苦茶COOLじゃないか?」
「”ユウヤ”を単なるアーティスト扱いするんじゃない!!彼は、山賊を超えた山賊:”HEAPS”なんだ!……でも、その気持ち凄く分かる」
彼らが動画で視聴していたのは、ファンの手でネットに上げられていたこれまでの裕也の演奏&大衆への説得をまとめた場面だった。
それらの動画を見て感銘を受けた彼らは「アカシック・テンプレートって誰だ?」「分かんないけど、とりあえず読んでみようぜ!」といった感じで拡散されたことにより、アカテンの作品は日本の枠組みを飛び越えて全世界で読まれることとなる--。
ヘイトクライム城周辺では、これまで以上に”堕淫棲隷武”の攻勢が熾烈となっていた。
だが、それでもモミ夜は数多の軍勢を屠り去っていく。
「今もアカテン君が”憎悪の極点王”と戦っているんだ……誰にも邪魔はさせない!!」
必ず、アカテンは勝利する--そう根拠のない確信を胸にしながら、モミ夜は終わりの見えない死闘へと身を投じていく。
そうした人々の想いが形となったのか、いたぶられるだけだったアカテンのもとに光が集い始めたかと思うと、瞬く間に全身から眩い光を放ち始める--!!
その光景を前にしながら、王は雷撃の鞭を振るうのもやめて呆然とした様子でアカテンを見下ろしていた。
「き、貴様……一体、何をしたというのだ!?」
そんな王の言葉に動じる様子もなく、アカテンがゆっくりと--確かな意思を持って立ち上がる。
「へっ、感じるぜ……世界中のみんなの力が俺のもとに集まっているのをなぁッ!!」
「ッ!?な、何だと!!」
”憎悪の極点王”が"怨嗟を招く呪詛"によって人々から憎悪や殺意、憤怒といった負の感情を集めて己の力の糧としたように、アカテンも裕也や赤蜂が拡散してくれた自作のネット小説を通じて、読者の人々がつけてくれた評価ポイントやブックマークを自分の力へと転換することに成功していたのだ。
アカテンは自身の身体に”神力”とでも言うべきモノが満ちているのを感じ取っていた--。
「瞳を閉じていても分かる……これこそが、俺の作品に文章評価:5、ストーリー評価5をつけた全世界の人々の”希望”の意思なんだって事がな……!!」
実際には、アカテンの山賊小説などの作品を読んで感銘を受けるのは裕也くらいだったので、大半の読者は「何これ……ユウヤが勧めてくれたけど、おもんな……」とか、「自分を美化しまくってるけど、現実でどんだけ承認欲求に飢えてんの?」などといった意見が大半であり、大抵文章評価:1、ストーリー評価1やブクマのみであった。
だが、塵も積もれば山となるという言葉の通り、例えオール1であろうとも全世界の人々から集まればそれは膨大な桁のポイントとなり、幸いにもアカテン自身が評価の平均をたまたま(もしくは意図的に)認識していなかったため、万全の戦闘態勢のもと王と対峙する事が出来ていた。
「覚悟しろ、”憎悪の極点王”!……お前の創り出した暗黒時代は、現在進行形で脚光浴びまくりなこの俺が!終わらせてみせるぜ!!」
日本のみならず、世界の命運を賭けた一戦の火蓋が、ここに切って落とされようとしていた--。




