神世界組曲
”世界の根幹に到達する者”と”名もなき挑戦者”。
激しい激突の末に勝利を掴んだのは--。
「……分かってはいた事だが、まさかこれほどのモノとはな……認めよう、貴様の勝ちだ。アカシック・テンプレート……!!」
その言葉通り、身体を横たえた状態の”名もなき挑戦者”に対して、なおも戦場に佇んでいたのは”世界の根幹に到達する者”だった。
だが、あれほど望んでいた勝利を掴んだにも関わらず、アカテンは浮かない表情を浮かべていた。
「……お前は、本当にそれで良いのか?」
何もかも擲ちながら、それでも勝利を得ることなく敗北を認める。
本当にそれで良いのか、という意味を含んだアカテンの発言だったが、”名もなき挑戦者”は諦めや憎悪とは程遠い晴れやかな表情をしながら、上を見上げたままの状態で答える。
「……これが俺にとっての正解だったのだろう、世界の根幹に到達する者よ。……もう、”あの方”に差し出した真名も思い出せないが、『この国を護りたい』と考えていたかつての気持ちが、漠然であれ歪であろうとも自身の中で本物の願いだった事を思い出す事が出来た……」
そう口にすると、静かに瞳を閉じる名もなき挑戦者。
「……お前との戦いは、自分を必要以上に大きく見せるための”権威”や異なる者を排除するための"怨嗟を招く呪詛"といった”虚飾”を俺から山賊のように剥ぎ取り、俺に本来の感情を思い起こさせてくれた……」
青年の身体が、音を立てて崩れていく。
ついに、その肉体に避けようのない限界が訪れようとしていた。
「愛すべき母国を己自身の手で壊さずに済んだこと、素直に礼を言おう。アカシック・テンプレート。……ゆえに、俺から”王”の座を奪い取った貴様は次の時代へと進んでいけ……!!」
”憎悪の極点王”として生き、"怨嗟を招く呪詛"を撒き散らしてきた者とは思えない礼を述べながら、戦場に吹いた一陣の風と共に青年の身体は灰となって消えていく--。
「へっ、満足そうな顔で逝きやがって……!」と呟きながら、人生の最期に己という存在を取り戻せた青年を見送るアカテン。
後は文字通り虚無となった空間。
そんな中で、アカテンに声をかける者達がいた。
「これで終わり、とは思ってないんでしょ?アカテン兄さん!」
「全くよな。そこな獣の耳を生やした少年はともかく、この天上貴族の末裔たる麿を呼び出した以上、つまらぬ用事ならば許さぬぞ。……アカシック・テンプレートよ……!!」
アカテンの背後に佇んでいたのは、”HEAPS”のメンバーであるネコ耳少年の立花 モミ夜と、天上貴族である藤原 啓泉だった。
世界に入った亀裂を通じて虚無の空間に堕ちたアカテンは、超越者となった強大な気を通じて同じ超越者であるモミ夜と啓泉の二人をこの空間に引き寄せていたのだ。
その理由は、二人の力でこの空間から助けてもらうため--ではない。
その証拠に、アカテンの顔には未だ戦いは終わっていない、と言わんばかりに闘志に満ちた表情をしていた。
「つまらない用事?そんなわけないだろ、啓泉。……なんせ、俺がお前らを呼び出したのは、世界の命運を握るのは結局誰なのか?って議題についてなんだからな!」
世界の命運、というとてつもないスケールの話を突如始めるアカシック・テンプレート。
だが、対するモミ夜や啓泉はそれを分かっていたかのように、動じた様子を見せてはいない。
そんな彼らの態度を肯定、と受け取ったのか、アカテンが話を続ける。
「世界を破滅に導こうとしていた”憎悪の極点王”は俺が倒した。……このままいけば、なし崩しで俺が世界を統べる救世神とやらになるわけなんだが……お前ら、本当にそれで良いのか?」
アカテンは世界中の人々から力を与えられた事によって超越者となり、”創造神”として世界にとっての災厄ともいえる”憎悪の極点王”を打ち破ったが……それは決して、モミ夜や啓泉がアカテンや”憎悪の極点王”より弱い、という事ではない。
モミ夜が”破壊神”として”憎悪の極点王”を倒していれば、世界はモミ夜が君臨する事によって、否応なくその”破壊”と”暴食”の特性の影響下に置かれ、退廃を辿る事となっていただろう。
啓泉が”平定神”として”憎悪の極点王”を倒した場合はどうか?
その身に宿る強大な力で、モミ夜と同じく”憎悪の極点王”を倒す事自体は出来るに違いない。
だが、”十人十色”とばかりに多種多様な在り方を認める平定神の特性では、”憎悪の極点王”を倒す事は出来ても、彼が半生をかけて行ってきた"怨嗟を招く呪詛"という在り方を、世界全体に破滅をもたらす事が分かっていながら容認してしまうかもしれない危険性があった。
ゆえに、死の呪いを撒き散らす”憎悪の極点王”は、憎悪と破滅への決別を告げる誕生と再生を司る”創造神”であるアカシック・テンプレートが倒すしかなかった。
しかし、今は違う。
”憎悪の極点王”は、"怨嗟を招く呪詛"と決別を告げる自分が倒したため、これからの時代に受け継がれる要素は皆無。
ゆえに、これからの時代を統べる”超越神”としての在り方は自分がなし崩し的になるのではなく、最強の超越者達を相手に最高の形で決めたい、とアカテンは考えていた。
「お前らが”憎悪の極点王”を倒せなかったのは、自分が”憎悪の極点王”を取り込んで神にでもなったら、世界がそれ以上にマズくなったり、変わらないモノになるっていう”相性の悪さ”が原因だったわけだ。……だが、俺が勝利したここから先は違う!!……ここから先は同じ超越者同士の真っ向勝負。”相性”がどうだのこうだの、つまんねぇ言い訳は通じねぇぞ?」
その発言を受けた二人の反応は……。
「……う~ん。でもさ、アカテン兄さん。僕はもともと気楽な中卒無職のネコ耳フクイ県民だから、世界を統べる神様決定戦!みたいな事言われても、そんな地位とかそんなに興味ないんだけど?」
今となっては嘘か本当か分からないが、毎日が日曜日で暇だったから”HEAPS”に入った、と口にしていたモミ夜らしい答え。
だが、アカテンはそれを軽く一蹴する。
「そうやって卑下したところで無駄だぞ、モミ夜。……本当にそんないい加減なヤツだったら、”憎悪の極点王”のもとまで行かせるために、”破壊神”としての力を開放してまで俺を助けるために一人で戦ったりなんかしねぇよ……!!」
「ッ!!……たははっ。柄にもなく熱くなっちゃって、ちょっと選択ミスっちゃったかな?」
照れ隠しの苦笑を浮かべるモミ夜に対して、アカテンがフン!と鼻を鳴らしながら、二カッ、と笑みを浮かべる。
「当たり前だろ。俺を誰だと思っている?……お前らを束ねる”HEAPS”の首領:アカシック・テンプレート様だぜ!!だから、手下であるお前が首領である俺に対してらしくもない遠慮なんかしてんじゃねぇよ!」
その言葉を聞いて、モミ夜が一瞬ハッとした表情になる。
モミ夜はこれまで、自身の中に流れる”暴食の魔王”としての力を恐れ、本気を出す事を躊躇っていた。
それは数多の堕淫棲隷武を倒した今でも変わらない。
あのとき”破壊神”としての力を開放したのは、全力を出さなければならない状況だと判断したからだった。
だが、今の状況は違う。
眼前には自分と同じかそれ以上に強い事は確実な存在である超越者の藤原 啓泉と、新たな強さに目覚めた未知なる超越者であるアカシック・テンプレートがいる。
(……彼らと、本気でぶつかってみたい!!)
これまでのような義務感でもなく。
自分の心からの欲求のまま、モミ夜は内心でそう決意を固める。
「良いよ、アカテン兄さん。……でも、上司より優秀な部下なんて世の中いくらでもいるんじゃないの?」
「それをニートが言っても説得力ないだろ」
「そりゃ、そうだよね~!!」
そう言いながら、声を出して笑い合う二人。
ひとしきり笑ってから、次いでアカテンは啓泉に向き合う。
「さて、と。そんじゃあ、お前はどうする?啓泉。……このまま、お前が風見鶏を決め込んで何もしないなら、天上貴族の承認を得た!って事で俺が世界を丸ごと頂いちゃうぜ?」
そんなアカテンの下手な煽りを、啓泉は優雅さを残しながらも一笑に付す。
「笑止よな、アカシック・テンプレート。……世界を統べる天上貴族たる麿が、”山賊”などという不届きな者達を広めんとする貴様の跳梁を許すようでは、まさに名折れというモノよ!」
強い言葉で否定しながら、啓泉は旧知の知己であるアカテンを推し量る。
確かに現在のアカテンは支配者としての地位に興味はなく、”憎悪の極点王””の支配に怒りを覚え、義憤に駆られて”HEAPS”を結成した事からも、比較的善良な人間である事は違いないだろう。
だが一方で、その”憎悪の極点王”打倒の計画はどこまでも杜撰なモノである事からも分かる通り、無計画で感情任せに突っ走る傾向があり、それは到底褒める事が出来ない無責任なモノ、と言わざるをないモノだった。
また、それらを実行出来たのは優秀な仲間達や多くの人達の手助けがあったからにも関わらず、それを自分一人の手柄にしかねないような調子に乗りやすい部分がある。
それは過ぎれば傲慢となり、時が過ぎれば暴君的な性質を持った独裁者になる可能性が高い、と啓泉が判断するのも無理はない話だった。
……もっとも、現在ここにいるのは、
命や想いを結び繋げる--”創造神”。
異なる在り方を内包する--”平定神”。
暴食のままに喰らい尽くす--”破壊神”。
指向性は違えども、これらは全て相手の特性などを自身の内部に受け入れる性質を持つ者達であり、--例え誰が勝ち残ろうとも、他の者達の特性を引き継ぐのなら、そんな独りよがりかつマズイことにはならないだろう、という可能性も全くないではないが。
だが、天下を統べる天上貴族として、アカシック・テンプレートの君臨を許すわけにはいかない。
そのため、是が非でもアカテンを倒すためにはモミ夜と組んででも2対1の形式で挑んだ方が、格段に勝率は上がるのだが……。
(アカシック・テンプレートを倒したところで、”平定神”である麿と”破壊神”であるこのモミ夜という少年の在り方は全く異質。……例え、麿がこの少年の在り方を容認出来ても、その影響下に置かれる臣民にとっては悪戯な混乱を招くのみ。……天下を平定するためには、やはりただ一人の勝者を明確に決める必要があるの……!!)
そのため、2対1でアカテンに挑む事になれば、必然としてその後にモミ夜を裏切り彼に刃を向ける事になる。
だが、そのような振る舞いは天上貴族としても益荒男としても、この場に置いて相応しくないと啓泉は判断していた。
(例え余人の目がなかろうとも、世界の命運を決める重要な場面において誇れぬ勝利に走るわけにはいかぬ!!……”公武合体”を成し遂げた者として、麿は堂々と天下に己の覇武を示してくれようぞ!!)
それに、と啓泉はモミ夜に視線を移す。
(このモミ夜という少年、異界の神々の血を引いているようでおじゃるが、些かそれに引きずられている節が見受けられる。……麿やアカシック・テンプレートのように、血筋としての”破壊神”としてではなく『自身としての願望から生じた特性』に覚醒させるためにも、ここは彼に楽を覚えさせる場面ではないの……!!)
ゆえに、啓泉の方向性は定まった。
啓泉は天上貴族に相応しく、堂々と宣言する。
「不遜なる”山賊”なる者を推奨するアカシック・テンプレートの君臨など論外。さりとて、まだ社会に出てもいない未成年の立花 モミ夜という少年に、力があるからと救世神としての重責を負わせるのは酷と言うモノ。……ならば、必然として天下を統べる正当なる者として、天上貴族の末裔たる麿がこの場を治めるより他になし!!」
(それにこれほどまでの強者達との饗宴、逃す方が無粋というものよ……!!)
そんな本音を隠しきれていない喜色を浮かべながら、啓泉が戦場へと名乗り出る。
「さぁ、存分に挑んでくるが良い、無作法者達(HEAPS)よ。……正道たる輝きと共に世界を照らすのは、この藤原 啓泉ただ一人と心得よ!!」
それを啓泉なりの了承、と見做したアカテンが、開戦の号砲を告げる--!!
「へっ!そうでなくちゃ面白くないよな!!……そんじゃお前ら、全力でかかってきやがれ!あんまり退屈させると、俺が世界を根こそぎ奪い取っちまうぞ!!」
アカテンの周りを、降誕の焔が燃え盛る--!!
「コココッ、能力に目覚めたばかりでよくもまぁ、そこまで大言を吐けるモノよな!……だが、どれだけ言葉を重ねたところで、天下万民を照らす麿の威光に届く事はないと知れィッ!!」
啓泉の背後に、数多の存在を許容する極大の聖光と全ての力を吸い上げる巨大な神樹の蔦が顕現する--!!
「ハハッ!二人とも本当に凄いなー!……そうだよね、僕も負けてなんかいられないや。……ここまで来たら一切の手加減抜きで!今まで僕が溜め込んできた限界以上の力を解放してみせる!」
モミ夜の気楽そうな発言とは裏腹に、凄まじい雷撃を纏った嵐が吹き荒れる--!!
これより、数多の者達の命運を巻き込んだ壮大な組曲は終盤へと差し掛かる。
桁外れの権能がぶつかり合い、極大の力の奔流を幾度も生み出しながら、それでも”無名の挑戦者”のときのような破滅とは違う未来を告げる輝きが虚無の宇宙を満たしていく--。




