試される仲間達との絆!
意外と何とかなった。
現在アカテンは、この世界を地獄に塗り替えようとする元凶:”憎悪の極点王”と対峙していた。
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!ついに追いつめたぞ、”憎悪の極点王”!!」
「何だ、貴様は!?クッ……このような賊の侵入をむざむざ許すとは、堕淫棲隷武共は一体何をしているのだッ!!」
魔城:ヘイトクライムの玉座にて、突如アカテンと遭遇することになった王は配下の者達の不備に対して激昂する。
対するアカテンは、王とは対照的な自信に満ちた笑みを口元に浮かべていた。
「へっ、助けを呼んでも無駄だぜ!!……何せ、お前の部下や支持者達は、俺の仲間達によって一網打尽殲滅陣だからよ!!」
「何、一網打尽殲滅陣だと!?」
”憎悪の極点王”の顔に、驚愕の表情が色濃く浮かび上がる--!!
~~ギルティ公園~~
これまでこの公園は、この時代を象徴するかのように諦念と絶望を抱えながらも、現状から新しい一歩を踏み出せない人々が集う”吹き溜まり”として有名な場所だった。
だが、現在この場所はそのような印象とは程遠い活気に満ちていた。
そのわけとは一体……?
そんな疑問に答えるかのように、この場所にやってきた一人の少女が険しさを意識した顔つきを作ろうとしながらも、心なしか弾んだ声音で隣の青年に話しかける。
「……また、急に呼び出してどんな卑劣な凌辱行為をしてくるかと思えば………アンタにしては粋な計らいね。一体、どういう風の吹き回し?」
「クククッ……お前こそ急だとか言っておきながら、俺の言いつけ通り浴衣をバッチリ着てきているじゃねぇか。……その、何だ。……良く、似合ってるぜ?」
「ッ!?……フ、フン!アンタみたいな奴に褒められたところで嬉しくも何ともないわ!」
そう言いながらも、クールな印象にスラリとメリハリのある身体つきをした水泳部のエースを務める少女は、横にいる凌辱者らしき大柄の青年と二人横に並びながら、少し離れた場所で揺らめく幻想的な灯を眺める。
この仄かな灯を放つ者の正体は……“HEAPS”のメンバーの一員である妖怪:赤蜂であった。
まず“HEAPS”が注目したのは、“憎悪の極点王”を支持しているわけではないが、積極的に今の事態を変えるつもりもなく、ただ流されるままに現状を過ごしている人々の集まりだった。
無気力ながらも絶望的な現状を変えられないことに苛立ちを募らせる彼らに対して、少し離れた場所に身体を淡く光らせる妖怪:赤蜂の幻想的な灯を見せることによって、彼らの間に他者を憎むような"怨嗟を招く呪詛"の瘴気が蔓延するのを防ぐのと同時に、そのような暗黒瘴気とは程遠い全てを包み込むような温かい”黄昏気分”とでも言うべきモノを与える事に成功していた。
水泳部の2人組の周りには、彼らと同じような無理矢理な関係から始まったカップルだけでなく、家族連れや熟年の老夫婦、「あっちの公園でたくさん人が集まっているから、俺達も行ってみようぜ!」と腕白ゆえに周りから男だと誤解されている親友の少女を連れてやってきたサッカー少年など、様々な年齢の人達がこの公園に集まりながら皆ノスタルジーな感傷に浸っていた。
自分の事を遠巻きに見つめる彼らの視線を感じながら、赤蜂が静かに感慨にふける。
(今までボクはマイナー妖怪という立場から抜け出すためだけに、有名になる事だけを願ってきた……でも、例え有名になれなくても、ボクはこうやって色んな人に笑顔を与える事が出来るんだ!!)
彼らの幻想を壊すわけにはいかないため、正体を明かす事は出来ない。
だが、それでも後悔はない。
今の赤蜂は自分が有名になる事以上に、大切な事に気づけたのだから。
(ボクも”HEAPS”のメンバーとして……ボクなりのやり方でこの世界を変えてみせるよ、裕也君、モミ夜君、そして……アカテンさん!!)
例え距離が離れ方法が違ったとしても、仲間達とは繋がり合っている。
そう確信しながら、赤蜂は全国の人々に笑顔を届けるため、これからも希望の光をともし続ける--!!
~~フォビドゥン街~~
魔城:ヘイトクライムの足元にあるこの城下町は、これまで”憎悪の極点王”の”怨嗟を招く呪詛”に感銘を受けた熱烈な支持者達がひしめく重要な拠点であった。
だが、ここでは現在そんな怨嗟を招く呪詛とは程遠い陽気かつ弾けるリズムが街全体を覆い尽くすような熱気と共に鳴り響いていた。
「♪ヘイトスピーチ吹き飛ばす突風、世界を席巻するトップ!
俺達HEAPS、ぼた山達!全てを一閃、斬る一太刀!
コイツぁヤバいぜ、バイツァダスト!!」
『バイツァダスト!』
歌い手に合わせて、コールを入れる聴衆達。
沸き立つ会場において、意気揚々と歌い上げるこの人物は言わずもがな。
“HEAPS”のメンバーである少年:田中 裕也である--!!
もともと、アカテンの小説に感銘を受けて山賊を目指していた彼だったが、アカテン達とともに生死を賭けた苦難を乗り越えていく内に、山賊を超えた山賊としての”HEAPS(ぼた山達)”としての在り方に目覚めた結果、音楽的な分野において爆発的な才能を発揮するまでに至ったのである--!!
”HEAPS(ぼた山達)”として、音楽業界において異彩を誇りながらもトップをひた走る裕也は、ダサ格好良いという独特のデザインのCDジャケットと、『何言ってんのか分かんねぇよ、ソルトが足んねぇよ!』と思わず言いたくなるような本人以外歌えなさそうな早口で紡がれるリリック、そして、自分を前面に押し出していくMVの映像によって多くのファンの心を鷲掴みにし、社会現象を巻き起こすほどになっていた。
「ふんふふ~ん♪差別発言をするのは楽しいな~!!」
「オイオイ、お前まだ"怨嗟を招く呪詛"なんてダサいもんを口ずさんでんのかよ!!全然coolじゃないぜ!……そんなモノより、HEAPSの最新ナンバーでも聴いてみな!」
「ハァ……。(何か手渡してきたけど、何やコイツ……"怨嗟を招く呪詛"より楽しいモノなんてこの世にあるわけが……)ん、ンホォォォォォォォォォォォォォォォッ!?HEAPSヤバすぎィィィィィィィィィィ!!ボクちんのお腹が、ぼた山不可避ィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!?」
このように裕也の強烈なまでの歌は、赤蜂の優しき光にモノ足りなさを感じていた人達だけでなく、"怨嗟を招く呪詛"を支持している者達まで取り込む事に成功していた。
また、この末法ともいえる時代において略奪行為に走っていた他の山賊達も裕也のひたむきな情熱と目もくらむような成功に当てられてか『俺達みたいなロクデナシでも、頑張れば裕也のような本物のトップになれるんだ……!!』という意識に目覚めた事により、それまでの無法行為を改め自分達なりに人々から愛される”山賊を超えた山賊道”を追及していくようになる。
こうして、"怨嗟を招く呪詛"の猛威が収まり、代わりに熱狂的ともいえる"BE-POP旋風"が世の中に吹き荒れるようになっていた。
”憎悪の極点王”による支配と"怨嗟を招く呪詛"への決別を込めて開かれたフォビドゥン街での大規模ライブ。
結果は見ての通りの満員御礼であり、彼らの歓声を聞きながら、裕也は最高潮の気分とともに仲間達へと想いを馳せる--!!
(へへっ、最後までやり遂げてやったぜ。俺なりの”HEAPS”って奴をな!!……だから、お前らも俺の仲間なら、何があっても簡単にへこたれたりなんかするんじゃねぇぞ!!)
そんな裕也の昂揚に応えるかのように、歌い終わったにも関わらず、聴衆の歓声はいつまでも途絶える事はなかった……。
~~魔城:ヘイトクライム城内~~
今やこの国の頂点に君臨すると言っても過言ではない”憎悪の極点王”が座するこの場所には、王だけでなく彼を守護する堕淫棲隷武と呼ばれる異形の軍勢が常駐していた。
強大な戦闘能力を誇る彼らは、アカテンが王のもとまで向かっていたときに何をしていたのか?
その答えは、信じられない光景として城の大広間を埋め尽くしていた。
「ハァ、ハァ……引き受けたのは良いモノの、結構キツいな……あとはどんくらいかな、っと?」
肩で息をしながらも、まだ余裕のある様子で身体を起こしながら、辺りを見回す少年--立花 モミ夜。
モミ夜の周りには倒壊した堕淫棲隷武達の残骸と、彼を遠巻きに取り囲みながら様子を伺う生き残った堕淫棲隷武達の姿があった。
見れば大広間だけでなく、ここに至るまでの廊下……いや、城門から夥しいほどの残骸が散乱していた。
ネコ耳を生やしている事以外、取り立てて特徴がないはずの中卒無職の少年が何故、これほどまでの強さを発揮しているのか?
話は十分前ほどにまで遡る……。
裕也が全国ツアーのファイナルライブをフォビドゥン街で開催してくれた事によって人々の注目がそちらに集まり、アカテン達は無益な争いを引き起こすことなく”憎悪の極点王”が鎮座する魔城:ヘイトクライムにまで辿り着くことが出来ていた。
だが、城門の前には堕淫棲隷武達が常に厳重な警備体制を敷いており、近づく事すら容易ではない。
そんな状態の中で、アカテン達が彼らの目を掻い潜って城内へと忍び込むのは不可能、と言って差し支えなかった。
『ここまで来たけど……どうする?』
『やれやれ、アカテン兄さんは最後まで行き当たりばったりだなぁ~……仕方ない、ここいらで僕も本気を出してみますか!!』
--刹那、モミ夜の闘気が爆発的に膨れ上がる!!
異変を瞬時に感じ取ったのか、城門の前で警備に当たっていた堕淫棲隷武達も一斉にこちらへと視点を向ける--!!
『へへっ!それじゃあ、充電期間はここでおしまい!!……ここからは、中卒無職でも本気を出せば世界を救えちゃうって事を証明してみせちゃおっかな!!』
『モ、モミ夜。お前は一体……?』
こちらへと殺到してくる堕淫棲隷武を見据えながら、困惑するアカテンに対して意を決したように静かに独白するモミ夜。
『……アカテン兄さん、実はさ……僕はこことは違う世界に”暴食の魔王”として転生したフクイ県民の父さんと”ネコ耳女神天使”として世界を守護していた母さんとの間に生まれた子供なんだ……!!』
『えっ!?暴食の魔王の父親とネコ耳女神天使の母親の間に生まれた、だって!?』
”暴食の魔王”と”ネコ耳女神天使”。
それが具体的にどのような存在なのかは地球人であるアカテンには分からなかったが、『暴食の魔王にいやらしい事をたくさんされて完堕ちしたネコ耳女神天使が、十月十日の間にお腹を膨らませながら産み落としたのがモミ夜なんだな……』という衝撃的な事実を、モミ夜の独白から如実に感じ取っていた。
そんな重い過去を感じさせない覇気に満ちた表情で、モミ夜は”HEAPS”として活動してきた仲間として、自分の想いを打ち明ける。
『とてつもない存在である両親から生まれた僕が本気で実力を開放してしまったら、この世界で暮らしてきた人達の平穏を脅かすんじゃないか、と今までは自分自身の事が怖くて怖くて仕方がなかった……だけど、赤蜂君や裕也が全力で頑張っている姿を見て、僕も2人には負けたくないって思えたんだ!!』
……アカテンからは特に何も感じなかったらしい。
だが、周囲に気を使いこれまで実力だけでなく本音も言えなかったであろうモミ夜が自身の想いの丈を曝け出すのを目の当たりにし、アカテンが深く頷く。
『だから、アカテン兄さん。僕が暴食の魔王とネコ耳女神天使の間に生まれた存在だったとしても、”HEAPS”のメンバーとしてこの世界を想う気持ちは……!!』
『皆まで言わずとも分かっている、モミ夜。………お前は誰が何と言おうと、俺達”HEAPS”が誇る最高の仲間だ!!ここまで本音も何もかも曝け出したんだ。あとはお前がこの十数年溜め込んできたモノを、俺達なりの流儀でこの世界にプッ放してやれ!!』
『……ッ!?あぁ、言われるまでもないさ!』
そういうや否や、猛烈な勢いのまま突撃してくる堕淫棲隷武達に向けて盛大に右腕を振るうモミ夜。
殺到しているとはいえ、距離はまだ離れており、緊張のあまり空振りになったかと思われた--次の瞬間!!
ズシャァ……ッア!!
何かを引き裂いたかのような音と共に、押し寄せてきていた堕淫棲隷武の軍勢の巨躯が四散し、辺り一面は彼らの物言わぬ残骸がばら撒かれることとなった。
モミ夜の本気を目の当たりにし、理解した事とはいえ軽く二の句を告げなくなるアカテン。
そんな彼に注意を促しながら、モミ夜が前へと歩み始める。
『僕がこの堕淫棲隷武の軍勢を一気に惹きつけるから、アカテン兄さんはこの城にいる”憎悪の極点王”をやっつけて!』
『えっ……ここまでくると、もうお前一人で充分じゃないか?』
『何言ってんだよ!!堕淫棲隷武達なら僕でも何とか出来るけど、そこに”憎悪の極点王”みたいなとてつもない奴まで加わったりなんかしたら、流石に僕一人じゃ勝ち目がないよ!!』
だから、とモミ夜が続ける。
『……アカテン兄さんも”HEAPS”の仲間として、最高にBE-POPなところをこの世界に見せつけちゃいなよ!!……職にもつかず書籍化デビューもしないままじゃ、お互いにこんな場所で終われっこないでしょ?』
『ったく、減らず口を叩いてくれる……良いぜ!俺が最高のBE-POPが何たるかを、この世界に刻んでやらぁ!!』
そう言いながら、堕淫棲隷武の軍勢と戦闘を開始したモミ夜の背中に別れを告げ、アカシック・テンプレートは”憎悪の極点王”が待ち構える玉座へと疾走していた--!!
そうして、現在に至る。
今やこのヘイトクライムの城には、先程とは比較にならない規模の堕淫棲隷武の軍勢が押し寄せていた。
規格外のモミ夜の強さを目の当たりにした堕淫棲隷武達は、国外で”憎悪の極点王”に敵対していた国連軍や各国の軍隊、国内においては王の統治に対して抵抗していた藤原 啓泉を頂点とする禁中近衛衆が率いる検非違使部隊やフクイの守護に専念していたモミ夜の両親などと戦闘を繰り広げていた各地域の兵力の一部を、モミ夜ただ一人を討ち取るためにこの城へと召集していた。
本来ならば、絶望的な戦力差を前にしても、モミ夜は体力的な疲労を見せるだけであり、これまで無職であったことが信じられないほどに自信に満ち溢れていた。
「『強欲の爪牙』だけで切り裂いていく事も出来るけど……同じような異世界関連の僕ですら周囲に迷惑をかけないように無職のフリをしながらひっそり暮らしていたってのに、いきなり他の世界からやってきて好き勝手に暴れ回るような余所者相手に加減する必要もなさそうだな。……よし!そんじゃあ、派手に出し惜しみなしでいっときますか!!」
モミ夜の闘気がこれまで以上に桁違いに膨れ上がったかと思うと、彼の身体を荒ぶる力の奔流が漲り、雷鳴が轟き叫ぶ--!!
「……母さんが得意としていた『水』『風』『雷』『光』の四大属性の極大聖法術を開放。さらに、父さんが強奪した他の『嫉妬』『高慢』『怠惰』『強欲』『色欲』『憤怒』の邪神達の権能を最大出力でこの身に顕現……!!」
それまで立花 モミ夜という者達が見れば信じられないような気迫と共に、十の異なる属性を纏め上げた暴食の破壊神へと変貌を遂げたモミ夜が、この地に新生の産声を上げる--!!
「覚醒せよ、全てを喰らい尽くす『暴食』の権能!!……今ここに、新たなる覇道を示さん!!」
堕淫棲隷武とは、”永遠の王”と呼ばれる絶対的な存在のために、その強大な武威を持って世界を纏め上げる事を至上命題とする者達を意とする。
ゆえに、堕淫棲隷武に敗走はなく、彼らは己の意思もなく忠実に”永遠の王”や彼が認めた者達の意思を遂行するために、その暴威を世界へと振るうだけの尖兵であった。
そんなどの軍隊よりも単なる暴力装置としての存在意義を発揮するはずの堕淫棲隷武が……覚醒しモミ夜を前に、皆いっせいに動きを止めていた。
否、動かないのではない。
圧倒的に数で押しているのにも関わらず、堕淫棲隷武の軍勢は立花 モミ夜ただ一人を前に動けなくなっていたのだ。
その原因は、--恐怖。
本来自分達堕淫棲隷武が持ち得るはずのない怯えとしか言いようのない感覚によって、彼らは一体たりとも迂闊に動けなくなっていた。
表情がない異形の集団なれど、彼らの動揺を感じ取ったのか、モミ夜が静かに--だが、よく通る声で逃げる事など許さない、と言わんばかりにしっかりと呟く。
「……それがお前達が身勝手にこの世界の人々にばら撒いてきた”絶望”や”恐怖”ってヤツだ。……例え、”王の剣”と呼ばれる存在だろうと、ここで僕を相手に足を止めたのがお前達の限界だ」
だから、としっかりとよく通る声でモミ夜が宣言する。
「ひたすらに覚悟しろ。抵抗しようが降伏しようが、この場所がお前らにとっての終焉そのものだ。……どれだけ大層な王の権威とやらを持ち出そうが、大義のために動こうが、何の想像力もなく半端な在り方で俺の大事な人達を傷つけようとするお前達堕淫棲隷武を、俺はこの先の未来に一歩たりとも進ませるつもりはない……!!」
”HEAPS”としての活動を通して、モミ夜は裕也や赤蜂、アカテンを始めとする仲間達だけでなく、多くの大切な人達がこの世界で懸命に生きている、という事を再認識していた。
ゆえに、あれほど危惧していた自身の全力を持って、彼らの未来を単なる作業の延長戦上にすり潰そうとする堕淫棲隷武という存在に非情ともいえる決意で対峙する。
そんなモミ夜の言葉の意味を理解したかのように、王への忠誠心か、侮辱された事に対する怒り、あるいはその両方によって闘気を蘇らせた堕淫棲隷武達が、玉砕覚悟でモミ夜へと特攻を仕掛ける--!!
『グウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ、ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
「……物言わぬ人形だと思っていたが、しっかりと己の意思はあるじゃないか!……良いだろう。例えお前達の存在をこの世界の人たちが否定しようとも、俺がお前達の全てを受け止めてやる!!」
殺到してくる堕淫棲隷武に向けて、四大属性の力が込められた極限の聖法術が雷鳴となりて彼らの巨躯を撃ち抜いていく。
そのような猛攻を何とか潜り抜けてきた者達もいたが、彼らの刃がモミ夜に届く事はない。
モミ夜に迫ろうとしていた者達は、今までと同じように空間ごと断ち切る『強欲の爪牙』によって引き裂かれる末路を辿った。
力押しを旨とする堕淫棲隷武らしからぬ隠形能力を用いて、モミ夜に迫ろうとする者達もいたが、それらは『嫉妬の魔眼』によって探り当てられ、『怠惰なる氷河』が創り出した巨大な氷柱にその身を貫かれたり、『高慢なる意思』によって己の武器を操作された結果、刃を交えることなく自害させられることとなる。
そうして、強大な権能で倒した堕淫棲隷武達は、存在ごと跡形も残さずに『暴食』の権能によりモミ夜の力として吸収されていた。
灰燼と化していく城内を眺めながら、モミ夜は一人静かに思案する。
(……そうだ。僕は赤蜂君や裕也と違い、どれだけ望んだところですべてを喰らい尽くす”破壊神”である以上、彼らのように希望を残す事は出来ない存在かもしれない。……だから、”憎悪の極点王”は貴方のようなこの世界に生きる者自身の手で、決着をつけなきゃいけないんだ。アカシック・テンプレート……!!)
アカシック・テンプレートに対してはあのように答えたモノの、実を言うとモミ夜はこの暴食の破壊神としての性質上、堕淫棲隷武の軍勢を喰らいながら王を相手に戦う事が出来れば自分が負けることはない、と判断していた。
だが、”暴食の破壊神”として”憎悪の極点王”というこの世界を支配しようとしていた者を倒してしまうと、自分がこの世界における絶対的な神として君臨することとなる。
そうなれば、現在進行形でこの戦場で繰り広げられている光景のように、この世界そのものがモミ夜の暴食の力によって塵一つ残さず喰らい尽くされる事となる。
”HEAPS”の仲間達や家族、それにこの世界で出会えた大切な人達の未来を守りたい、と願うモミ夜だからこそ、そんな結末を容認出来るはずがなかった。
--この地獄に変わりつつある世界でも、最後に残るモノは自分のような破壊の権化が振るった暴虐の傷跡ではなく、”HEAPS”のみんなが紡ごうとしていた希望の懸け橋であってほしい。
そんな想いを胸に宿しながら、破壊神としての衝動に呑み込まれまいと食いしばりながら、モミ夜が権能を振るい続ける--!!
「……受けて見ろ、『色欲の幻影』!!並びに『憤怒の暴虐』!!」
最大出力の『色欲の幻影』によって存在をそのまま6体に分裂したモミ夜が、『憤怒の暴虐』の純粋なまでの力の暴威を全力で撃ち放ち、堕淫棲隷武達を殲滅する。
(……僕は中卒無職だろうと破壊神だろうと、自分なりに出来る事を精一杯やってみせたよ!!……だから、次はそっちがド派手に決める番だよ……アカテン兄さん!!)
意識が破壊的な衝動によって灼け切れそうになる中、モミ夜はただ一つ、胸中でそのように呟きながら一人戦場で立ち尽くしていた……。
~~魔城:ヘイトクライム 王の間~~
モミ夜と堕淫棲隷武達の激しい戦闘音を耳にしながら、アカシック・テンプレートは遂に”憎悪の極点王”に向けて拳を突き出す--!!
「……”HEAPS”の仲間達を始めとする多くの人達の想いが、俺をこの場へと繋いでくれた。……”憎悪の極点王”!!そんな人間達がこの世界にいる事も知らずに、玉座にふんぞり返っているようなお前にこの国の支配者なんて席は分不相応ってモンだ!!……ゆえに、この俺が!キッチリお前に引導を渡してやらぁ!」
「……フン、逆賊風情が随分と舐めた口を利いてくれる!!……良いだろう。不遜にも王たる我に仇為したその愚行、この我自らの手によって誅してくれるわッ!!」
怒気を全身から漲らせながら、断罪の意思を示す”憎悪の極点王”。
だが、対するアカシック・テンプレートは動じるでもなく、待ってました!と言わんばかりに、意気揚々と声を上げる--!!
「おうともさ!!無法、逆賊大いに上等!俺こそが、山賊小説の筆頭!”HEAPS”の首領の……"アカシック・テンプレート"だ!!」
アカシック・テンプレートの名乗りと共に、両雄が遂に明確な戦意を持って相対する。
……かくして、ここにこの世界の命運を賭けた一世一代の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。




