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不味いレーションを拒否した特級調理官ですが、追放先の辺境村で『道の駅』を開いたら三国の上層部が常連になりました  作者: 月神世一


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ザイード男爵の焦燥と、卑劣な企み

ザイード男爵の焦燥と、卑劣な企み

ルナミス帝国、帝都の中心に位置する軍需省。

その一角にある豪華な次長室で、ガシャーン!と高価な調度品が壁に投げつけられ、粉々に砕け散った。

「馬鹿な……! 前線部隊の三割が脱走しただと!? 食中毒でまともに動ける兵が半数以下だとぉっ!?」

ザイード男爵は、デスクの上に散乱した報告書を握り潰し、怒りに顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。

報告に上がってきたのは、『3型戦闘糧食(通称ゲロオムレツ)』を支給された最前線の兵士たちの悲惨な状況だった。腹を下し、闘気を練ることもできず、あまつさえ「あんな不味いものを食うくらいなら死んだ方がマシだ」と軍を抜ける者が後を絶たないというのだ。

「ええい、どいつもこいつも軟弱な! 腹が膨れれば何だっていいだろうが!」

ザイードは苛立たしげに高級なポポロシガーに火をつけ、深く煙を吸い込んだ。

ゲロオムレツの開発には、スライムの凝固剤や廃棄寸前の素材を安く買い叩き、浮いた予算を自らの懐に入れるという彼の「錬金術」が隠されている。もしこのまま前線が崩壊し、上層部から視察が入れば、自身の横領と不正が明るみに出てしまう。

「……次長。脱走した兵士たちの足取りについてですが、奇妙な報告が上がっております」

副官が恐る恐る、追加の報告書を差し出した。

「奇妙な報告だと?」

「はい。逃亡した兵士の多くが、国境の緩衝地帯である『ポポロ村』に向かっているようなのです。なんでも、そこにできた『道の駅』という飯屋に行けば、信じられないほど美味いメシが食えると……」

その言葉に、ザイードはピクリと眉を動かした。

「道の駅? 飯屋だと? そんな辺境の村でまともな食料が手に入るはずがなかろう」

「それが、獣人軍の国境警備隊もこぞってその店に通っており、今や三国が交差するオアシスになっているとか。しかも、その店の女将というのが……先日、次長が横領の罪を着せて追放した、元特級調理官のセリア・アーベントだという噂です」

「……なんだと!?」

ザイードはシガーを床に落とし、ワナワナと肩を震わせた。

あの小生意気な小娘が、辺境で野垂れ死ぬどころか店を開き、あろうことか帝国軍の兵士たちを美味い飯で手懐けているというのか。

このままでは、「ゲロオムレツの推進は失敗だった」「セリアの作っていたレーションの方が正しかった」と証明されてしまう。それだけは、彼のプライドと保身が絶対に許さなかった。

「……あの小娘め。私の面子を潰した挙句、帝国の兵站を裏から操ろうというのか」

ザイードの目に、どす黒い欲望と殺意が宿った。

軍の正規部隊を動かせば記録が残り、上層部に不審がられる。ならば、裏の人間を使えばいい。

「おい。裏通りの『黒蠍(くろさそり)団』の頭目を呼べ。金はいくらでも積む」

「ならず者の傭兵集団ですか? まさか、ポポロ村を……」

「そうだ。夜陰に乗じて村を襲撃し、あの店を叩き潰せ。女将のセリアは生け捕りにして、あの美味いという料理のレシピと、ポポロ村の特産品の利権をすべて吐き出させるのだ。そうすれば、私はそれを『新しい帝国軍の兵站食』として上層部に報告し、すべてを私の功績にできる!」

ザイードは下劣な笑みを浮かべた。

武力を持たない田舎村の飯屋など、完全武装のならず者集団にかかれば赤子を捻るようなものだ。

彼は、己の完璧な計画に酔いしれていた。

 ◇ ◇ ◇

その日の午後。

道の駅『ポポロ』は、昼のピークを過ぎて穏やかな空気に包まれていた。

「ふう、今日もたくさん仕込みましたね」

私はタローマン製のオーブンから、焼き上がったばかりの『太陽芋のパウンドケーキ』を取り出した。

太陽芋はサツマイモとジャガイモの中間のようなホクホクとした食感で、自然な甘みが特徴だ。これにハニーかぼちゃの蜜を練り込んで焼き上げると、極上の素朴なスイーツになる。

「クンクン……! まかない! おやつのまかないの匂いがします!」

洗い場から、アイドル兼皿洗い担当のリーザが飛んできた。彼女の嗅覚は、ある意味でヴィンセント以上かもしれない。

「はいはい。お茶も淹れますから、みんなで休憩にしましょうか」

「やったー! セリアお姉様、大好きですぅぅ!」

テラス席にケーキとお茶を運ぶと、帳簿と睨めっこしていたニャングルが煙管を置き、大きく伸びをした。

「あー、疲れたわ。売上は絶好調やけどな」

ニャングルはケーキを一口かじり、「美味い!」と猫耳をピコピコさせた後、ふと声を潜めた。

「……せやけどセリア。ちょっと最近、キナ臭い噂を耳にしたんや。ゴルド商会の情報網からなんやけどな」

「キナ臭い噂、ですか?」

「ああ。帝都の裏社会で、質の悪い傭兵崩れの『黒蠍団』って連中が、まとまった金で雇われたらしい。しかも、標的はこの国境付近……どうやら、ワイらの店が狙われとる可能性が高いで」

ニャングルの言葉に、私は思わず息を呑んだ。

「私の店が……? でも、どうして」

「恨みを買う心当たり、あるやろ? 帝国兵がゲロオムレツから逃げて、うちの飯食いによく来とる。帝国の兵站を牛耳っとるお偉いさんからすれば、自分の面子を丸潰れにされとるわけやからな」

ザイード男爵の、怒りに満ちた顔が脳裏に浮かんだ。

彼なら、自分の失敗を隠蔽し、私の店の利益を奪うために裏の人間を雇うくらいのことは平気でやりかねない。

「……どうしよう。もしお店が襲われたら、キャルルさんや村のみんなに迷惑が……!」

私が不安に駆られて立ち上がろうとした、その時だった。

「ご心配には及びませんよ、セリアさん」

静かで、深く、落ち着き払った声。

振り返ると、テラスの柱に寄りかかるようにして、ヴィンセントが立っていた。

彼の金色の瞳は、冷たく透き通るような理知的な光を宿している。

「ヴィンセントさん。でも、相手は武装した傭兵集団だと……」

「ニャングル殿の情報は正確です。そして、私の『鼻』も、すでに北東の風に乗ってやってくる安い鉄と殺気の匂いを捉えています。おそらく、今夜のうちに奴らは仕掛けてくるでしょう」

彼は私に近づき、安心させるようにそっと私の肩に手を置いた。

「ですが、恐れることはありません。彼らは所詮、金で動く素人の集まり。特務のプロフェッショナルから見れば、動きが単調すぎて欠伸が出る」

ヴィンセントの口元に、不敵な笑みが浮かんだ。

「セリアさん。あなたは今夜、自室のベッドでぐっすりと眠っていてください。明日の朝食の仕込みに備えて、しっかりと休息を取るのがあなたの『仕事』です。……厨房の外の害虫駆除は、私の仕事ですからね」

「ヴィンセントさん……」

彼の手の温もりと、絶対的な自信に満ちた声が、私の中の不安をスッと溶かしてくれた。

この人が『守る』と言ってくれたのなら、もう何も怖がる必要はないのだ。

「……わかりました。ヴィンセントさん、怪我だけは絶対にしないでくださいね」

「もちろんです。テーブルクロスの一枚も汚すつもりはありませんよ」

ヴィンセントは優雅に一礼すると、鋭い視線をニャングルに向けた。

「ニャングル殿。少し、商会としての『法律』の知恵をお借りしたい。ただ追い払うだけでは、根本的な解決になりません。……奴らの背後にいる雇い主に、手痛いしっぺ返しをしてやりましょう」

「……ひっ」

ヴィンセントの極寒の笑みを見たニャングルが、ゾクッと身を震わせる。

「お、お前……マフィアよりマフィアみたいな顔しとるで……。わかったわ、ワイの法務知識と商会のコネ、フル稼働させたる! 慰謝料ふんだくったるからな!」

「ありがとうございます。……それから、村長殿」

ヴィンセントの呼びかけに応じ、ケーキを頬張っていたキャルルが「ん?」と顔を上げた。

「夜の運動は好きですか?」

「大好き! アゴ砕いていいの!?」

「ええ。ただし、店や広場の設備は壊さないように。適度にサンドバッグにしてやってください」

ヴィンセントの指揮の下、最強の迎撃チームが瞬時に結成された。

その日の夜。

私はヴィンセントの言葉通り、部屋のベッドに入った。

外は静まり返っている。だが、少しも怖くはなかった。私の周りには、最高に頼もしい相棒たちがいるのだから。

(明日も、美味しいご飯を作らなくちゃ)

私は深く息を吐き、静かに目を閉じた。

一方その頃、月明かりに照らされた道の駅『ポポロ』の周囲には、黒い外套に身を包んだ数十人のならず者たちが、音もなく忍び寄っていた。

「……よし、灯りは消えてる。店ごと制圧し、女将をひっ捕らえろ」

黒蠍団の頭目が、残忍な笑みを浮かべて短剣を抜いた。

彼らは知らなかった。

自分たちが忍び込もうとしている場所が、マッハで蹴るウサギと、法と金で縛り上げる猫と、一切の武力を使わずに軍隊を壊滅させる狂犬執事が待ち構える、世界で最も危険な『特区』であることを――。

第9話をお読みいただきありがとうございます!

ついに元上司のザイード男爵が、自己保身と強欲のために裏社会のならず者「黒蠍団」をポポロ村に差し向けてきました。

しかし、そんな小悪党の企みなど、特務大佐であるヴィンセントには完全に筒抜けです。

セリアを安心させて眠りにつかせた後、裏でキャルルとニャングルを巻き込み、完璧な迎撃の『罠』を構築するヴィンセント。

大人のマリーシア(したたかさ)が全開ですね!

黒蠍団の皆様、ご愁傷様です……。

次回、いよいよならず者たちへの制裁(お掃除)が始まります!

そして、ザイード男爵への痛烈なカウンターとは!?

「ザイード小物すぎるw」「ヴィンセントの安心感ハンパない!」「黒蠍団、終了のお知らせ(笑)」と思っていただけましたら、

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合わせて【ブックマーク登録】もぜひよろしくお願いいたします!

皆様の応援が、最強迎撃チームの力になります!

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