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不味いレーションを拒否した特級調理官ですが、追放先の辺境村で『道の駅』を開いたら三国の上層部が常連になりました  作者: 月神世一


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ネタキャベツの命乞いは無視します。狂犬執事と関西弁の猫耳商人が仲間になりました

ネタキャベツの命乞いは無視します。狂犬執事と関西弁の猫耳商人が仲間になりました

『……ひぃぃぃ! 待ってください! 隣の村の村長、実はカツラで……ギャアアアアッ!』

タローマン製の三徳包丁が、迷いなく振り下ろされる。

悲鳴と共に真っ二つにされた『ネタキャベツ』は、まな板の上でピタリと動かなくなり、普通の瑞々しい野菜へと姿を変えた。

「はい、お疲れ様でした。鮮度は抜群ね」

「セ、セリア……あんた、結構容赦ないね……」

「命をいただくからには、美味しく調理するのが料理人の責任ですから」

ドン引きしている村長キャルルを横目に、私は手際よくネタキャベツをざく切りにしていく。

不思議なことに、このキャベツは『面白いゴシップ(ネタ)』を叫んでいた個体ほど、葉に甘みと旨味が凝縮されているらしい。

私は、タローマン製の大型魔導鍋に水を張り、あらかじめ下ごしらえしておいた『三徳鳥(トライバード)』の骨付き肉と一緒に、キャベツを放り込んだ。

味付けはシンプルに、岩塩と少しのハーブのみ。

あとは魔導コンロの火力を調整し、コトコトと煮込んでいく。

やがて、鍋から立ち上る湯気と共に、暴力的なまでに食欲をそそる香りが広場に漂い始めた。

三徳鳥から出た濃厚なダシと、ネタキャベツが溶け込んで引き出された極上の甘み。それらが渾然一体となった『異世界特製ポトフ』の完成だ。

「……す、すっごくいい匂い……!」

キャルルのウサギ耳がピコピコと激しく動く。

その時だった。

「クンクン……はっ! この神の御使いのような芳醇な香りは……!」

ダダダッ!と猛烈な足音が響き、新築の『道の駅・ポポロ』のテラス席に、一人の少女が滑り込んできた。

色あせた芋ジャージに、足元は健康サンダル。しかし、その顔立ちは信じられないほど美しく、透き通るような青い髪の間からは、魚のヒレのような耳が覗いている。

「あ、リーザちゃん! またお腹空かせてるの!?」

キャルルが呆れたように声を上げた。

「キャルルさん! それに、そこの神々しいエプロン姿のお姉様! 私は絶対無敵のスパチャアイドル、リーザ・シーラン・リヴァイアサンと申します! どうか、このパンの耳と、そのお鍋のスープを一口……いえ、一滴でいいので交換していただけないでしょうか!?」

リーザと名乗った人魚族の少女は、乾燥したパンの耳を両手で掲げ、土下座の勢いで頭を下げた。

(ア、アイドル……? 人魚姫なのに、なんであんなボロボロの芋ジャージを……?)

私が困惑していると、背後に控えていたヴィンセントが、足音もなくスッと前に出た。

彼は一切の武器を持たず、しかし有無を言わせない絶対的な威圧感を放ちながら、リーザを見下ろす。

「……ッ!」

リーザがヒィッと肩を震わせた。

ヴィンセントはそのまま冷徹に彼女を排除……するのかと思いきや。

「パンの耳では等価交換とは言えませんね。ですが、その美しい声と度胸は評価に値する」

「え……?」

「飯を食うなら、労働で対価を払うのがルールです。本日からあなたのステージは、この店の厨房(シンク)と店先になります」

ヴィンセントは優雅な手つきで、タローマン製の新しいエプロンをリーザの首にかけ、背中でキュッとリボンを結んだ。

「さあ、まずは広場でお客様の呼び込みを。食後の皿洗いも任せますよ、新人アイドルさん」

「は、はいぃぃっ! 喜んで働かせていただきますぅぅ!」

リーザは涙目で敬礼し、エプロン姿で店先へと走っていった。

ヴィンセントは私の方を振り向き、フッと柔らかく微笑む。

「彼女のユニークなキャラクターは、良い宣伝塔(看板娘)になります。つまみ出すより、戦力化する方が合理的ですから」

(なんてスマートな対応……! 武力だけじゃなくて、人の扱いも完璧なんだわ)

味方に牙を剥くことなく、ユーモアとマリーシア(したたかさ)でトラブルを解決する彼の手腕に、私は思わず感心してしまった。

「アホか! こんなド辺境の緩衝地帯で店開くやなんて、どこの狂人が考えた企画やねん!!」

突如、広場にコテコテの関西弁が響き渡った。

現れたのは、派手な着物に身を包み、長い煙管(きせる)を吹かしている青年だった。

頭にはピンと立った猫の耳。腰には、純金で縁取られた大きな『算盤(そろばん)』を提げている。

「あ、ニャングル! どうしてここに?」

「どうしてもこうしてもあるかいな、キャルル! ワイの可愛い幼馴染が、こんな物騒な村の村長になったって聞いて、心配で飛んできたんや!」

ニャングルと呼ばれた猫耳族の青年は、ズカズカとテラスに上がり込んでくると、鋭い商人の目で私とヴィンセントを値踏みした。

「ワイは大陸屈指の商会『ゴルド商会』のゴールドランク商人、ニャングルや。……キャルル、騙されたらアカンで。こんな補給線(ロジスティクス)もロクにない最前線で商売なんて、リスクとコストが見合わん! 利益率マイナスの大赤字、三日で破綻や!」

ニャングルが算盤を弾きながら、まくし立てるように力説する。

確かに彼の言う通りだ。ここは三国が睨み合う最前線。普通の商人なら絶対に手を出さない土地である。

「騙してなんかないよ! セリアのご飯は本当に美味しいんだから!」

「美味いだけで商売が成り立つか! 経済舐めんな!」

ギャーギャーと言い合う二人を見て、私はふと微笑んだ。

(打算で動く商人みたいに言ってるけど、わざわざ危険なこの村まで幼馴染を心配して会いに来るなんて。……本当は、すごく情に厚い人なのね)

「ニャングルさん、遠いところからお疲れ様でした。難しい話の前に、とりあえず温かいものでもいかがですか?」

「ああん? ワイは美味い飯なんかで買収されへん……」

私は深めの木製ボウルに、出来立てのポトフをたっぷりと注ぎ、ニャングルの前にそっと置いた。

ゴロッと煮込まれた三徳鳥の肉と、飴色に透き通ったネタキャベツ。立ち上る湯気が、ニャングルの猫耳をピクッと動かす。

「代金はいりません。キャルルさんのお友達ですから。無償のサービス(まかない)です」

「む、無償……? 損得抜きの、タダやと……?」

ニャングルは訝しげに私を見つめた後、恐る恐るスプーンを手に取り、スープを一口飲んだ。

「――ッ!?」

ニャングルの瞳孔が、猫のように丸く広がった。

「なんやこれ……! ただのキャベツちゃう、凄まじい旨味の爆弾や! それにこの鶏肉、ホロホロに崩れて……いや、それより何やこの体に染み渡るような優しい熱は……!」

彼はスプーンを動かす手を止められなくなり、夢中でポトフを胃袋に流し込んでいく。

計算高い商人の顔が崩れ、ただの腹を空かせた青年のような無防備な顔で、最後の一滴まで飲み干した。

「ぷはぁっ……!」

ニャングルは大きく息を吐き出すと、ガクッと膝から崩れ落ち、頭を抱えた。

「アカン……ワイの負けや……」

「えっ、大丈夫ですか!?」

「こんな……こんな優しくて美味いもん、無償で出されたら……ワイの狂った算盤、合わせたくなるやないかぁぁっ!」

ニャングルはババッと立ち上がると、私の両手をガシッと握った。

「セリア言うたな! あんた、料理の腕は神級やが、商売の立ち回りは素人やろ! この店の財務、法務、物流、全部ワイに任せえ! 帝国軍需省やろうが魔皇国やろうが、ゴルド商会の力で完璧な防波堤作ったるわ!」

「え、えっと……?」

「今日からここは『ゴルド商会・ポポロ村支部』も兼ねる! キャルル、安心せえ。ワイがこの店、世界一の黒字にしたるからな!」

ニャングルが煙管を空高く掲げて高笑いする。

ヴィンセントは小さくため息をつきながら、私に耳打ちした。

「騒がしいのが増えましたが……金庫番としての腕は確かなようです。武力(私)と経済(彼)の防壁があれば、あなたは料理にだけ集中できますね」

「ふふ、なんだか一気に賑やかになりましたね」

マイペースな料理人(私)。

最強の狂犬執事(ヴィンセント)。

物理特化のヤンデレ村長(キャルル)。

強欲なサバイバルアイドル(リーザ)。

情に脆い過労死枠のツッコミ商人(ニャングル)。

こうして、役者が揃った『道の駅・ポポロ』は、波乱のプレオープンを迎えたのだった。

 ◇ ◇ ◇

その日の夜。

広場のデッキで一息ついていると、ヴィンセントが温かいお茶を淹れて隣に座った。

「お疲れ様でした、セリアさん。素晴らしい初日でしたね」

「ヴィンセントさんのおかげです。リーザちゃんを雇ったり、ニャングルさんの勢いを受け止めたり……私一人じゃ、あんなに上手く回りませんでした」

私が素直に感謝を伝えると、ヴィンセントは月明かりの下で、少しだけ真剣な瞳を私に向けた。

「セリアさん。改めて、誓わせてください。私は、理不尽な暴力や、あなたの平穏を脅かすすべての外敵から、この店とあなたを守り抜きます。厨房の外の泥跳ねは、一切あなたには見せません」

それは、ただの恩返しを超えた、重く、確かなパートナーとしての誓いだった。

大人の色気と絶対的な信頼感をまとった彼の言葉に、私の胸の奥がトクンと小さく跳ねる。

「……はい。頼りにしています、私の最強の相棒さん」

私が微笑むと、ヴィンセントはほんの少しだけ目元を緩め、満足そうに頷いた。

――同じ頃、ルナミス帝国軍・最前線基地。

「オエェェェェッ!」

「無理だ! こんなタイヤみたいなオムレツ、食えるかぁぁっ!」

「ザイード次長の野郎、俺たちを殺す気か!」

兵士たちの悲痛な叫び声と、強烈な腐臭が塹壕に充満していた。

『ゲロオムレツ』の本格支給により、帝国軍の士気はすでに崩壊の危機に直面していたのである。

セリアが去った帝国軍と、セリアが拠点を開いたポポロ村。

両者の運命は、ここから劇的に交差していくことになる。

第3話をお読みいただきありがとうございます!

ついに道の駅『ポポロ』がプレオープン!

図々しいけど憎めないサバイバルアイドル・リーザと、コテコテの関西弁でツッコミを入れる情に厚い猫耳商人・ニャングルが仲間に加わりました!

ヴィンセントはただ暴力を振るうのではなく、彼らを上手く店のために戦力化する「大人の余裕」を見せてくれています。ヒロインとのパートナー契約のシーン、いかがでしたでしょうか?

一方その頃、セリアを追放した帝国軍では、ゲロオムレツのせいで地獄絵図が広がっているようです……(自業自得ですね)。

「ニャングル良いキャラしてる!」「ヴィンセントのスマートな対応が素敵!」「帝国軍、ざまぁww」と思っていただけましたら、

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