第8話 アナンタ先生は見た! 自身を飲み込む輝きを
魔法実技の講義が本格的に始まった今。
学生たちは互いに触媒を向け合って魔法を撃ち合う。
火に水、雷に風など各種属性にオリジナルで開発した魔法などが放たれている光景はなんとも圧巻だといえよう。
「ヒートボール!」
「アクアランス!」
流石王国でもトップ校イーリスだけあって魔法の腕前もかなりの物であり、習得難度高のインスタントスペルまで当たり前の様に使用している景色に教師であるアナンタ・クロークは感心していた。
「クルーピーシュガース!」
「ほほう。なんと精度の高い氷結魔法だ」
その中でも特に目に入ったのは氷の槍を精製し相手に放ったこの学生。サリュース・リリベルだ。
まだ16というのに水と風の複合上級魔法でクルーピーシュガースを扱える点は目を見張るものがある。
アナンタが所属する魔法師団の中でもインスタントで複合上級魔法が使用出来るのは自身を含めて3人だけだと言うのに。
そんなサリュースはアナンタの漏らした声など気にも止めず、汗もかかずに続けて魔法を放とうとしている。かなり集中しているようで、アナンタの声など耳に入っていないようだ。
アナンタはこの学校の真面目に取り組む学生たちの姿勢が好きだ。勤勉で、努力を惜しまず。才能に溢れた未来の王国を担う若者たち。
(ふふ。いつか私もこの子達に追い抜かれてしまうかもしれないな)
そう思うと早く仕事を終わらせて魔法の研鑽に打ち込みたい彼女は考え、別の生徒の元へ歩みを進める。
もちろんアナンタは魔法師団に入ってからも研鑽は積み続けているのだが、ここ最近は少しマンネリ気味というかスランプであった。
魔法を開発しようにも新しい発想がないというか、こう……目を引くような魔法を作れないでいる。
だから彼女は新い発想を期待してこの学校の講師としてやって来たのだが……。
どの学生も素晴らしい魔法を使ってはいるが、やはり新たな扉を開く為のヒントは見つからないようだった。
「ゴレムリンちゃん。相手よろしくね」
その時だった。
なんともか細い女の声がアナンタの耳に入ってきたのは。
その声の元に顔を向けると、ペアを組めと伝えたはずなのに1人で小さな人形と戯れている学生が1人。
(見た事ない学生だな……。編入生か?)
この学校には他校の成績優秀者が編入するパターンも多い。恐らく彼女もそうかもしれないと思い、近づいてみる。
「じゃあゴレムリンちゃん。今からこの魔装具で攻撃するから防御してね」
『リョウカイ。リョウカイ』
グレムリンだろうか、妙に人工物めいた小悪魔に会話をしている彼女は使い魔を扱うサモンリストかもしれない。
にしても使い魔は言葉を話さないはず、それなのにこの女の使い魔は言葉を話しているではないか。
「おい。そこの君」
気になったアナンタはその生徒に声を掛けた。
が――背後からいきなり声を掛けたせいか彼女はビクゥ! と身を縮めて恐る恐るアナンタへ振り返った。
「え? な、なんでしょうか?」
「私はペアを組めと言ったのだが、君はどうしてペアを組まずに1人なんだ」
なにか理由があるのだろうか? 人には見せられない魔法だとか、一族秘伝の魔法だとか。そういう理由は少なからずあるはずだ。
だがここはそんな言い訳が通用する学舎ではないことは全生徒が周知している事実であり、身につけた魔法を行使しない生徒は馬鹿者として扱われる。
魔法は隠すものではなく使うものなのだから。
「いや。だって余ってる人が居ないです……し」
だが彼女から返ってきた言葉は馬鹿者以上にふざけていた。友達がいない。そんな言い訳にもならない言葉が出てくるなどアナンタは想像にもしていなかったのでキョトンと数秒……いやコンマ数秒固まってしまった。
「わ、私は人形と組めとは言っていない。友達でなくとも学生と組むんだ」
「で、ですが余っている学生はいませんよ?」
アナンタは周りを見渡した。確かに彼女の言う通り学生は皆ペアを組んでいてどこにも空きがない様子であった。
これは出席者を把握していない自分自身のミスだとアナンタは心の中で反省した。
「仕方ない。私が相手してやろう。光栄に思うがいい。魔法師団若手エースと呼ばれるこのアナンタ・クロークと組めることを――」
「い、いえ! け、けけ結構です……さよなら」
「な、なにぃぃぃーー!!」
アナンタは魔法師団の隊員の中でもかなり人気があると自負している。本来であれば学生は皆発狂するほどに喜ぶ提案のはずなのだ。
過去の講義では私に魔法を指導してほしいと取り合いにまで発展したと言うのに……なぜ?
しかもだ。さよならの一言で片付けられてしまったという事実にアナンタは少なからず屈辱を感じてしまった。
「なぜだ! そこは喜ぶところだろう!」
「えっ……だって……今から使うのは魔法の様で魔法じゃありませんし……とても人様にお見せできるものではありません」
そう言った彼女の手にはガントレット型の魔装具が取り付けられていた。
魔装具……つまり彼女は魔導回路に異常をきたしている人間であり魔法が使用できないということだ。
そうなるとあの女の隣で飛んでいるグレムリンも魔装具の一種なのだろう。
そうとなれば確かに人と組むのも気がひけるというものだ。
魔法を使用できない人間が魔法使いと対峙した場合防御も出来ず致命傷を負う可能性が跳ね上がるのだから。
「大丈夫だ。私は君の魔法を否定しないし、咎めるつもりもない。だから私と組もうではないか。ここは君達のための学舎なのだから」
だからアナンタは言った。彼女が学生らしく魔法を学んでもいいんだと伝えるために。
「で、ですが……」
「グズグズするな。それ以上口答えしたら落第点をやるぞ」
「ら、落第点!?」
「冗談だ……そう本気に捉えるな……」
彼女はもしかしたらコミュニケーション能力が低いのかもしれない。今の冗談も真正面から受け止め萎縮しているあたりアナンタは少なからずそう考えた。
であればこの様にあぶれてしまう状況にも頷けるわけだ。
「まあ気楽にいこうではないか。私は教師だから受けに徹するとしよう。ほら自由に撃ってきなさい」
「で、では……」
気弱な学生はゴレムリンという使い魔型魔装具を身に寄せ何か言葉をかけ始めたが、アナンタはなにを言っているか聞き取ることができなかった。
(まあ指示だろうな。使い魔型……初めて見るタイプだが、ここまで技術は進化していたのか)
「で、では……いきましゅ!」
噛んだ。なんだか気の抜ける光景にアナンタは少し笑ったが――
「そうだ! 君、名前は?」
「名前、ですか?」
ゴレムリンを浮遊させて彼女はアナンタへ首を傾げた。
「そうだ。君を今まで見たことがないからな。編入生か?」
「あ、いえ。訳あって8年休学していただけで……」
どうりで人慣れしていないわけだ。
8年も休学していれば講義についていくのも一苦労だろう。アナンタはそんな彼女が不憫に見えてきてしまう。
であれば。とアナンタは彼女に向き合うことを胸に強く誓った。
(私が彼女に道を示さなければ!)
「私の名前は……リーグレット・アイアンガルドです」
「リーグレット……良い名じゃないか」
「ありがとうございます」
「止めて悪かったな。いつでも来たまえ」
「はい!」
そうしてリーグレットはゴレムリンを体の前へ移動させアナンタへ小さな顔を向けさせた。
その様子がまるで妖精と戯れる子供の様に見えて微笑ましく思う。
「じゃあゴレムリンちゃん。せっかく先生が相手してくれるみたいだから、少し本気出してくれる?」
『リョウカイ! リョウカイ! 殲滅モード起動。オールマスダァイ』
「え……」
その時だった。
小さな人形のつぶらだった瞳が赤く、怪しく光り始め顔をぐるりと一周させてアナンタの顔を向いた。
その挙動はさながらホラー映画のようであり思わず身が震えてしまう。
(ってかなんだ殲滅モードって!? 物騒な言葉言わなかったか? この子!?)
「いって、ゴレムリンちゃん!」
魔法が来る! アナンタは防御魔法を展開した。眼前にハニカム構造の壁が現れる。
防御魔法――原初の魔導師グラリエルが開発した現代魔法戦における最も利用される魔法の1つだ。
『エーテルブラスト。ファイアッ!!』
ゴレムリンの口がガパッと……顎が外れたかの様に開いた。
シュボッ――
その瞬間口内に見えたのは真っ白な光。
神々しいような眩しいような。そんな暖かな光が瞬く間に防御魔法を飲み込み――
(あれ? 防御ごと飲み込まれた?)
アナンタの目の前に光が広がった。
チュドオオオオオオオオオオン!!!!!
「な、なんだ!? 爆発?」
「せ、先生!? アナンタ先生!!」
「まずいぞ先生が吹っ飛んだ!」
「一体なにが! なにが起こったんだ!!!」
「テロだ! テロリストが先生をぶっ飛ばしたんだ!」
「ちょっと! 今はそんな事よりも早く先生を医務室に! このままじゃ死んじゃう!!!」
(え……私……どうなったんだ? 空を……舞っている?)
さっきまで地面に立っていたはずなのに何故か眼下に学生が見えた。
そして下から聞こえてくる心配そうな学生の声。
(意識が……遠のいていく……)
そんな中アナンタの耳に残った声は――
「あぁぁぁ。やっちゃった……やっちゃったよぉ〜」
『ダァイ。ダァイ。オールマス・ダァイ』
リーグレットの不安そうな声と、悪魔のような学言葉を吐き続ける使い魔型魔装具の声だった。
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