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第7話 魔法が使えないリーグレット、魔法実技に臨む。

 なんとか無事に講義を終えた今。

 外で待っていたバレンタインと合流したリーグレットは、中庭が見える吹き抜けの廊下のベンチに腰掛けて休憩していた。

 

「ふぅ……なんとかなって良かった……」

「またまた。お嬢様が授業についていけない訳ないじゃないですか」

「え? だけどバレンタイン。講義の前についていけるか不安だと言ってたじゃない」

「あれは授業にではなく、ご学友が出来るかと言う意味ですよ。世界で5人しか持っていない魔導師のあなたが今更、魔法基礎学で躓くとは思ってません」


 魔導師はこの国に5人しかいない魔法使いを導く魔の頂点的な存在だ。

 魔導師になる為には魔法に関する基本知識を全て網羅し、かつ新たな魔法を開発し、魔法学術学会に提出して魔導師達から認められなければならない。

 

 そんな魔導師にリーグレットは8歳の頃に到達してしまった。

 ただ友達と遊びたいという理由で。


「ち、知識だけなら自信……あるよ」

「お嬢様……」


 バレンタインが暗い顔を浮かべるのは恐らく彼はリーグレットの事情を知っているからだろう。

 魔法を使えない私がいかに魔法と向き合うか。

 この世界では何をするにも魔力の力が必要とされている。


 料理をするためのキッチンを使用するにも、家の扉に鍵を閉めるにもだ。

 そんな魔力が使えて当たり前の世界で、魔力が使えないリーグレットが行き着いた答えがゴーレムだった。


 ゴーレムに組み込んだ機能のおかげでリーグレットは体内の魔力でゴーレムを使役でき、ゴーレムを作る上で開発した魔装具で問題なく生活は送れている状況というわけだ。

 

 ゴーン……ゴーン……ゴーン……。

 鐘の音……予鈴だ。

 早く次の教室に向かわなければ間に合わなくなるだろう。


「バレンタイン。次の講義はなに?」

「次は……」


 手帳にリーグレットのスケジュールを書いているらしく、そういった点は実に執事らしい。


「次は魔法実技です。場所は第1グランド……」

「げっ……」


 本日2度目のピンチだ。

 しかも今度は実技ときた。

 魔法が使えないリーグレットにとってこれほど無駄で苦痛な時間はない。


「どうします?」

「どうするも……出るしかないんだし……。頑張るよ」

「お嬢様ぁ……」


 バレンタインの目から涙が溢れた。

 こうして自分の身を案じてくれるのはありがたいとリーグレットは思う。

 バレンタインのおかげで憂鬱な気分が幾分かマシになった。


 ***


 グランドに集まった学生達は友人とペアになっていたり、グループで集まっていたりしている。

 リーグレットはと言うと……まあぼっちだ。

 16になって学生生活をリスタートしたのまから友人がいないのも仕方のない話だ。

 だけど、こうして集団の中にポツンと取り残された状況に、ここに本当に居ていいのか? と不安になってしまう。

 

 そんな皆の手には魔導書に杖、あとは人形やら小型の魔物まで連れている。魔法実技は持ち込み自由なのだろうか……。


「す、すみま……せん」


 取り敢えず近くにいた真面目そうな女学生に聞いてみる。黒髪のクールビューティな彼女は私に声を掛けられるや物凄く嫌そうな顔を浮かべて見てくる。


「なに?」

「こ、この講義って持ち込みは、じ、自由なんでしょうか?」

「自由だけど? ってあなた見ない顔ですわね。留学生って辺りかしら……見たところ、魔法具を持ち合わせていないみたいですけれど……まあ持っていたとしても着いていけないでしょうね。私のように? 実力があるのなら話は別ですけれど!」


 ムッとしたリーグレットはこの生徒をクールビューティではなく怖い人だと頭の中にある辞書に登録した。

 

「そ、そんなあなたは……誰なんですか?」

「はぁ? まさかあなた。私をご存知ない?」


 知るはずがない。なにせ世の中の大半は興味がなく知ろうとしなかったのだ。

 そんなリーグレットが周りの学生を知り尽くしているはずがなく……。コクリと頷くのみだ。


「いいわ教えてあげる私はサリュース・リリベルタよ」

「リリベルタ……」

「ふふん! 流石にこの名前は知っているようね〜」

「いえ全く……」

「なっ!?」


 思いもよらぬ答えだったのかサリュースはガクッと肩を落とした。

 まるで下町のコメディアンのような反応だとリーグレットは思う。


「リリベルタを……侯爵の名を知らないですって!?」

「侯爵家……ですか。す、すみません無知なもので……あはは」


 侯爵という事はリーグレットの家より格上の存在だ。

 だが学園の中は、幸い地位による格差の持ち込みは御法度とされている。

 故にリーグレットのような彼女より身分が低い存在であっても同じように講義を受ける事ができるし、同じ空気を吸う事ができるのというわけだ。


 何も知らないリーグレットにサリュースは冷ややかに見つめられながら離れていく。

(悲しい。私何か間違ったことをしたのかな?)

 サリュースの後ろ姿を眺めていると厳つめの女性の声がグラウンドに響いた。


「さて貴様ら、集まっているな?」

「「はい!」」


 講義が始まるみたいだ。

 教師は女性。にしても彼女どこかで見たような気がするとリーグレットは腕を組んでムムムと頭を捻る。


「あぁ……今日もアナンタ先生かっこいいですわ……」

「ああ。流石、魔法師団若手No. 1と呼ばれるだけある。見た目に技術も上等だからな。彼女の講義が受けられるだけこの学校に入学してよかったと思えるよ」


(あー。だから見た事があるんだ)

 魔法師団と言えばこの王国におけるエリート部隊だ。

 魔導師は度々魔法の指導に魔法師団へ派遣されるのだが、勿論リーグレットも派遣されたことがある。

 ただ、向こうはリーグレットの存在を認識していないだろう。


 なにせリーグレットは、派遣される際、歳の若さから魔導師が侮辱されては困ると同僚の魔導師に言われ、自作ゴーレムに身に包んで一見鎧騎士のような見た目で表に出ていたのだから。

 

 それにしても魔法師団に入隊するにはかなり厳しい試験と隊員との模擬戦で認められないといけなかったはずだ。

 そんな場所にいるアナンタはかなり腕が立つはず。

 どうりで周りが彼女にウットリする訳だ。


「では早速2人1組になって実践演習を行ってもらう。はい、始め!」


(始めって……私……ペアいないんですけど!?)

 周りを見ると、元々のペアと組んでいたりグループで上手くペアを作っていっていた。

 リーグレットは焦る。周りを見て誰か1人あぶれている存在がいないか探すが……居ないようだった。

 だがリーグレットには奥の手があった。

 それは――

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