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第5話 リーグレット一息つく、そして新たな好物。

 結局その日は夕方近くまで拘束されていたらしい。

 バレンタインが来てくれたおかげで解放されたもののリーグレットは少し疲労が募っていた。

 

 詰め所を出たリーグレットは寮長との面談も早々に済ませたのだが、寮長に遅れた事情を話すと「それは大変だったわねぇ」と優しく声をかけてくれた時は涙が溢れたほどだ。

 

 そんなリーグレットは今バレンタインと寮の一室に足を運んでいるところだった。


「ここがこれからお嬢様がお過ごしになる部屋でございますよ」

「おー」


 貴族といえば豪華絢爛な広い部屋。

 甘ったるい香水の香りがぷんぷん漂う部屋とばかり想像していたのだが、蓋を開けてみればどうだ。

 人一人が生活するのがやっとのスペース。

 簡素なベッドに小さなクローゼット。正面に一つだけの窓と机が備わった物置小屋のような部屋だった。

 

(私、こういう小さい部屋……好きだなぁ)

 あまりに広いと気が散ったりなんだか自分がここにいていいのか不安になるのだ。

 

 だから屋敷の広い自室にはガラクタや発明品で埋め尽くして狭くしてあるのだが、元から狭いとそんな事しなくていいというわけだ。

 

「どうやら貴族でも庶民の生活を知ることを目的にした部屋みたいでかなり不評みたいですけど……お嬢様は大丈夫そうですね」

「うん! 私ここが気に入っちゃった。でもみんなは嫌いなの?」

「そうですね……普通は嫌いなんじゃないでしょうか、貴族の方はほら……見栄えに気を使う方が多いですから」


(見栄え……そういうものなの?)

 どうやら自分はは普通の貴族感からかけ離れているようだと改めて思い知らされた。

 リーグレットは部屋に入って荷物をベッドの上に置き、奥の窓を開け新鮮な空気を中に入れ込む。


「んー! 良い風……」

「そうしているとお嬢様も普通の女の子ですのに……」

「な、なに? 私は普通の女の子だよ?」

「そうですね……多少常識がなくて頭が冴え過ぎてる以外は……ですが」


 バレンタインの言葉のナイフがまたもやリーグレットの胸に突き刺さる。

 この人は私を虐めるのを楽しんでるのではないだろうか? とさえ考えてしまうほどの自然に出た言葉。

 そんな彼の言葉を誤魔化すようにリーグレットは鞄から下着やら替えの服やら取り出していく。


「バレンタインさん。ここまで来てくれてありがとう。ここからは私1人で大丈夫だから帰っていいよ」

「え……」


 バレンタインの顔が固まってしまった。

(あ、あれ? 私何か間違ったこと言ったかな?)

 

「そ、そんなお嬢様! 私はあなた専属の執事ですよ! 帰れだなんてそんな――」

「私専属? バレンタインさん……屋敷に居なかったと思うんだけど……」


 屋敷では彼がそばに居たことなど一切なかった。というかリーグレットにとって今回が初対面だ。

 それなのに専属と言われて戸惑うのはおかしい事なのだろうかとリーグレットは首を傾げた。

 

「それはあなたが部屋に引きこもってばかりで出てこないからじゃありませんか! 私はかれこれ5年、あなたの専属執事として屋敷で働いていたのですよ!」

「5年も!?」


 衝撃の真実である。よもやそこまでの古株だったのかとリーグレットはなんだか申し訳ないと少し反省してしまう。

 

「そこまで私に興味がないとは……いや、興味を持たれなくても良いのですけど……流石に傷つきますよ……」

「ご、ごめんなさい! 覚えました。覚えましたから。そう落ち込まないで〜」


 シュンとしたバレンタインに言うと、今度はパァとなった。表情豊かな執事だとリーグレットは少しおかしく思う。

 

「な、ならこれからよろしくね。バレンタインさん」

「はい宜しくお願いしますお嬢様。あと私の事はバレンタインで構いませんよ? 貴方の従者なのですから」


 そうしてリーグレットは軽く荷造りが済んだ所で夕食にしようと思ったのだが。

 生憎寮の食事は事前予約制らしく、夕方に訪問したリーグレットの分は無いらしかった。

 仕方ないので、バレンタインと共に街に出る事になったのだが。


「バレンタイン、あなたなにが食べたい?」

「わ、私ですか? いやいや、ここはお嬢様のお口にしたい物で構いませんよ?」

「いいや。せっかく知り合えたんだもの。バレンタインの食べたいものが私は食べたいな」

「お、お嬢様……」


 バレンタインは感動したように目を潤ませていた。

(ふふ。表情豊かな人、少し言葉が怖いけどこの人ならなんだか安心できるかも)

 

「で、では今日の食事はすき焼きにしましょう!」

「スキヤキ?」


 知らない料理が出てきてリーグレットの首がコテンと傾いた。

 

「ええ。私の故郷の料理なのです! 焼いた肉を最初に食べつつ、肉の脂が出たところに甘いタレを敷いて野菜を煮込む……。これが美味しくてですね〜」


 じゅるりと美味しそうな説明にリーグレットは涎が垂れてしまう。

(焼いた肉に、脂を染み付かせたタレ? 煮込み野菜……。スキヤキ……私の知らない料理だけれど、とても美味そう)


「うん。ならそれにしよ? バレンタイン案内よろしくね」

「ええ! では参りましょう! 確か王都にも東洋の料理を扱う店が何軒かあると耳にしましたから」


 そうしてリーグレットとバレンタインは初めてのすき焼きを堪能したのだが、これが思いの外美味しくて、リーグレットの好物トップ5にランクインする程記憶に強く刻まれた。

 

 何せ1番の驚きは生の卵に肉をつけるところだろう。

 向こうの国から取り寄せた特別な卵らしいが、生の卵とはあんなにもまろやかな味わいなのだとリーグレットは世界の広さを実感したのだった。

 

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